“親心”で森を守り、慈しむ。フォレスト・マントル上鹿川

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、宮崎県の鉾(ほこ)岳周辺で森林の調査や保全活動を行なっている「フォレスト・マントル上鹿川(かみししがわ)」を紹介。

取材・文=一ノ瀬伸、写提提供=フォレスト・マントル上鹿川

■日本山岳遺産候補地を募集中!

鬼の目山に自生する樹高20mにもなる天然杉の巨木「鬼の目杉」
鬼の目山に自生する樹高20mにもなる天然杉の巨木「鬼の目杉」

フォレスト・マントル上鹿川(2021年度認定)

Area:鉾岳
Main activity:森林保全・活用
Group profile:
2013年に宮崎県延岡市の上鹿川集落の住民を中心に結成。会員約20人。毎年の鹿食害対策ネットの設置・点検・補修や「鬼の目杉」調査、登山道整備、自然観察会などを行なっている。
https://forest-mantle.com/

「なんとかしてかんと」。取材中、西京子さんはその言葉を繰り返した。彼女は、宮崎・鉾岳周辺で森林保全を行なう「フォレスト・マントル上鹿川」の発起人だ。20年近く前、49歳のときに麓の小さな集落である上鹿川で、夢だった山の暮らしを始めた。ところが、住んでみて初めて気がついたのが、荒れた森の姿だった。

「当時、森に切り捨て間伐の杉がゴロゴロと転がり、ニホンジカが増えて食害が出てきていました。こんなふうになっていたんだって驚いて、里山を整備する大変さを初めて実感したんです」

2008年、西さんの声かけで間伐材の活用に取り組む「延岡チェンソーアートレンジャー部隊」を設立。この団体を母体として2013年に立ち上がったのが「フォレスト・マントル上鹿川」だ。地元森林管理署と協定を結んだうえで、鹿の食害から植物を守るネットを森に設置し、国有林内の希少な巨大天然杉「鬼の目杉」の調査も行なっている。

「『赤ちゃんが育たない森』になっています。鹿に樹木の新芽は食べられて、幼木もかじられて枯れてしまう。日本の人間社会と同じ、高齢化の森なんです」

団体名には森を守る決意が込められている。「親が子どもを守るように、森(Forest)にマント(Mantel)を広げて私たちみんなで慈しんでいこうって」西さんはこう力説したあとに「暑苦しくてごめんなさいね」と笑った。

毎年、鹿の食害対策のネットを張る
毎年、鹿の食害対策のネットを張る

地域住民らで「森のマント」ならぬ鹿ネットを設置し始めてから、10年がたつ。ネットの中は多様な植物が一斉に育っている。「私の背を越えるほど大きくなった木もあるんですよ」

手応えを感じる一方、メンバーの高齢化が大きな課題となる。近く、地元の行政、大学、企業を誘い、未来の森林保全を考える会合を開く予定だ。

「会員が誰も山へ上がれなくなったらどういう形で森を次世代へつなげるのか。なんとかしていかんと。だから『ヘルプ!』って手を挙げるんです」

「フォレスト・マントル上鹿川」メンバーら
「フォレスト・マントル上鹿川」メンバーら

★日本山岳遺産認定地 詳細:鉾岳 [ 宮崎県 ]フォレスト・マントル上鹿川 (2021年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

『山と溪谷』2023年12月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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