山岳・風景写真の教科書 第5回 露出とダイナミックレンジ

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露出とはカメラに取り込む光の量のことで写真の明るさを決めることです。いちばん伝えたい被写体の形や色が狙いどおりに撮影できるようになりましょう。

文・写真=菊池哲男


露出を決める要素にはレンズの絞り値、カメラのシャッタースピード、そしてISO感度があります。白い雪を撮影するとき、カメラの設定をオートで撮影すると白い雪がグレーに写ってしまい、雪を明るく表現するためにはプラスの露出補正が必要になります。そのためフィルム時代は絞り値やシャッタースピードを変えて撮影する段階露光(露出補正)が常套手段で、露出を極めるための写真教室が人気となり、ハウツー本が爆売れしたりしました。デジタルカメラになって、パソコンで後からレタッチできるようになり、あまり触れられなくなりましたが、フィルム時代は見た目でいちばんわかるので、最重要項目の一つでした。

一方、ダイナミックレンジとはカメラが再現できる明るさの範囲のことで、その範囲を超えると白飛び(明るすぎ)や黒つぶれ(暗すぎ)が起きます。スマホを含むデジタルカメラにはこのダイナミックレンジを補正する機能があり、設定でその効果の程度を調整したり、自動で利かせることで、白飛びや黒つぶれを防ぐことができます。ただし、ダイナミックレンジ補正は明暗差の大きい被写体を撮影するときに有効である一方、コントラストが浅くなるため、撮影シーンによってはメリハリのない画像になってしまうので注意が必要です。

たとえば朝焼けを撮影する際に暗い山の部分を多く入れるとそちらも明るく表現しようとして、結果として空の赤みが薄くなります。同様に、真っ赤に色づいた紅葉も露出がオーバー気味になると赤みが薄れてしまうので、被写体の中でどの色をいちばん重視するかを考える必要があります。

[作例1]
明ける秋色の涸沢カールと穂高連峰

写真-1

主題に露出を合わせたら、
ほかの箇所が黒くつぶれた

  1. この写真の主題、紅葉する山に露出を合わせた。山の紅葉は適正露出できれいに写っている
  2. 影の部分は露出アンダーになりかなり暗くなってしまった。もう少し池の様子も表現したい
写真-2

黒つぶれを修正したら、
主題が白飛びした

  1. 写真-1で暗すぎた池に露出を合わせる。凍った池に映りこむ山まで表現できた
  2. 主題の紅葉が露出オーバーで色あせてしまった。紅葉の色は写真-1に近いように表現したい
写真-3

山の紅葉を大事にしつつ、
下部の暗い池もつぶれないように表現

  1. 写真-1のように主題の紅葉に露出を合わせる
  2. 写真-1でダイナミックレンジ補正を「強」に設定することで、暗かった部分をつぶれないように表現

主題の紅葉の色づきはそのままに、副題の池もつぶれることなく表現することで見ためどおりに写すことができた

[作例2]
紅葉に染まるナナカマドと前穂高岳

写真-4

ナナカマドの鮮やかな紅葉を主題に、
背景の陰がかかった山も見せる

  1. この写真の主題、ナナカマドの赤色に露出を合わせた。赤色がきれいに表現できた
  2. 影部がつぶれないようにダイナミックレンジ補正を「強」にして撮影

主題のナナカマドを生かしつつ、背景の山や残雪も表現することで山岳地の紅葉ということを鑑賞者に伝えられた。また、影が紅葉の鮮やかさを引き立てている

スマホにもある便利な機能

HDR(ハイダイナミックレンジ)とは?

昨今の撮影機材にはHDRという機能が搭載され、露出の異なる複数枚の写真を撮影して合成することで通常のダイナミックレンジよりも広範囲な明るさが表現可になりました。そのため白飛びや黒つぶれがより少なく仕上がります。私自身の作品撮影ではほとんど使いませんが、スマホではこの機能を自動設定しており、スマホの方がよく写ると言われる便利な機能の一つです。

『山と溪谷』2024年9月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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山岳・風景写真の教科書

『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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