日本百名山、そして東京都最高峰として知られる山、雲取山。東京随一の景色や、山頂からのご来光が美しいことから、都民でなくてもぜひ一度は訪れたい山だ。標高が2017mあることから、2017年には「2017年の山」としても話題にもなった山でもある。
植林の多い奥多摩の山々にあって、最奥に位置する奥多摩は自然林も多い。山頂直下には高山植物が可憐に咲く花畑が広がり、サルやカモシカなどの野生の動物との遭遇のチャンスも多い。ただし、クマの出没も多く報告されている場所なので注意が必要だ。
また、登山道途中にある数々のスポットも楽しい。石尾根登山道にある雲取山名物といわれるダンシングツリー、七ツ石神社、三峯神社、など撮影・観光スポットも見逃せない。
雲取山へは一年を通して登山できるが、夏は蒸し暑く虫も多いので、最も良い時期はミツバツツジなどの花や新緑の美しい5月~初夏と、紅葉を楽しめる10~11月となる。冬の間は、それほど多くはないものの積雪はあるので、雪に対する装備は必須となる。とくに2~3月の南岸低気圧が都心に雪を降らせるような天候になると、雲取山周辺は大雪になり、ラッセルを伴う本格的な雪山となることもある。
しかし、あえて神秘さを増す積雪時期にこそ登るという上級リピーターも多い。雪は4月中旬頃には消えるが、年によってはゴールデンウィークまで積雪や降雪が見られるので、装備には注意したい。
雲取山は難易度でいうと中級者向けで、コース上には岩場や滑落危険箇所などは多くはないが、山頂まではロングコースが多く、体力が物を言う。また、登山道によっては薮など道迷いに注意が必要な場所もいくつもある。
日帰りが可能なコースもあるが、余裕のあるタイムスケジュールで泊まりがけをおすすめしたい。山小屋泊なら、トイレ設備や水場が整い年間1万人もの登山者が訪れる山頂の雲取山荘、コース途中の石尾根にある七ツ石小屋、温泉を楽しめる三条の湯などを利用する。宿泊施設が充実していることから、はじめての山中泊登山に挑戦する山としてもオススメだ。
なお、テント泊なら雲取山荘、七ツ石小屋で可能だ。避難小屋もいくつかあるが、緊急時以外の利用は禁止なので、避難小屋泊まり目的の登山はNGだ。
登山口は雲取山を囲んで東京・奥多摩、埼玉・秩父、さらには山梨県の各方面にあるので、それぞれの場所から入山して縦走できるのも魅力だ。登山道を繋げば奥秩父のずっと奥まで足を伸ばすこともできるので、体力やスケジュールに合わせてさまざまアレンジしてみよう。
雲取山は東京と埼玉、山梨の県境にあり、山頂の標識は長年東京側と埼玉側に2つ建てられていたが、2016年の山の日の制定を記念して、一等三角点のすぐ隣に統一され、新しく設置されている。
山頂までの最短ルートで、多くの登山者が利用しているのが鴨沢~七ツ石~雲取山のコースだ。水場や休憩場所が途中にあり安心感も高いが、往復の歩行時間は約10時間。陽の長い時期で健脚者ならば日帰りも可能だが、できれば泊まりのスケジュールを組み、都会に近い広大な森をたっぷりと堪能しながら歩きたい。雲取山荘に1泊する行程が一般的だが、途中の七ツ石山小屋に泊まるのもいいだろう。
JR奥多摩駅からバスでアクセスできる鴨沢が登山口で、小袖乗越には村営の駐車場も用意されている。小袖川に沿って歩くコースは水場もあるのが嬉しい。
七ツ石小屋で小休止を取り石尾根へと進むと、標高1757mの七ツ石山頂から向かう雲取山の勇姿を眺められる。雲取山名物のダンシングツリー、五十人平、雲取奥多摩小屋、小雲取山を過ぎると、いよいよ雲取山山頂だ。
富士山や奥多摩、奥秩父、大菩薩嶺、南アルプスのパノラマを十分に満喫したい。
高低図
雲取山の南西の麓には、「三条の湯」という温泉宿がある。ヌルヌルとしたナトリウム分の多い良質の天然温泉の周囲には樹齢数百年の大木も立つ原生林が広がり、ツツジや紅葉が美しい。この人気の温泉宿を利用して雲取山を目指す、贅沢なコースを堪能してはどうだろうか。
登山口は、先の鴨沢コースの少し先のお祭バス停からとなる。ここから三条の湯までは林道歩きが長いが、その疲れをゆっくり三条の湯で癒やしたい。
三条の湯からは青岩鍾乳洞分岐を経て三条ダルミへ。このあたりから南に富士山の眺望が美しい。雲取山山頂までは息が切れるほどの急登が続くが、山頂では大パノラマが迎えてくれる。
山頂からは雲取山荘に宿泊しても良いし、帰りにも三条の湯に泊まるのもオススメだ。時間があれば飛龍山(大洞山)まで足を伸ばしてみるのも良いだろう。
なお、入山口のある「お祭」バス停へは、バス便が少ないので時刻表のチェックを忘れずにしておこう。下山はアクセスの良い鴨沢方面に進むことも検討したい。
高低図
雲取山の北側、埼玉県・秩父から雲取山を登り、東京都側へと下山するコースは、縦走登山の入門コースとしても人気のコースだ。ヤマトタケル伝説やお犬様信仰などが残る関東最大のパワースポットの1つ、三峯神社を起点に、三峰の名前の由来にもなった白岩山と雲取山の2つのピークを通る。
コースタイムも長くアップタウンも険しいが、要所にベンチや標識、休憩小屋などがあり安心感のあるコースだ。コース中は随所で展望も開けるので飽きることがない。奥秩父特有の原生林や美しい苔の絨毯を楽しみながら、ゆっくり時間を使ってマイペースに奥秩父の自然を感じながら山旅を満喫したい。ちなみに三峯神社境内には宿泊施設や温泉もあり、前泊しても楽しいだろう。
西武秩父駅からバス便で三峯神社を出発し、白い鳥居の奥をくぐると本格的な登山道となる。ブナ林の中を、展望の良い和名倉山、霧藻ヶ峰、そして白岩山へと進み、約6時間の行程で雲取山荘へ。翌日に雲取山頂を経たあとは、鴨沢方面へと降りるのが最も近いが、三条の湯方面や石尾根を下って奥多摩駅を目指すのも良いだろう。
なお、三峯神社で毎月1日だけ頒布される「白い氣守」は2018年5月で終了している。
高低図
雲取山頂から東へは「石尾根」というなだらかな尾根が、青梅線奥多摩駅方面へと伸びている。雲取山から七ツ石山を経て、秀麗な山容と眺望が人気の鷹ノ巣山、そして六ツ石山へと続いたのちに奥多摩駅へと続く尾根のことだ。
標高差は1500m以上、距離も20kmに迫る長大な尾根は、健脚自慢ならばぜひ挑んでみたい。もちろん奥多摩からの登りでの利用も可能だが、雲取山からの下山に使うことをお勧めしたいコース。雲取山荘に泊まり、山頂を経て下山するとコースタイムは約7時間、早朝に出発して存分に多彩なコースにを楽しみたい。
雲取山から下山すると、右手に富士山や南アルプスを望みながら、鴨沢方面・日原川方面への登山道が交差するブナ坂を経て、カラマツ林を登り切ると七ツ石山へ。
5月下旬にはツツジが美しい千本ツツジを経て、奥多摩の山々や丹沢や富士山の眺望が美しい鷹ノ巣山を進み、さらに標高を下げて石尾根最後のピーク、標高1478mの六ツ石山へ――。
そこからは、秋には紅葉の美しさが評判のゆったりとした広さの山道を進み、氷川の街並みを見下ろすようになると目指す奥多摩駅はようやく近づいてくる。
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人気の山である雲取山は、どの登山道にも多くの登山者が行き交っている。そんな中で、雲取山頂から北東方面へと進むと東に伸びている「長沢背稜」は、登山者の姿もまばらだ。山深い奥多摩を感じながら静かに山歩きを楽しめるが、そのぶん距離も標高差も長大なので、経験も体力も必要だ。しかしそこは、初夏は新緑やツツジが、そして秋は紅葉が非常に美しいので、行く価値は十二分にある。
登山口となる東日原から酉谷山までは小川林道を通るコースが最短だが、現在は落石の危険から車両・歩行者ともに通行止めになっている(2018年現在)。現在は東側のヨコスズ尾根から天目山(三ツドッケ)や大栗山から目指すのが一般的だ。
登山口の東日原までは奥多摩駅からバスでアクセスできるが、このコースでは早朝の出発が必須のため、登山口近くに前泊することも検討したい。
東日原からは急登のヨコスズ尾根を進み、一杯水避難小屋を経て天目山へ。その後は大栗山、七跳尾根分岐、酉谷峠、そして標高1718mの酉谷山山頂あたりまで進むと、ようやくコースの半分。少し下った避難小屋近くには水場もあるので補給したい。濃い緑が続く長沢背稜からの展望はあまり得られないが、避難小屋周辺からは遠望が望める。
その後もアップダウンを繰り返しながら芋ノ木ドッケへ進むと、三峯神社からの登山道と合流する。東日原からのコースタイムは約11時間、距離は20km以上、標高差も1500m近くあるので、陽の長い時期にトライしたい。
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