このエントリーをはてなブックマークに追加

奄美大島の「へんな植物」たち、ユワンツチトリモチ・ヘツカリンドウ

高橋 修の「山に生きる花・植物たち」
たしなみ 2018年11月29日

九州のはるか南方海上に浮かぶ奄美大島は、国内では手付かずの大自然が残る場所として知られる。そこに生きる植物たちを確認すると、常識を超える「へんな」ものがたくさん見ることができる。

 

晩秋の奄美大島に行ってきた。この時期の奄美大島は、まだ花がたくさん咲いているし、気温も暖かく体に優しいので、花を見るにはとてもいい時期と場所なのである。

奄美大島にはへんな植物が色々あって、その代表格が「ユワンツチトリモチ」だろう。奄美大島最高峰の湯湾岳で発見されたこの植物は、寄生植物なため葉緑素を持たず、植物全体がレンガ色をしていて、葉っぱも退化している。そのヘンテコな形と色は、初めて見た人の多くは恐らく、これを植物とは思わないで、赤いキノコか何かと思うだろう。

赤いキノコではなく、ユワンツチトリモチ

ユワンツチトリモチをアップで撮影、植物っぽさが見られない

遠目に見ると形はキノコのようだが、れっきとした植物である。そこに生えている木の根に寄生しているために、植物らしい姿を捨て去ってしまっているのだ。このため、エネルギーを貯めておく根茎と呼ばれる芋のようなものと、短い花茎に着いた鱗状の葉と、雌しべの先端部分であるレンガ色のラグビーボール形の雌しべの先端部分しかないシンプルさとなった。

あまりにシンプルに徹し過ぎたために、植物に見えなくなってしまったのだろう。繁殖方法も外見からは予想がつかない。

ユワンツチトリモチは奄美の山の中でひっそりと生えている。大きくなると落ち葉から頭を出すユワンツチトリモチも、小さいうちは落ち葉に隠れている。大きい個体の周りには大抵、小さい個体がある。

この小さいユワンツチトリモチを踏んでしまうと、枯れてしまって再び生えることはない。もし森でユワンツチトリモチを見かけても決して近寄ってはならない。なお 、寄生植物だから絶対に栽培することはできないし、奄美の山に生えている植物を採ったりすることは法律で規制されている。

もうひとつのへんな植物はヘツカリンドウ、九州の鹿児島県大隅半島辺塚(へつか)という場所で発見されたのが名前の由来だ。大隅半島のヘツカリンドウは花色が白色と緑色のものが多いが、奄美のヘツカリンドウは大型で花色も紫がかり、美しいものが多い。単なる地域差のようだが、まるで別種のようだ。

ヘツカリンドウの花は、蜜が花弁にあるへんな植物だ


ヘツカリンドウのへんなところが、花である。花をアップで見てみると、花弁に直径5mm程度の丸い模様がある。さらによく見てみると、なにやら水滴が付いている。実はこれはただの水滴ではなくて、花蜜なのである、多くの植物の花は、奥に蜜を隠しておくのだが、ヘツカリンドウは堂々と鼻蜜をさらしている。

スズメバチや大型のハナアブなどに花粉を媒介してもらうためだと思うが、まったく植物というのはいろいろなことをやってみるものである。

 

訪問中は奄美大島最高峰の湯湾岳にも登ってみた。車である程度の標高まで上がることができ、山歩きとしては軽いものなのだったものの、2018年の台風の影響で途中の林道が崩れている場所が多く、事前に確認の必要があった。

とても滑りやすかった湯湾岳の木道階段


あいにくの悪天だったものの、静かでいい山歩きだった。途中まで木道で木の階段が整備されているのだが、この木道、雨に濡れると恐ろしく滑りやすく、けっこう危険である。なんとか木道を抜け、お寺と神社の傍から山道に入る。

しばらく登っていくと、晩秋のこんな時期なのに屋久島純連が一輪だけ咲いていた。しばらくジャングルを歩くと、やはりジャングルに囲まれた湯湾岳の山頂に着いた。展望は全くない。
往路は滑らないように慎重に下った。雨降っていたためか静かな山歩きだった。

奄美大島最高峰の湯湾岳の山頂。ジャングルに囲まれて展望はない


※ユワンツチトリモチは、近年ヤクシマツチトリモチと同種であることがわかり、分類上ユワンツチトリモチとは言わず、正確には写真の種はヤクシマツチトリモチになります。

自然観察 日本の山
教えてくれた人

高橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒高橋修さんのブログ『サラノキの森』

同じテーマの記事
トガクシショウマを見て考えたこと―― 珍しい植物を守るため自生地を詳しく書かない、自生地に踏み込まない
珍しい植物を見たら、写真を撮ってSNSやブログにアップしたい気持ちは理解できるが、その前に少しだけ考えてほしい。写真を撮る前、そして撮ってからの行動は慎重に行う必要がある。登山、そして植物愛好家の“たしなみ”として知ってほしいこと――。
沙羅双樹の花の色は? 野生のサラノキが咲くネパール・ヒマラヤで満開のシャクナゲと共に楽しむ
「沙羅双樹の花の色」という平家物語の冒頭の一節は有名だが、沙羅双樹はどんな木で、どんな花の色か知っているだろうか? 植物探検家の高橋修氏は、沙羅双樹すなわちサラノキ(シャラノキ)を見にネパール・ヒマラヤ山中に向かった。
「山歩きしながらの植物写真撮影」に向いた、オススメのカメラとレンズ
図鑑に載っている写真のように、植物を撮影するのは意外と難しい。うまく撮影するには、やはりカメラ機材にも気を使いたい。今回は、植物写真に向いたカメラについて説明する。
節分に咲くのか? セツブンソウの不思議
節分の頃に咲くから「セツブンソウ」と名がついたというのは本当だろうか? 例えば埼玉県・秩父の自生地で咲くのは3月に入ってからで、節分はだいぶ過ぎている時期に思うのだが――。
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

曇一時雨
明後日

曇時々晴
(日本気象協会提供:2019年8月18日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW プレゼント盛りだくさんの大アンケート!
プレゼント盛りだくさんの大アンケート! みなさんはどんな山道具を使ってますか? 情報源は? 購入方法は? プレゼントも当たる大アンケートにご協力お願いします
NEW ホーボージュンさんが語るグレゴリー「バルトロ」
ホーボージュンさんが語るグレゴリー「バルトロ」 『山と溪谷』の連載「GTR」を担当するホーボージュンさんが、その裏話と、グレゴリーの大型バックパックについて語る!
NEW 移住説明会も開催! 大町市に移住した家族の物語
移住説明会も開催! 大町市に移住した家族の物語 子育ての環境を優先して長野県大町市に移住したという屋田さんご家族。自然が近く、生活も便利という大町暮らしを聞いた。
NEW トラブル知らずの快眠ギア。ニーモ ケヤン35&スイッチバック
トラブル知らずの快眠ギア。ニーモ ケヤン35&スイッチバック 画期的な新商品が、すべての登山者に快眠を約束してくれる。ニーモの革新的シュラフと高機能マットを紹介。
NEW 吸汗・拡散・速乾! finetrackのドラウトゼファー
吸汗・拡散・速乾! finetrackのドラウトゼファー finetrackが独自に開発した生地を使用した「ドラウトゼファー」を専門店スタッフがフィールドテスト! その実力は?
NEW 760g! 最新ソロテントをテスト/山MONO語り
760g! 最新ソロテントをテスト/山MONO語り 山岳ライター高橋庄太郎さんの連載では、ダブルウォール自立式のニーモ「ホーネットストーム1P」をテスト! その実力は?
レベル別! 飛騨から登る北アルプス登山ガイド
レベル別! 飛騨から登る北アルプス登山ガイド 小林千穂さんを案内役に、乗鞍、槍、双六、笠など6つの山を紹介! タイトルフォトは写真コンテストの作品から順番に!
カリマー「クーガー」がアップデート!
カリマー「クーガー」がアップデート! 中・大型バックパック「クーガー」は、パッド類を刷新しフィッティングや快適性が向上。
NEW 毎日が絶景! 小岩井大輔の富士山頂日記
毎日が絶景! 小岩井大輔の富士山頂日記 富士山頂でしか見られない絶景が、ほぼ毎日! 写真家・小岩井大輔の富士山頂日記は今年もCool!
NEW ロープウェイで登れる百名山
ロープウェイで登れる百名山 ロープウェイやリフトなどを使って、一気に標高を稼げる百名山はいくつあるかご存知?
王道の北アルプス縦走コースを歩こう
王道の北アルプス縦走コースを歩こう 森林限界を越えた稜線に、果てしなく続く縦走路。稜線歩きの醍醐味を思う存分楽しめる、北アルプスの縦走コースを紹介。
憧れの3000m峰に惜しい山に注目
憧れの3000m峰に惜しい山に注目 夏はやっぱり3000m峰に挑戦! と言いたいところだが、惜しい山にも3000m以上の魅力がたっぷりです。