アルプスに登って夜景を撮ろう! 山岳フォトグラファー直伝、山での夜景・星空撮影のヒント
「せっかく街を離れて山に登るなら、夜景や星空を撮影したい!」。そんな登山者のために山岳フォトグラファーが撮影のヒントや気を付けておくべきポイントを解説します。
文・写真=伊藤哲哉
教えてくれたのは・・・

山岳写真家 伊藤哲哉さん
1969年神奈川県生まれ。南北アルプスを中心に山岳写真撮影をしている。山岳月刊誌や山岳ガイドに写真と記事を提供。『アルペンガイド「南アルプス」』、『分県登山ガイド「千葉県の山」』(いずれも山と溪谷社)を共著で出版している。
2020,2023年に写真展を開催。日本写真家協会(JPS)会員
山岳夜景を撮る魅力
私は山で夜の撮影を行なうとき、満天の星空を見て、広大な宇宙にロマンと神秘を感じ、眼下に広がる街明かりに産業技術の発展と日常生活に感謝の気持ちが芽生えます。せっかく山に登っているのですから、普段は見られない山岳夜景に感動し、自分のために撮影したい、あるいは家族や友人に体験として共有したいと思うのは、私だけでなく、多くの登山者も抱く自然な気持ちでしょう。
高感度デジタル一眼の精度がさらに向上し、軽量化されたこともあって、登山者にとって、山を楽しむための身近なツールになっています。
近年、ミラーレスデジタルカメラが主流となり、カメラのモニター精度も向上しているのでレンズ口径が大きく開放絞り値が小さい明るいレンズ(F値1.8、2.8など)でなくてもモニターを見ながら気軽に夜景撮影をすることができるようになりました。高精度のスマートフォンでも星空を撮影できますが、デジタルカメラで撮影した画像の方が質感や精度が優れているので、おすすめです。
平地でも夜景撮影は可能ですが、空気が澄んだ空と周辺の人工的な明かりの影響を受けにくい山岳での夜景撮影は非日常的な感動や体験を伝えやすくおすすめです。
撮影プランや安全確保、マナーを守れば、夜の撮影もできるので、今回はその撮影のヒントを簡潔にご紹介します。
夜間撮影の注意点
山岳夜景を撮るということは、山のなかで夜間行動をするということです。以下のような安全確保やマナーを守ることが大切です。
安全確保
- ヘッドランプや季節に合わせた防寒装備(特に冬は指先、足先に注意)を用意する
- できるだけ、明るい時間に撮影場所の下見をする
- 時期や山域、自身の登山スキルを考慮して撮影場所を決める
- 睡眠時間を確保する
- 登山経験の少ない人は山小屋、テント場周辺で撮影する
マナー
- 山小屋やテントから移動するときは、寝ている人に配慮して行動する(むやみにライトで周辺を照らさない、物音を立てないなど)
- 撮影場所においても大声を出さない、ライトを振り回さないようにする
撮影のプランニング
撮影はあくまでも登山の「楽しみ」の一部です。安全に夜間の撮影を行なうためにはプランニングが重要です。睡眠時間を確保するためにも、「日の出入り時刻」「月の出入り時刻」「月齢」を確認して、計画的に撮影スケジュールを立てることが肝心です。
作例と撮影のヒント!
【残雪期や冬の撮影】
澄んだ空気に星空が輝く冬や残雪期の夜は、絶好の撮影期です。ただし、この期間の登山は、しっかりとした登山的技術が必須であることを念頭に置いてください。また、自分のカメラの性能と操作方法をあらかじめ理解しておきましょう。
作例① 深夜の穂高連峰に流れる天の川
- 宿泊地:涸沢ヒュッテ
- 撮影場所:涸沢
- 撮影時期・時間:4月下旬 3時ごろ
- 使用機材・設定:【ボディ】Nikon D800E【レンズ】AF-S Nikkor 14-24mm f/2.8G ED【焦点距離】14mm 【ISO感度】3200 【F値】3.5【シャッター速度】30秒【その他】簡易赤道儀、三脚
撮影アドバイス
撮影主体とねらい:穂高連峰のダイナミックさとその上を流れる天の川をねらって撮影した。この時期であれば3時前に撮影するのがおすすめ。天の川は画面の左方向から右方向に流れていくので、山と天の川の最適な配置をねらった。
カメラ設定:超広角ズームレンズ広角側を利用してマニュアルモード撮影。高感度撮影する。天の川周辺の明るい星にピントを合わせ(ピーキング)、撮影する。
登山アドバイス
- 山小屋が営業開始するゴールデンウィークに撮影。山小屋を利用することで、宿泊のための装備を減らせ、そのぶん撮影機材や防寒着を持っていくことができる。
- 翌日の行動に支障をきたさないように、早寝を心がける。涸沢の山小屋に連泊すれば撮影に時間をかけることもできる。
作例② 靄の中から現れた白馬三山
- 宿泊地:八方池山荘
- 撮影場所:八方尾根 第2ケルン付近
- 撮影時期・時間:3月下旬 21時30分ごろ
- 使用機材・設定:【ボディ】Nikon D850【レンズ】AF-S Nikkor 24-70mm f/2.8E ED VR【焦点距離】30mm 【ISO感度】100 【F値】3.2【シャッター速度】900秒【その他】三脚使用
撮影アドバイス
撮影主体とねらい:白銀の白馬三山と北の星空の周回を表現した。どっしりと構える山の姿と、周回する星とのバランスを考え、山が3割くらい入るように撮影した。
カメラ設定:広角ズームレンズ広角側を利用して長時間露光モード(バルブ)撮影。明るい星を探してピーキングする。
登山アドバイス
- 小屋から離れるため、防寒装備と最低限のビバーク装備を持っていく。小屋にデポする荷物が少なければすべて荷物を携行する。
- この山域は日本海側の気候の影響を受けやすいため、晴天率が上がる3月に撮影するとよい。
- 山小屋から離れての撮影となるため、ベテラン向き。
- 夜間に移動するため天候判断は慎重に。
作例と撮影のヒント!
【夏の撮影】
作例① 雨上がりの夜空に天の川がかかる
- 宿泊地:北岳肩の小屋
- 撮影場所:北岳肩の小屋のテント場
- 撮影時期・時間:7月下旬 21時30分ごろ
- 使用機材:【ボディ】Nikon Z6 【レンズ】NIKKOR Z14-24mm f/2.8S 【焦点距離】14mm 【ISO感度】6400 【F値】3.2 【シャッター速度】10秒 【その他】三脚、フィルター
撮影アドバイス
撮影主体とねらい:天の川をはっきりと写したい場合は新月ごろの日を選ぶ。縦位置で撮影することで山容も写しつつ、天の川の迫力を表現することができる。山をあえて明るく調整(レタッチ)せずに、天の川の明るさと漆黒の山肌を表現するのがポイントだ。
カメラ設定:超広角ズームレンズ広角側でマニュアルモード撮影。高感度撮影する。天の川付近の明るい星を探してピーキングをする。
登山アドバイス
- 夏でも3000m付近の稜線上は、気温が低いので、防寒装備はしっかりと。
- 小屋から離れる場合、ヘッドランプはバッテリー充電を充分にした上で予備も持つ。
作例② 靄にむせぶ白峰三山の高峰と北天の星たち
- 宿泊地:北岳山荘
- 撮影場所:北岳山荘付近
- 撮影時期・時間:8月上旬 2時ごろ
- 使用機材:【ボディ】Nikon Z6 【レンズ】NIKKOR Z14-24mm f/2.8S 【焦点距離】14mm 【ISO感度】100 【F値】3.2 【シャッター速度】1500秒 【その他】三脚、フィルター
撮影アドバイス
撮影主体とねらい:山の姿が美しい場合は、全体における山の割合を増やす(このときは4割くらいは山が写るようにした)。北天の星空全体の光跡を描き、大きな山岳夜景であることを主張した。稜線上の登山者のヘッドランプの光跡を入れると、人の動きも表現できるので覚えておこう。
カメラ設定:
- 超広角ズームレンズ広角側でバルブ撮影。明るい星を探してピーキングをする。
- 強風の場合、岩石をストーンバッグに入れ三脚を安定させる。
登山アドバイス
- 夏でも3000m付近の稜線上は気温が低いので、防寒装備はしっかりと。
- 小屋から離れるため、ヘッドランプのほかツエルトなど最低限のビバーク装備を持っていく。小屋にデポする荷物が少なければすべて荷物を携行する。ベテラン向き。
- 夜間に移動するため天候判断は慎重に。
山岳夜景を撮る時間は、静かに景色と向き合うことのできる特別な時間です。撮影自体を楽しむのはもちろん、自分の能力や技術を高めて山岳雑誌、アウトドア関連会社、カメラ雑誌など、自然をテーマに作品を募集しているフォトコンテストにトライすることもできます。
さあ、カメラを持ってフォト・トレッキングに出かけましょう!
プロフィール
伊藤哲哉(いとう・てつや)
1969年、神奈川県生まれ、千葉県在住。北アルプス・南アルプス、房総の低山、上信越の山などを主なフィールドに撮影に通う。山岳雑誌に写真と記事を提供し、山と溪谷社から共著で『分県登山ガイド 千葉県の山』、『アルペンガイド 南アルプス』を出版。2020年12月、2021年4月に写真展「SEASONS~北岳~」、2023年6月に写真展「夏山讃歌~南アルプスの歌声」を開催。日本写真家協会(JPS)、日本山岳写真協会会員。
ウェブサイト:https://tetsuyaito.jimdofree.com/こちらの連載もおすすめ
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