大和葛城山付近のススキ野の様子(写真:うりぽんさんの登山記録より)
文/鈴木志野
大阪・奈良・和歌山の県境に位置する金剛生駒紀泉国定公園の自然に親しんでもらおうと、1970年から5年の歳月をかけて整備されたのが、長距離自然歩道・ダイヤモンドトレールだ。その名は金剛山から連想される金剛石(ダイヤモンド)にちなんでつけられ、関西エリアを代表する人気縦走路として「ダイトレ」の愛称で親しまれている。そして近年ではこのルートを利用したトレイルラン大会が開催されるなど、活性化も図られている。

岩場や滝、草原といった変化に富んだ地形、ツツジやススキ、樹氷など四季折々の美しい風景、点在する史跡や寺社など、山歩きの多彩な楽しみに満ちたコースは、奈良県香芝市の屯鶴峯から二上山、大和葛城山、大阪府最高地点の金剛山、岩湧山を通り、大阪府和泉市の槇尾山に至る全長約45kmとなっている。総標高差は3500mをゆうに超え、弊社提供のヤマタイムの計算値ではピークを回避して最短ルートで歩いても、標準コースタイムは約22時間。

全ルートを1日で歩くのはハードなので、日を分けたり、テントやロッジを利用する計画を立てるなどして、ぜひ全ルート踏破を目指して歩いてみてほしい。
ダイトレの北端に位置し、万葉集の大津皇子への哀歌にも登場する二上山。標高517mの雄山と474mの雌山の2つのピークをもち、南側の竹内峠はかつて大和と難波を結ぶ要衝として遣隋使をはじめ多くの人が往来した。
山中には大津皇子の墓や聖徳太子の弟・麻呂子皇子が建立した鹿谷寺の跡などがあり、サクラやツツジ、ササユリなど花の山として知られ、現在はファミリーハイクでも人気がある。

コースはさまざまあるが、ここでは東から西へのルートを紹介しよう。加守・倭文・二上神社の左手にある登山道を進み、コナラやクヌギが美しい雑木林を登る。大津皇子墓を見たらすぐに二上神社が現れ、左奥が雄岳の小広い台地状の山頂だ。
雌岳へは木製階段を通り、馬の背を過ぎ、さらにひと登りする。山頂からは西に淡路島や明石大橋、東に大和三山や龍門山塊、大峰山脈までを一望できる。
下山は馬の背から鹿谷寺、竹内街道歴史資料館を経て、六枚橋バス停へ。帰りに太子温泉に立ち寄るのもいいだろう。
高低図
二上山と大和葛城山の間に位置する標高658mの岩橋山。その名にあるとおり山中に散在する岩が特徴的で、個性的な巨岩・奇岩・怪岩巡りのハイキングを楽しめる。
岩を楽しむなら山の西側、平石バス停から登山する。林道から始まる登山は、その後は急登を進み、やがて名石巡りが始まる。胎内くぐり、鍋釜石、馬の背石、鉾立石、久米の岩橋が現れ、三角点のある岩橋山山頂へ。
帰りは急坂を平石峠方面へ下り、高貴寺、磐船神社、平石城跡を進み、金剛山脈北部の眺めがいい尾根を歩き、展望台と102基もの古墳群を経て、近つ飛鳥風土記の丘にゴールとなる。ちなみに磐船神社は巨大な磐座が鎮座する神秘的な場所で、境内に舟形の岩が48あり、平石城は南北朝時代の城跡だ。
高低図
金剛生駒国定公園のほぼ中央に位置する標高959mの葛城山。和泉葛城山との区別から大和葛城山と呼ばれている。東南に大峰・台高山脈、西に瀬戸内海を一望し、この山域随一の展望を楽しめると人気が高い。また花の山でも知られ、春にはカタクリやショウジョウバカマ、初夏の頃はツツジ、秋には山頂付近にススキが広がることで、季節を問わずに訪れる人は多い。

山頂まで徒歩10分ほどのところまでロープウェイがかかり、山頂部は遊歩道が整備されていて手軽に楽しめるが、ここでは水平道を通り、歩きごたえのある櫛羅ノ滝へと下るコースを紹介する。
登山口の葛城山ロープウェイ駅から秋津洲展望コースを取り急登を登ると、やがて秋津洲展望台へ。春にはカタクリの群落が美しい自然研究路を進むと、遮るもののない展望の山頂に到着する。その後はつつじ園を過ぎ、婿洗い池、櫛羅ノ滝を経て、下山となる。
なお、ツツジの時期にはとくに混雑し、ロープウェイ駅の駐車場はすぐに満車になるので、早めの出発を心がけたい。
高低図
50近いルートがあるといわれ、大和葛城山と並んで人気が高く、この山域のシンボルとなっている金剛山。葛木岳、湧出岳、大日岳の3峰からなり、山中には楠木正成にまつわる史跡や千早城跡、葛城神社、国見城跡、そして山名の由来にもなった転法輪寺など史跡名跡が点在する。
カタクリやニリンソウ、クリンソウなどのお花畑も美しく、冬の樹氷も見もの。南側には金剛山ロープウェイがかかり、山頂には売店や展望台などがあり開けているが、ダイヤモンドトレール中の最高地点でもある1125mには聖域のため近づけない。

さまざまなバリエーションのコースがあるが、ここでは千早本道を往復する最もポピュラーな道を紹介。城跡や神社に途中、立ち寄りながら進む道は、ブナの樹木が多く、新緑や紅葉の頃はとくに美しい。山頂に到着したら、一ノ鳥居、湧出岳、国見城跡などへと足を延ばして、ダイトレ中で最も標高の高いエリアからの展望を楽しんで欲しい。
高低図
ダイヤモンドトレールの西端近くにある岩湧山。河内長野市が管理する北山腹にある「岩湧の森」には、周辺の自然情報の発信を行う四季彩館を起点に、みはらしの道、すぎこだちの道、いにしえの道などと名付けられた七ツ道が整備され、1日で全てのコースを巡ることもできる。ここではきゅうざかの道で登り、いわわきの道で下る、代表的なルートを紹介しよう。

四季彩館をスタートし、きゅうざかの道入口へ。ベンチで休憩を取りながら東峰方面に進むと、やがて岩湧山山頂に到着。下山はいわわきの道方面に進み、大阪湾などを望む展望デッキを経て、四季彩館へ戻る。
山頂は草原になっており、二上山から金剛山まで金剛山脈を一望する絶景を楽しめる。秋の黄金色のススキで覆われる景色は一見の価値がある。
高低図
コースを分けて日帰りで歩いたり、全行程を数日かけて縦走したり、登山者それぞれのペースで楽しめるのもダイヤモンドトレールの魅力の1つ。
ここではモデルルートとして、二泊三日の縦走コースを紹介しよう。歩く山はVol.1~5で紹介した山に加え、中葛城山、神福山、タンボ山、根古峰、横尾山の計10山のピークになる。

なお弊社刊行の『大阪府の山』では、大和葛城山の葛城高原ロッジ泊とタンボ紀伊見荘泊のプランを紹介しているので、ぜひ合わせて参照してほしい。また、記録を確認すると、テント泊やツエルト泊で全コースを踏破する人も多いようだ。
ちなみにトレラン大会の制限時間は8時間。大会コースは紀見峠までなので、ダイトレ全コースを踏破するわけではないが、相当の健脚者でないと制限時間内にゴールは難関だろう。
高低図