行程・コース
天候
一日目:曇り、二日目:曇り
利用した登山口
登山口へのアクセス
バス
その他:
(行き)新宿より扇沢行き中央高速バス23:15発 扇沢5:30着
黒部ダム行きトロリーバス7:30発 黒部ダム7:46着 (片道1540円)
(帰り)欅平から宇奈月温泉までトロッコ(片道1710円)
宇奈月温泉から新黒部まで地鉄(630円+特急料金110円)
黒部宇奈月温泉駅から東京都区内まで北陸新幹線(11130円)
この登山記録の行程
【1日目】歩行7時間32分
黒部ダム(07:53)・・・内蔵助谷出合(08:55)・・・黒部別山谷出合(10:55)・・・十字峡[休憩 21分](12:22)・・・仙人谷ダム(14:40)・・・阿曽原温泉小屋(15:25)
【2日目】歩行4時間41分
阿曽原温泉小屋(06:35)・・・欅平(11:16)
高低図
標準タイム比較グラフ
登山記録
行動記録・感想・メモ
紅葉が標高の低いところまで降りてきたので、黒部峡谷下ノ廊下と阿曽原の露天風呂を楽しんできた。今年の夏山シーズンは鹿島槍ヶ岳から五竜岳、それに剱岳から立山三山を縦走した。この二つの連峰を断ち割って流れているのが黒部峡谷で、雪が消える晩秋のわずかな期間しか歩けないという。深いV字谷の巨大な岩壁を彩る紅葉や、峡谷の奥深くに阿曽原温泉を訪ねるのも魅力的だ。そのうえ、十字峡では剱岳から流れ下る剣沢、鹿島槍ヶ岳からの棒小屋沢が黒部川と十字をなす。出戻り登山者の今シーズンを締めくくるには、これほどふさわしいところはないだろう。
記録もたくさん上がっている人気コースなので、以下自分なりのポイントを書いておく。
<健脚向きのコース>
黒部ダムから欅平に向かう場合は基本的には下りなのだが、阿曽原温泉まで8時間弱で距離も長く、途中エスケープもない長丁場だ。また、すれ違いもままならない断崖につけられた高度感もある区間がつづき、ある程度の緊張感を維持させねばならず、健脚向きのコースだ。岩壁には針金やロープがつけられており、適宜それをつかんで進むが、技術的には決して難しくない。
ただし、これは下ノ廊下の登山道整備が完了した状態での話だ。前述のようにこのコースは雪が消える晩秋のわずかな期間しか一般登山者には歩けない。以下の阿曽原温泉小屋などの情報を事前にしっかり確認しておきたい。
阿曽原温泉小屋の下ノ廊下情報
http://azohara.niikawa.com/news/
疲れたからといってふらふらと歩く余裕はこのコースにはない。疲労などで注意が散漫になりバランスを崩せば、数十メートル下の谷底に落ちかねない。ほかのコースならゆっくり歩くという選択肢もあるのだが、私のように扇沢から始発のトロリーバス(7:30)に乗っても、黒部ダムを歩き始めるのは8時頃。そこからコースタイムの8時間以上かければ、晩秋のこの時期は阿曽原小屋到着は16時を超えて暗くなってしまう。体力的な余裕が、コースタイム程度で歩き通す、バランス、注意力を維持するための最大のポイントであるように思えた。「黒部ではケガ人はいない(落ちたらケガではすまず、命を落とす)」という言葉があるそうだが、体力を充実させ、体調を整えて歩きたい。
狭い通路なのでストックはお勧めしない。ヘルメット装着率は、パッと見たところ8割は越えていたのではないだろうか。岩をくりぬいてある区間やトンネルでは、頭をぶつけかねない。私も何度かヘルメットに岩が当たった。コースが狭いので、歩き始めからヘルメットをかぶるのがいいだろう。
黒部ダムを出たら、阿曽原小屋まで公共トイレがない。仙人谷ダムでトイレを拝借できるが、それでもコースタイムで7時間近くトイレがない。深いV字谷のこと、ちょっと脇でというのも難しそうだ。
<追記>2021年8月時点で富山県が山のグレーディングを発表していることを知り、参照したところ下ノ廊下の内蔵助谷ー十字峡間がD、そのうち別山谷出合付近(丸太の橋が仮設されているあたり)はEと判定されていました。当初主観的なグレードをCとしていましたが、評価をCからEに変更します。ただ、剱岳(E)や涸沢岳(E)などと比べて同程度の困難さかと言われれば、私個人には疑問です。
<意外に忙しいコース、ゆっくり楽しむには前泊を考えたほうがいいかも>
皆さんの記録もたくさん上がっているように、V字谷の絶景、晩秋の紅葉や温泉と人気のコースだ。しかも、晩秋の一時期しか歩けないために人も集中する上に、コースは断崖にうがたれた狭い登山道で追い抜きもすれ違いもままならない。テント泊のパーティーは限られた幕営場所の確保のために先を急いでいるから、カメラを構えているうちにも後ろから人が迫ってくる。意外に気の急く忙しいコースなのだ。でも、それでは何のために歩いているのかわからなくなってしまいかねない。心行くまでとはいかないまでも、絶景を楽しむ余裕をある程度持つためには、たとえば前日にロッジくろよんに宿泊して、トロリーバスが黒部ダムに到着する前に歩き出すことを考えてもいいかもしれない。
<まずまずの紅葉>
阿曽原小屋の佐々木さんのお話では、体力的には登りになるのできついが、欅平から黒部ダムを目指す逆コースの方が谷の紅葉を見上げながら進むことになるのでより紅葉を味わえるそうだ。ただし、この場合は、コースを南下(ややこしいが標高は上がる)することになるため、常に逆光気味になるのかなと思う。黒部の紅葉を楽しむのに、順光がいいのか、逆光のほうがより映えるのか、私にはちょっと判断がつかない。
今シーズンは、夏の少雨、秋の長雨と日照不足、晩秋になっても下がらない気温と、紅葉には悪条件が重なった。先月登った涸沢でも紅葉は鮮やかさに欠け、黒部峡谷の紅葉もそれほど期待していなかったのだが、思いのほかまずまずの紅葉で楽しめた。佐々木さんのお話では、高山と違って下ノ廊下は標高が低く谷が深いため(黒部ダムで1550m、水平歩道は950m程度、欅平で600m)、台風などで吹き散らされたり、急な霜で紅葉する前に葉が枯れることがなく、川の流れの影響で気温もそれなりに下がるので紅葉の当たりはずれがあまりないそうだ。なるほど、これはほかの山域でも当てはまりそうなヒントだ。
<阿曽原小屋の魅力>
阿曽原温泉小屋は、冬季には雪崩を避けるために解体するので、プレハブ造りで味気ない。しかし、それを補って余りあるのが温かくおおらかな小屋主さんの存在と素晴らしい露天風呂だ。小屋から急な斜面を10分ほど下らねばならないが、源泉かけ流し、無色透明、無臭の素晴らしい温泉だ。名物のカレーも、小屋主さんの実家の畑で採れたという野菜を使った料理もおいしくいただいた。紅葉シーズンはどこの山域も混雑するが、このコースはこの時期しか歩けないという事情もあるので、小屋の混雑は避けようがない。ありきたりだが、早めに到着してまだ人が少ないうちに明日の準備なり入浴を済ませるなどが、なるべく快適に過ごすコツだろう。ちなみに出戻り登山者は、ここのところツキがまだ落ちていないようで、今回も布団一枚に一人で休めた。
<より興味を深めるために読書や映画鑑賞もおすすめ>
このコースを歩くうえで必須ではないが、やはり事前に知っておくとより興味深くなるのが、黒部峡谷の電源開発の歴史だろう。とても人が歩けるとは思えない断崖絶壁にうがたれた日電歩道や水平歩道も、そもそも出発点扇沢から黒部ダムにトロリーバスでアプローチできるのも、すべては戦前からの電源開発の副産物だ。このコースを歩かれる方には、是非、吉村昭の「高熱隧道」や、木本正次の「黒部の太陽」を読んだり、石原裕次郎主演の同タイトルの映画をご覧になることをお勧めしたい。現代の軽量で高性能の装備を持ち、楽しみのために歩く登山者でも苦労するのに、このコースを切り拓いた人々、このコースを重い資材を背負って歩いた人々がいたことに感慨を覚えます。
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