行程・コース
天候
晴れ
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
奈良県側からのアプローチ。国道169号線(東熊野街道)から県道40号線へ折れ大台ケ原を目指す。カーナビには大台ケ原ビジターセンターをセット。駐車場は大きいが、6時の時点で満車になる程。早めの到着がおすすめ。
この登山記録の行程
大台ヶ原駐車場(06:28)・・・シオカラ谷吊橋(06:53)・・・大蛇嵓(だいじゃぐら)(07:28)・・・牛石ケ原(08:18)・・・尾鷲辻(08:45)・・・正木ヶ原(08:59)・・・正木峠(09:39)・・・▲日出ヶ岳(10:05)・・・大台ヶ原ビジターセンター&駐車場(11:39)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
満天の夜空を見上げ、「よし、奈良に行こう!」と行きを決める。もちろん、福井の空を見ても奈良の天気までは判断できないが、距離が遠いためうじうじ悩んでいたが、澄んだ空気の夜空を見上げたら、念願の大台ヶ原に行くなら今日しかないと思った。
夜通し車を走らせ、大台ヶ原を目指す。
カーナビを読み間違えて、国道169号線(東熊野街道)から県道40号線の分岐を通り越してしまい、和佐又のトンネル口すぐの林道から延々と迂回する。山に登るにつれ朝靄が立ち込めてくる。日の出間近の幻想的な風景となる。道には紅葉した樹々が立ち並び、そこを一頭の鹿が走り抜けて行く。突然の来客に驚いたのか、ピーっと短く警戒を示す甲高い鳴き声が霧の中にコダマしていった。
6時少し回ってビジターセンターの駐車場に着く。登山の6時は決して早くはないが、それでも余裕だろうと高をくくっていたら、驚くことに大きな駐車場にも関わらずすでに満杯だった。幸い、白線が引かれた場所ではなかったが入口付近の空いたスペースに係りの人が誘導してくれた。
外に出るとかなり肌寒い。手袋を持ってきたが、ザックの奥に仕舞い込んでいて取り出せない。通常はビジターセンターの脇にある東大台(中道)コースから入るのが一般的だが、今回はあわよくば大杉渓谷方面に出来るだけ降りてみたいと狙っていたので、駐車場の入り口近くにあるシオカラ谷からの逆コースを取ることにする。なにより、まず大蛇嵓を目指し、まだ人が居ないうちにゆっくり堪能したい。
森に入ると笹の草原が広がっていた。まだ僅かに残っている霧が一層趣のある雰囲気を醸し出している。こちらから巡る人は少ないようで、静かな森を独占しながら歩く。朝日の木漏れ陽が霧を散らしていく。谷へと大きく降っていくと吊り橋に出た。シオカラ谷吊橋。透き通るような水面に、紅葉した葉が映り込んでいた。
降った分、登らなければならない。歩き出しは肌寒かったが、体が温まってきてちょうどいい感じだ。
登って行くとシャクナゲの群生が目立つようになってきた。両脇にシャクナゲが覆い茂ってトンネルのようになっている。シャクナゲ坂と呼ばれる場所だ。花が咲けばさぞ綺麗なことだろう。看板によると約11種類ほどあるシャクナゲの中でもツクシシャクナゲという種とのこと。
シャクナゲ坂を抜けると、登山道も緩やかになり、稜線沿いに水平方向への移動となる。
暫く進むと分岐があり、右に折れるといよいよ大蛇嵓。緩やかに道を降っていく。左手側に光り輝くものが見えた。土地勘がないためすぐに気が付かなかったが、朝日で光り輝く海と分かった時にはプチ感動だった。日本海側を出発して、山に囲まれた奈良に到着。そして今、奈良の山奥から、紀伊側の海を眺めている。熊野灘だろうか。
小さな橋を渡たりその先に進むと待ちに待った風景が飛び込んでくる。大蛇嵓。名前の通り大蛇の頭のような巨大な岩。その向こうには大峯山(大峰山)がどっしりと座している。大蛇嵓との距離感がまたいい。登山道は大蛇嵓を見下ろすために、まるで展望台にあつらえたような断崖の岩に突き当たる。岩の周りには鎖が設置されているので落ちないようにはなってはいるが、スカスカなのでかなりスリルがある。
鎖に寄り掛かり、大蛇嵓を一望する。写真では伝わらない圧倒的なスケール感だ。しみじみ来て良かったと思う。ただ、気持ち残念なのは紅葉が今一つということ。こればっかりは仕方がないが、ポスターのような鮮やかさには程遠かった。もっとも雨が多い大台ヶ原で、こんなにクリアな景色を見ることができただけでも喜ばないといけない。
まだ、山の影が大蛇嵓を覆い被っているので折角なら陽が当たるまでと、もう少し待ってみることにした。不安定な岩場につま先立ちしながら待つこと30分。ようやく陽が差して来た。徐々に人が増えて来たので、邪魔にならないよう何枚か写真を撮ってその場を去ることにする。振り返り岩を勢いよくジャンプした時にそれは起こった。ブチっ。鈍い音が。しかも、身体の中を通って音が伝わって来た。瞬時にやばいと感じた。力が抜けるように岩の上にしゃがみこむ。右足に力が入らない。数秒間じっとして、恐るおそる右足を動かしてみる。痛みはあるがなんとか動く。どうらやアキレス腱ではないようだ。指でふくらはぎをゆっくり押してみる。筋肉部分に鈍い痛みが走る。
いつまでも岩の上ではまずいので、ゆっくりと移動して安全な場所に腰をかける。どうも症状から肉離れを起こしたようだ。30分も冷え込む中でつま先立ちしていて完全に固まったところに、力一杯のジャンプがいけなかったに違いない。
悔やんでも仕方がないが、問題はこれからどうするか。もはや、大杉渓谷方面に行くなんて言っている場合ではない。異常事態だ。こんな時のために、ストックは日頃使わなくても持ち歩るくべしと前から思っていたのに、思っていただけのリスク管理の甘さ。今日は軽登山だからと医療グッツさえも置いて来てしまった。まったくもってバカちんだ。
冷静になってダメージ具合を確認する。膝を上げることはできる。収縮は問題ない。逆に足を引っ張ると異様な痛みが走る。やはり筋肉が断裂していると思われる。足を伸ばさないようにすれば歩けそうなので、左足に身体の軸を移しバランスをとりながら歩く練習をしてみた。びっこを引いてみっともないが、なんとか歩けそう。地図で確認すると、引き返すよりはこのまま進んだ方がまだ歩きやすいと判断し、そのまま尾鷲辻まで進んでみることにした。いつもならなんてことない段差も、衝撃を与えないように時間をかけてゆっくりと歩く。歩く速さには自信があるのに、今日は亀よりも遅い速度。
最初、テンションがみるみる内に下がっていくのが自分でもよく分かったが、亀の速度でも歩いているうちに、大台ケ原の景色に癒されて再びテンションが上がって来た。
どんなに遅くても歩くことさえできるなら、身体の条件にあった楽しみ方をすればいい。自然の変化を楽しみながら山歩きが出来るというだけで幸せこの上ないはずだ。むしろ、この素晴らしい風景をかみしめるように今日はゆっくり歩こうと思えてきた。
地図が示していた通り、登山道はすぐになだらかになり見事な笹の草原を進む。綺麗な緑の中を一本の木道が延びていく。少し進むと大きな広場のようなところに出た。牛石ケ原。人工的に作った公園かと見まがうほど整った場所だ。端には、名前の由来になっている牛石があった。牛がまるで寝そべって日向ぼっこをしているような形をしている。その反対側には、大きな神武天皇の銅像が凛々しく建っていた。どんな謂れがあるのだろうか。
牛石ケ原を抜けて進むとようやく尾鷲辻に出る。尾鷲辻には東屋が建っていて何人かの人が休憩をしていた。ここで東大台(中道)コースを辿れば、最短でビジターセンターに戻ることができる。一瞬考えるが、足運びに気を付けて、体重移動をうまく工夫すればまだまだ歩けそう。せっかく念願の大台ヶ原に来たので、様子を見ながら歩けるところは歩いてみようと正木ヶ原方面に進むことにした。
歩き始めてすぐに、その選択で本当に良かったと思った。目に飛び込んでくる風景の一つ一つに心から感動。特に正木ヶ原は、笹原の中にトウヒの立ち枯れた白い樹木が立ち並び、他ではなかなか見ることができない、とても神秘的な空間を作り上げていた。草原に横たわった倒木が、肉食恐竜の骨を模したディスプレイのようで見ていて飽きない。かつては緑の美しいトウヒの森だったらしいが、1959年の伊勢湾台風で多くの樹木がなぎ倒されてしまったとか。また、鹿が樹の皮を食べ荒らしたこともその原因とされている。
正木ヶ原から正木峠は、まさに天空を歩いているかのような夢心地の木道が続く。雲が近く、空に向かって緑の草原と木道が延びていく。視界が開け、再び海が視界に入ってくる。複雑に入り組んだ熊野灘が間近に見え、足の痛みも忘れてつい力が入ってしまう。
行く手の先に、笹原の小高いピークが見えた。頂上には小屋のようなものが建っている。大台ヶ原の最高峰、日出ヶ岳だ。名前の通り日の出鑑賞ポイントとしても有名らしい。一旦降りビジターセンターへの分岐に出るが、ここまで来たら当たり前のように日出ヶ岳を目指す。降っていく途中、赤く色づいたシロヤシオが群生していた。今頃、さぞ竜ヶ岳にも赤い羊が見事なことだろう。
ゆっくりゆっくりと階段を登り、日出ヶ岳の山頂に到着。小屋のように見えていたのは展望台だった。せっかくなので展望台に登ってみる。熊野灘どころか三重の方まで綺麗に見渡せる。本当であれば、この山頂より降れるだけ降って久しぶりに大杉谷渓谷を歩こうと思っていたのに。。。そう思っていると、今日の不運さを神様が可哀想に思ったのか、何気なく見ていた三重方面の更に遥か向こうに、なにやら薄っすらと白いものが見えた。じーっと目を凝らすと、それは紛れもなく白く衣替えをした富士山だった。霞んでいるため一度目を外すとなかなか見つけられないギリギリの状態。きっと写真には写らないだろうからと、心のシャッターで風景を目に焼き付ける。
反対側の絶景も負けてはいない。大峰山脈の急峻な山々の大パノラマがまるで屏風のように広がっている。その荒々しい稜線に一気に心が鷲掴みにされる。大普賢岳、弥山。ひときわ目立っているのは行者還岳か。あまりの険しさに行者さえも引き返したと言うのが由来になっているらしいが、確かに挑みがいのあるピークだ。
大阪の方に話を聞いていたら、「そんなに惚れ込んだならぜひ奥駆けをしたらいいよ」と紹介された。正式には、大峯奥駈道。吉野と熊野を結ぶ大峰山脈を縦走するコース。ただし、普通の縦走コースではなく、修験者の修行のために開かれた山岳信仰の聖なる道で、熊野古道で最も険しい道とされている。総距離約90km。標高差約7,700mという数字を聞いただけでも尋常じゃないことが分かる。急登ハンターとしてはもう興味津々。加えて、大峰山、つまり女人禁制の山上ヶ岳を通ることから縦走できるのは男性のみという冒険心をくすぐるフレーズ。女人禁制の山があるのは知っていたが、そうかこれがそのコースか。これはもう行くしかない。突然の怪我でどうなることかと思っていたが、身体を治していつでもやってこいと言わんばかりに挑戦状を突き付けられたようで俄然闘志がわいてきた。すっかり奈良の山に魅了されてしまった。近い将来に必ず歩いてやるぞと大峰山脈に誓い、日出ヶ岳を後にする。
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