下から見ると黄色、上から見ると白色。春の山肌を染めるミツマタを色々な角度から楽しむ
和紙の原料として知られる樹木、ミツマタ。関東では3月中旬から4月初旬に、一斉に黄色い花をつけ、群生地では斜面を独特の景色で染める。そんなミツマタをじっくり観察すると、いろいろ興味深いことが見えてくる。
文・写真=髙橋修
ミツマタはジンチョウゲ科ミツマタ属の低木で、名の由来は枝が3つに分かれるからで、よく見るとほとんどの枝が枝分かれのたびに3つに分かれている。
主に和紙の原料として室町時代に日本に渡来した、中国原産の低木だ。和紙の生産が盛んだった江戸時代には日本各地で栽培されていたが、現在は和紙の生産が少なくなったために、ミツマタの栽培地は激減している。


和紙として使われるのはミツマタの樹皮。和紙原料として使われるこの部分をとりだすのは手間もかかり、とれても少量である。それに対し、現在使われるほとんどの紙は材木が原料のパルプから作られており、大量生産に向いている。
しかし、今も山に残っているミツマタが生えていたリ、観賞用として栽培されていたりする場所もある。もちろん現在も和紙の原材料として使われているので、盛んに栽培している地域もある。
群生地では丹沢のミツバ岳や群馬県桐生市が有名だ。このような群生地では、ミツマタは桜(ソメイヨシノ)のように一斉に咲くので、花の頃には見ごたえのあるお花畑になる。またソメイヨシノと同じように、花の頃にはまだ葉が展開していないのも特徴のひとつである。

現在の日本のお札は和紙に近いものであり、丈夫で水にも強く、高い技術で作られている。山で財布を濡らしても、お札は乾かせば使えるほどだ。ミツマタはこの日本のお札の原料としても使われているが、日本ではミツマタの生産は減少している。
そのため、2024年の新札には日本のミツマタでは足りず、ネパールで栽培されているヒマラヤミツマタも使われている。ヒマラヤミツマタは日本のミツマタとは別種ではあるが、ヒマラヤの峰々を見て育ったヒマラヤミツマタが日本のお札に使われているのは、ちょっとうれしい。ちなみにネパールのお土産の定番はネパールの手すき紙で作った素朴なカレンダーである。


ミツマタは黄色の花なのに、なぜか白っぽく見えることがある。枝先に咲くミツマタの花は、多数の小さな花の集合体で、白く長い筒の先だけが開くと黄色になる。そのため、花の咲く向きと見る方向により、黄色にも白色にも見えるのだ。斜面では下向きに花を咲かせることが多く、見下ろすと白くなるので見上げると黄色に見えることが多い。ミツマタは変化があって、色々とおもしろい植物なのだ。


写真は群馬県桐生市の屋敷山と呼ばれている場所。ここには駐車場がなく、不死熊橋にある登山口から歩くことをおすすめする。この駐車場もミツマタの花の時期には混雑する。また途中の道路が非常に狭く、さらにくねくねした山道だ。なかなか行くのが難しい場所である。
★関連記事:春の低山を金色に染める花。ミツマタ群生地を訪ねるハイキングコース
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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