テント泊登山の基本テクニック プランニング編

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重い荷物を背負っての山行となるテント泊登山は、充分な準備が必要だ。ここではテント泊登山のプランニング術を紹介する。

文=高橋庄太郎、イラスト=林田秀一

1.計画の立案と情報収集

テント泊登山は、日帰り登山とは異なる。気象条件が厳しい山中で、温かな食事をとり、体を休めるためには、自力で山中にテント、調理器具、着替えなどの「衣食住」すべてを用意しなければならない。そのための体力や手間は相当なものだ。完璧にテント装備をそろえたとしても、準備が完了したとは言えない。充分なプランニングが必要となる。テントを張れる場所はどこか、水はどこで補給できるのか、万が一のときのエスケープルートをどう設定しておくかなど、事前にチェックする必要がある。

テント泊登山にかぎらず、登山計画を考える際に、はじめに行なうべきは地図の入手だ。

基本となるのは、国土地理院発行の地形図。縮尺は各種あるが、地形が読み取りやすい1/25000の詳細なものがいい。大判が書店で購入できるが、扱っている店舗は少ない。だが、近年は国土地理院のウェブサイトから自由にプリントアウトできるようになった。

人気山域を網羅した登山地図も販売されている。縮尺の問題で地形図ほど細かな地形は読み取れないことが多いが、水場やコースタイムの目安も掲載されており、使い勝手は抜群だ。また、登山ガイドブックも有用で、登山地図以上のルート上の情報が得られる。

現在は登山系アプリから、既存の地形図や登山地図以上の情報が得られるようになってきた。GPSと連動し、自分の居場所も確認できるため、もはやスマートフォンは山中では欠かせない情報ツールである。しかし山中で使う場合はバッテリー切れや破損が怖いので、紙の地図も必ず併用しよう。

注意したいのは、最新情報を網羅しているようなアプリやウェブサイトでも、その情報にはいくらかのタイムラグがありうること。現地では案内所に立ち寄り、リアルタイムの情報も確保したい。

計画の立案に活用する情報源

登山地図、地形図

いくつかの会社から販売されている登山地図には防水紙を使ったものもあり、雨天でも気にせず使用できる。だが、細かな地形を読むためには、地形図が必要だ。

ガイドブック

著者の責任のもと、詳細でいて確実な情報を掲載しているのが最大の長所。多くは山域ごとに特化しており、目当ての山と同時に周辺山域も調べられ、計画に幅が出る。

案内所

メジャーな登山口には登山案内所や観光案内所が設けられている。そこではまさに最新のな情報が得られ、有意義だ。出発前に立ち寄り、話を聞きたい。登山届も提出できる。

ウェブとアプリ

山と溪谷オンラインに代表される、山情報に特化したウェブサイトやSNS、各種アプリからは有用な新しい情報を得られる。特に一般登山者からの「生」の声はリアルで大きな意味があるが、重要な情報のなかに不確かな情報も入り交じり、その内容は玉石混交。見極めが大切だ。

地図上のチェックポイント

登山計画を立てる際に、特にチェックしておきたいのが「登山口・下山口」の場所、目的地となる「キャンプ予定地」、そしてそれらの間にある「難所」や「水場」である。これらの位置関係と自分の行動能力によって計画は大きく変わっていく。時間に余裕をもたせ、無理のない計画を立てたい。

(A)登山口・下山口
計画上の登山口・下山口だけではなく、エスケープルートとして緊急時に短時間で下りられるポイントも把握しておく。

(B)水場
行動中、どこで飲料水を手に入れられるかは、非常に重要な情報。途中で入手が困難な場合は、出発前に大量の水を持つことを想定する。

(C)難所
険しい岩場や道迷いしやすい場所を事前に確認し、対策を考える。悪天候時などの際は、途中で断念することも念頭に入れておく。

(D)キャンプ予定地
出発地から何時間歩けば到着するのか、行動時間には余裕をもたせて検討する。水場、トイレの有無、混雑の程度も確認しておきたい。

2.ルートとテント場の選び方

国立公園や国定公園などに含まれている山中でテント泊ができるのは、基本的には「キャンプ指定地」のみ。山中のテント場は山小屋の数に比べて少なく、テント泊にこだわると、次の宿泊地まで長時間の行動を強いられることは多い。キャンプ指定地以外に緊急ビバークとしてテントを張るのは、トラブルの際にのみ許されることだ。

悪天候時などはテント泊を諦め、ルート上の山小屋に泊まることもできる。だが山小屋の多くは事前予約が必要だ。それでも緊急時は快く宿泊させてくれるものだが、可能なかぎり自分の力だけで登山を完結させる計画を立案したい。あらかじめ長距離歩行を前提にした山行は、初心者には危険だ。

おすすめは、はじめに「ベースキャンプ型」登山を経験し、テント泊に慣れること。その後「山頂往復型」に進み、最後に「長距離縦走型」テント泊登山に挑戦するというステップアップである。

とはいえ、必ずしも長距離縦走型が最終目標なのではなく、それぞれの「型」に固有のおもしろさや魅力がある。さまざまなスタイルのテント泊山行を試み、自分の好みを見極めていきたい。

登山地図のコースタイムの目安は、登山者の年齢、性別、荷物の量、登山スタイルなどを基準に算出される。だから、荷物が多いテント泊登山の場合、日帰り登山を前提に算出されたコースタイムよりも行動時間は長くなりがちだと考えておきたい。

テント泊登山の種類

(A)ベースキャンプ型
登山口近くのテント場にベースキャンプとなる拠点をつくり、そこから目的の山頂まで往復するという登山形式。山中でのテント泊は行ないつつも、主な行動時は多くの荷物をテントに置いていけるため、身軽に行動できる。日帰り登山からのステップアップとして挑戦してみるとよいだろう。

(B)山頂往復型
テント泊装備をすべて背負って行動し、目的の山頂近くまで移動してからテントを張る。テント泊装備を背負って長く歩くが、往路、復路ともに同じルートになるので道迷いの心配は少なく、比較的安全だ。重い荷物で疲れたり、急に天候が悪化したりしたときは途中での下山も容易である。

(C)長距離縦走型
長距離・長時間を歩く縦走はテント泊登山の醍醐味だ。進むにつれて景色が変化し、泊まるテント場も毎日変わる。だがトラブル発生時はすぐに下山できない場合が多く、念入りな計画が必要だ。安全のために自分の力量を踏まえた行動も要求されるが、無事に下山すれば、大きな達成感を得られる。

※本記事は『テント泊登山の基本テクニック』を一部掲載したものです。

テント泊登山の基本テクニック

テント泊登山の基本テクニック

高橋庄太郎
発行 山と溪谷社
発売日 2021年7月19日
価格 1,100円(税込)
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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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