もうすぐ花の回廊の季節。上高地に咲く花たち【山と溪谷2024年5月号特集より】

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さまざまな角度から上高地の魅力に迫る『山と溪谷』2024年5月号の特集から、上高内に咲く季節の花々を解説するページをご紹介。豊かな自然が広がる上高地で季節ごとに見られる花を、上高地ビジターセンターの前田篤史さんが教えてくれました。

文・写真=前田篤史


上高地(かみこうち)は標高1500mに位置し、平地に比べて気温が低い。そのため春の訪れは遅く、秋の訪れは早く、花の季節は5月から9月までに凝縮される。また、山地帯と亜高山帯の境にあたるため、低地性から高山性まで幅広い植物が見られる。

ニリンソウに代表される春の花は、雪解け後の5~6月を中心に多くの種類が一斉に開花する。特に明神(みょうじん)や徳沢(とくさわ)の散策路沿いは“花の回廊”となり、一日中花を楽しめる。私もよく歩く小梨平(こなしだいら)~明神の左岸道をコースタイムの2倍以上かけて歩き、楽しんでいる。

夏から秋には、人の背丈ほどに成長した大型種が、日当たりのよい草地や路傍に多くなるため、大正池(たいしょういけ)から河童橋(かっぱばし)にかけての梓川(あずさがわ)沿いの散策路がおすすめ。花にはチョウなど多くの訪花昆虫が蜜を吸いに訪れてにぎやかだ。お盆を過ぎると上高地にも秋風が感じられるようになり、川べりのススキ、ノコンギクやサラシナショウマなど秋の花が見頃を迎える。9月も終わるころ、上高地の花暦はいよいよフィナーレを迎える。

ニリンソウ

ニリンソウ
ニリンソウ
ミドリニリンソウ
ミドリニリンソウ
  • 二輪草/キンポウゲ科
  • 花期:5月中旬~6月上旬
  • 見られる場所:小梨平・明神・徳沢の林内

春の上高地を代表する山野草で、明神や徳沢の湿性林には大規模な群落がある。まれに花の色が緑色の「ミドリニリンソウ」が群生地で見つかる。これは「葉が花に変化した」ことを示し先祖還りしたもの。見つけ出せれば幸運が訪れるといわれる、上高地で噂のもの。

サンカヨウ

サンカヨウ
サンカヨウ
濡れていない状態のサンカヨウ
濡れていない状態のサンカヨウ
  • 山荷葉/メギ科
  • 花期:5月下旬~6月上旬
  • 見られる場所:明神・徳沢の林内に局地的

深山の湿性林に生育する多年草で積雪地に多い。純白の花を数個つけ、気品があり愛好家にも人気が高い。この花の最大の魅力は、雨に濡れて透明感を増す姿だ。まるで魔法にかけられたかのように、その美しさにしばし時の流れを忘れてしまいそう。

エゾムラサキ

エゾムラサキ
  • 蝦夷紫/ムラサキ科
  • 花期:5月下旬~6月下旬
  • 見られる場所:小梨平や徳沢の草地や明るい林内

ヨーロッパ原産の「ワスレナグサ」にそっくりだが、こちらは日本在来種の小さく可憐な多年草。瑠璃色の愛らしい花がまとまって咲き、時々ピンク色の花も混ざることがある。

レンゲツツジ

レンゲツツジ
  • 蓮華躑躅/ツツジ科(日本固有種)
  • 花期:6月中旬~6月下旬
  • 見られる場所:田代湿原・岳沢湿原

高原の草地や湿原で群落をつくる、日本のツツジの仲間で最大級。別名オニツツジ。上高地では、田代湿原・岳沢湿原に群生し、朱色の大きな花が湿原に彩りを添えてくれる。

ヤチトリカブト

ヤチトリカブト
  • 谷地鳥兜/キンポウゲ科(日本固有種)
  • 花期:7月下旬~9月上旬
  • 見られる場所:小梨平・田代湿原

本州中部地方の亜高山帯・高山帯の草地などに生育する。上高地が最初の発見地で、湿地(谷地)を表わす言葉が名前につけられた。トリカブトは有毒で有名で、ヤチトリカブトもアルカロイド系のアコニチンを全体に含む有毒植物なので、手を触れるのは控えよう。

アケボノソウ

アケボノソウ
  • 曙草/リンドウ科
  • 花期:8月中旬~9月中旬
  • 見られる場所:田代湿原や林内の湿地

北海道から九州に分布し、山地の湿地や草地に生育する。名前の由来は、花にある黒紫色の斑を夜明けの空に見立てたもの。花に黄緑色の蜜腺溝が2個並び、ここから蜜を出して小型のアリやハナアブに蜜を与え受粉の手助けをしてもらっている。

ノコンギク

ノコンギク
  • 野紺菊/キク科(日本固有種)
  • 花期:8月中旬~9月下旬
  • 見られる場所:散策路沿いの明るい林縁

本州・四国・九州に分布し、山野の草地や林縁に群生する日本の野菊の代表種。上高地では、夏の終わりから秋に開花し、散策路沿いで出会える。上高地の花暦のラストを締めくくる花である。


前田篤史

まえだ・あつし/千葉県生まれ、長野県安曇野市在住。上高地ビジターセンターに勤務し、展示企画やガイドを通して上高地の魅力を伝えている。著書に『上高地の野鳥 増補改訂版』『上高地の花ハンドブック』(ほおずき書籍)。

『山と溪谷』2024年5月号より転載)

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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