| 旭岳ビジターセンター
2022.05.17
旭岳温泉から姿見までの登山道はまだ完全に残雪の下です。道迷いに注意
北海道というと、地平線まで見渡す畑や牧草地など平坦なイメージも強いが、じつは広大な山岳地帯からなっている。中央部には道内最高峰の旭岳や黒岳、トムラウシ山、十勝岳を有する「北海道の屋根」と呼ばれる大雪山系、道北には利尻山や礼文岳、道東には火山の羅臼岳や硫黄山、斜里岳、雌阿寒岳。さらに、「北海道の背骨」と呼ばれる日高山脈や、羊蹄山など、山の総数は都道府県で一番多く、約1300山ともいわれる。
気候については、北海道自体が高緯度にあるため、森林限界が低く、積雪期が長いのが特徴だ。本州の山と比較して、1000mプラスして考えるといい。4月はまだ雪が残り、5月は雪の多い大雪山やニセコではスキーに絶好の季節。6月には低山で山開きが行われ、7月には高山植物が開花して華やかな季節が到来する。9月は低山では残暑が続くが、高山では紅葉が始まり、上空に寒気が入れば旭岳や黒岳で初雪を観測する。紅葉の旬は9月下旬から10月半ばで、10月下旬から雪の日が増え、11月以降は再び山スキーの出番となる。そして12~3月には積雪量が増え、時にはマイナス25度を下回り、稜線は風と雪の世界に包まれる。
営業小屋がほとんどないことも、北海道の山に登る上で知っておきたいことひとつで、本州の北アルプスなどと大きく異なる点だ。高山で管理人がいるのは、黒岳石室と白雲岳避難小屋、帆尻山荘、羊蹄山避難小屋のみで、食事の提供はない。避難小屋も少なく、山中にはトイレもほとんどないので携帯トイレは欠かせない。
このように、人の手が入っていない奥深い原始の森や河川が残り、ヒグマやキタキツネなどの希少な野生動物が生息する北海道の山。何より魅せられるのは、我々人間がこの広大でダイナミックな大自然の中では小さくひ力な生き物に過ぎないことを実感させられるからなのかもしれない。
今回はそんな魅力にあふれた憧れの北海道の山の中から、7つの名山・コースを紹介しよう。
「北海道の屋根」と呼ばれ、日本百名山にも数えられる大雪山。北海道の中心部に位置する大雪山国立公園に属する山域をさし、面積は神奈川県に匹敵する。ここで紹介するのは大雪山の中でも人気の高い、道内最高峰2291mの旭岳と黒岳を結ぶ縦走路だ。コースタイムは約8時間。
スタートは旭岳温泉から標高1600m地点までロープウェイで登った姿見駅。すでに森林限界を超えているので、コースは吹きさらしの高山帯がほとんどになる。遊歩道をめぐると姿見ノ池の端に避難小屋の旭岳石室があり、ここからは火山礫地の尾根を登る。やがて旭岳の山頂に着くと、視界は360度に開け、トムラウシ山や十勝連山、御鉢平を囲む山をのびやかに望む。そこからは間宮岳、中岳分岐、北鎮分岐へと進み、北鎮岳へ。さらに御鉢平の眺めを楽しみながら黒岳石室へと進み、黒岳山頂に到着する。下山はリフトで道内有数の観光地・層雲峡温泉へと下ろう。
アプローチが容易で温泉地をつなぐとあって、夏の花や秋の紅葉のシーズンには多くの登山者で混雑する。時期をずらし、少人数の山行をすすめたいが、6月はまだ残雪が多く読図力も必要になる。そして、9月上旬には道内で最も早く初雪が降るので、防寒対策を万全にしよう。
姿見駅から旭岳の周回も可能で、旭岳登頂後に中岳分岐から中岳温泉に下り、裾合平を経ると姿見に戻る。コースタイムは約7時間。
高低図
| 旭岳ビジターセンター
2022.05.17
旭岳温泉から姿見までの登山道はまだ完全に残雪の下です。道迷いに注意
旭岳と十勝岳の中間地点に立つ、日本百名山のトムラウシ山。標高は2141mで、大雪山系のひとつでありながら独立峰のようなどっしりとした風格が魅力で、多くの縦走者が訪れる憧れの山だ。山頂までのアプローチはどこを起点にしても遠く、「大雪山の奥座敷」とも呼ばれている。中腹には日本庭園、トムラウシ庭園、黄金ヶ原などと呼ばれる花畑や高層湿原の湖沼が点在し、上部は巨岩が積み重なり、氷河期の生き残りといわれるナキウサギも生息する。
最短ルートは、トムラウシ温泉から短縮コースを通り、カムイ天上、前トム平、山頂へ至るコースだ。日帰りコースと設定されているが、総タイムが約11時間で、標高差1491mと健脚向けだ。山頂下には、ロープが渡されたテント区域と携帯トイレブースがある南沼キャンプ指定地がある。トイレマナーが問題となっていたが、近年は携帯トイレブースの設置により、少しずつ改善されている。
1泊2日ルートは、クチャンベツ沼ノ原登山口からスタートし、沼ノ原、五色ヶ原、ヒサゴ沼避難小屋で1泊。翌日にトムラウシ山に登り、最短ルートをトムラウシ温泉へと下る。沼ノ原の開放的な湿地歩きや特徴的な植生、花畑を楽しみながら、石狩連峰や五色岳を望み歩こう。
高低図
十勝岳は大雪山公立公園の南部に連なる活火山で、北海道の火山の中でもとくに知られる山だ。火山活動のため森林限界が低く、噴火のたびに地形や登山道も変わり、火山灰で道がはっきりしない部分もある。近年では1988年末に噴火し入山規制が行われた。そして、美瑛岳も頂上南西面に荒々しくえぐられた古い火口があり、強烈な迫力を見せる。ここでは、この2つの火山をめぐるコースを紹介しよう。
スタートは、山々の眺望が素晴らしく、観光名所としても人気の標高930mにある望岳台で、吹上温泉分岐へと進む。さらに、雲ノ平分岐を十勝岳避難小屋方面へ向かい、やがて標高2077mの十勝岳山頂へ到着する。山頂からは十勝連峰や表大雪の山々、富良野盆地越しに芦別岳など、360度ぐるりと好展望を楽しめる。さらに、白い噴煙が足元から立ちのぼり、硫黄臭が鼻をつくのも活火山らしい。その後は縦走路分岐を進み、美瑛富士分岐を経て、美瑛岳へ。ポンピ沢源頭の急峻な谷越しに十勝岳が優美な裾野を広げる様子が見える。下山は雲ノ平方面に進み、約9時間半のコースタイムだ。
登山適期は雪渓を楽しむなら6~7月上旬、カラフトイソツツジも見頃だ。8月にはエゾオヤマリンドウが雲ノ平近辺で美しく、紅葉は9月半ばにピークを迎える。
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知床火山群の主峰として知床半島中央にそびえ立つ、標高1661mの羅臼岳。成層火山上部に鐘状火山をのせたような形をしており、アイヌ語ではチャチャ・ヌプリ(爺爺岳)、古くは良牛岳とも記された山だ。羅臼町羅臼温泉からと斜里町岩尾別温泉からの2ルートがあるが、ここではコースタイムが短く、迷いにくい岩尾別温泉からの山頂往復コースを紹介しよう。
スタートは岩尾別温泉で、尾根道を進むと岩場に到着し、山麓に知床五湖の展望が望める。そこから水場の弥三吉水を過ぎ、ダケカンバのトンネルが続く極楽平へ進み、羅臼平まできつい登りになる。このあたりは雪解け後にはキバナシャクナゲやイワウメ、エゾツツジ、エゾコザクラが美しい。やがて羅臼平に着き、そこから巨岩の急登を1時間弱登ると羅臼岳山頂だ。
もし日程に余裕があるなら、羅臼岳から硫黄山へ縦走し、カムイワッカへ下山する1泊2日のコースも検討するといいだろう。
なお、羅臼岳周辺は近年ヒグマの出没が多く報告されており注意したい。熊鈴を携帯したり食料はフードボックスに入れておくと被害防止になる。知床自然センターでは知床の自然解説のほか、ヒグマ対策用グッズの貸し出しも行っているのでチェックしよう。
高低図
アイヌ語で「マチネシリ」(女山の意。尻別岳のピンネシリ(男山)と対をなす)、またその美しい姿から「蝦夷富士」とも呼ばれる独立峰の羊蹄山。標高1898mのその堂々とした立ち姿は、道西の山を代表する風格を備える。高山植物が豊かなことから倶知安側一帯は国の天然記念物にも指定され、その希少価値も高く評価されている。夏場の登山コースは4つあるが、ここでは南側の真狩コースを紹介しよう。
登山口は羊蹄山自然公園のキャンプ場奥にあり、まずは森林帯を進んでいく。七合目を過ぎるとイワブクロやウラジロタデなどの火山らしい植生が現れ始め、九合目の避難小屋に到着する。このあたりの斜面には夏にはキバナシャクナゲやハクサンチドリ、チシマフロウ、エゾノツガザクラなどが咲き乱れる。さらに真狩分岐の山頂火口の外輪に出ると景色は一変し、父釜と呼ばれる直径750mの火口の迫力に圧倒される。やがて山頂に到着すると、外輪と同時に山麓の展望も抜群に望める。
スキー場としても人気の羊蹄山だが、5月中旬頃まで春スキーが盛ん。そして6月中旬からは、雪解けにともなって8月いっぱいは高山植物の花を楽しめる。9月初めからは紅葉が色づき始め、初雪もある。
なお、独立峰で気候の変化が厳しく、コースタイムも約9時間と体力が必要なので、余裕のあるスケジュールを組んで出発したい。
高低図
阿寒湖をはさんで向かい合う雄阿寒岳(アイヌ語で「ピンネシリ(男山)」に対し、「マチネシリ(女山)」と呼ばれる雌阿寒岳。標高は1499mで、日本百名山にも選ばれている。活火山のため森林限界は低く、ハイマツ帯の上部には火山礫地が広がり、南隣には阿寒富士が並び、西麓にはオンネトーやポントーなどの堰止め湖を抱く。コースは東側に1本、西側に2本あり、ここでは雌阿寒岳温泉から登頂し、阿寒富士分岐を経て、オンネトー国設野営場に下るコースを紹介しよう。
まずは登山口にあるアカマツエゾ林を抜けて進むと、植生がハイマツに変わり、四合目あたりから礫地に変わる。火山らしい花々が現れ始め、メアカンフスマなど雌阿寒岳の名前がついた花にも出会える。山頂付近は火口が大きく落ち込み、底には赤沼や青沼といった沼地が不思議な水の色をたたえている。そして、湧き上がる噴煙が火山のもつ秘めたパワーを感じさせる。途中、余裕があれば阿寒富士に登ると、雌阿寒岳の全貌をまじかに望め迫力満点だ。
登山シーズンについては、雪解けは早いが花が咲き揃うのは7~8月。メアカンフスマは7月上旬頃から見られる。9月中旬からは山麓の紅葉が楽しめる。
火山活動によって登山規制が行われることがあるので入山前には確認しよう。また、火山礫地はどこでも歩けてしまい、特に火口側の崖が険しいので注意が必要だ。
高低図
深田久弥『日本百名山』の最初に登場する山が、この日本最北端の利尻山だ。アイヌ語でリィシリ(高い島)という意味からも分かるように、その美しい山容は古くから航海や漁場の目印とされ、さらに海の安全や豊漁のために信仰の対象とされてきた。明治23(1890)年頃に、修験者・天野磯次郎が山頂まで登山道を開削したと伝えられている。
紹介するのは、鴛泊から徒歩で1時間ほどのところにある利尻北麓野営場をスタートする山頂ピストンコースだ。まず野営場をスタートし、最初のピーク・長官山への長い登りを進む。このあたりは道内屈指の針葉樹林帯でエゾマツやトドマツが美しい。林を抜けると六合目の第一見晴台へ。眼下には鴛泊の港や隣に位置する礼文島・礼文岳を一望する。さらに進むと長官山に着き、尾根を少し進むと携帯トイレブースもある利尻避難小屋に到着する。ここから山頂へは急斜の礫地で、右手にローソク岩を見つつ、狭い山頂に到着する。山頂の礫地は高山植物が咲き、夏休み期間には登山者が多く足を運ぶ。静かな山を楽しみたいなら7月前半か8月中旬以降がおすすめだ。
このコースは歩行時間は7時間40分と長めで、標高差も1500m以上あり、天候判断力も必要な経験者向きのコースなので、無理は禁物だ。また山頂付近は海からの強風が吹きあげるので装備も万全にしよう。
高低図