山岳・風景写真の教科書 第4回 ピントと被写界深度

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ピントと被写界深度を意識して撮影できると、鑑賞者に遠近感や、臨場感を与えることができます。自分の感動をイメージ通りに表現し、相手にも伝える作品を撮るために知っておきたいポイントを解説します。

文・写真=菊池哲男


今回のテーマはピントと被写界深度です。よく写真で使う言葉に「ピンボケ」や話のテーマが合わないときなどに「ピントがずれてる」とかといいますよね。このピントの語源はオランダ語から来ていると言われ、「焦点」=「フォーカス」と同義語です。今のカメラではカメラが自動的にピントを合わせてくれるオートフォーカスが当たり前になっていますが、ほんの30年くらい前までは写真を撮るのに自分でレンズのフォーカスリングを回してピントを合わせる作業が必要でした。オートフォーカス機能によるピント合わせには大きく2種類があります。画面全体で合わせる方法(作例①②③)とフォーカスポイントを動かして特定の被写体にピントを合わせる方法(作例②③④)です。

さて、被写界深度とはピントが合っている奥行きのことを言います。目の前のお花畑から遠くの山までピシッとピントが合っている(奥行きが深い)写真がある一方、近くの花だけにピントが合って背景の山がボケている(奥行きが浅い)写真もあります。この被写界深度(ピントの合う奥行き)で覚えておきたいのが、

  • レンズの絞り値が小さいほど浅い(ボケる)
  • レンズの焦点距離が長いほど浅い
  • 被写体までの距離が近いほど浅い
  • 撮像素子(イメージセンサ)が大きいほど浅い

ということです。

カメラで撮るよりもスマホで撮ったほうがボケない(奥行きが深い)のは、スマホの方が圧倒的に撮像素子が小さいためです。スマホの背景ぼかしは画像処理を利用しています。

ところでピントが合っているかどうかは鑑賞する写真のサイズにもよります。カメラのモニターやスマホ画面ではピントが合っているように見えた写真がパソコンの大きい画面で見たらボケていたなんてことがよくあるので、注意が必要です。撮りたいイメージやピントと被写界深度を意識し、作品をステップアップさせましょう。

① 手前のお花畑から奥の山までピントを合わせる

手前から奥までピントを合わせることをパンフォーカスと言います。被写界深度が深い状態で、絞りを絞る=絞り値を大きいほう(11前後)に設定する必要があります。被写界深度が深いと全体にピントの合った写真になり、鑑賞者はその場にいるような印象をもちます。代表的な山岳風景の撮影方法です。

「涸沢カールのお花畑と奥穂高岳」

撮影データ

絞り値 14
シャッタースピード 1/125秒

② 被写界深度の違いで変わる印象の例

手前の花にピントを合わせたときの絞り値による被写界深度の違いを見てみましょう。左の絞り値11の作例ではほぼ両方ともにピントが合っている状態で、自分の目で見た印象に近くなります。右の絞り値2.8の作例だと後ろの花はボケるので、手前の花の印象をより強めることができます。

「キヌガサソウ」

撮影データ(左)

絞り値 11
シャッタースピード 1/60秒
(被写界深度が深い)

撮影データ(右)

絞り値 2.8
シャッタースピード 1/800秒
(被写界深度が浅い)

③ 面で距離を一定にする

ほぼ真上から撮影することで花までの撮影距離が面で同じになり、画面全体でピントが合いやすくなります。チングルマの群落など、高山植物など小さい花のまとまりを切り取る撮影に向いています。

「チングルマの群落」

撮影データ

絞り値 8
シャッタースピード 1/125秒

④ 効果的にボケさせたいときはマクロレンズも有効

マクロレンズを使うと小さな高山植物により近づいて撮影ができ、水滴の中の映り込みも確認できるほど細部を大きく写すことができます。被写体までの撮影距離がかなり近くなることで背景のボケも大きくなります。

「朝露の付いたチングルマの穂」

撮影データ

絞り値 8
シャッタースピード 1/125秒

『山と溪谷』2024年8月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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山岳・風景写真の教科書

『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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