古道復興で輝く土地の魅力とつながる縁。道宗道の会

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、富山県にある古道・道宗道(どうしゅうみち)で、登山道整備やイベント開催などを行なう「道宗道の会」を紹介する。

取材・文=一ノ瀬伸、写提提供=道宗道の会

2024年7月の登山道整備
2024年7月の登山道整備。道宗道は、地元住民の言い伝えを基に道をつないだ

■日本山岳遺産候補地を募集中!

道宗道の会

Area:道宗道
Main activity:登山道整備
Group profile:
測量などを手掛ける会社「上智」と城端山岳会(じょうはなさんがくかい)の有志によって2010年設立。現在会員約40人。古道「道宗道」を復活させ、現在まで保全・管理。道宗道を活用したイベント企画も行なう。
https://www.taff.or.jp/saposen/member/710/

500年余り前、富山県の五箇山(ごかやま)地方に浄土真宗の教えを広げた道宗が、瑞泉寺(ずいせんじ)へ通った道である「道宗道」。その歴史ある古道の復興は、偶然から始まった。

話は15年ほど遡る。当時、地元の測量会社で社長を務めていた楠則夫さん(現「道宗道の会」代表)は、会社の50周年記念事業として南砺市(なんとし)の重心、いわゆる「へそ」となる場所にモニュメントを設置し、市に寄贈しようと考えた。だが、現地踏査によって判明したへその位置は、生い茂った藪の中。楠さんが説明する。

「山奥に石碑を作ったところで誰も見に来られないので、近くの林道脇に建てようかと考えていたんです。ところが、いろんな人と話すうち、そのあたりに古道があったらしいと聞いたんです」

奇しくもへその位置は、道宗道の真上にあった。同じころ、地元の城端山岳会が道宗道に関するシンポジウムを開催していた。古道の復元を模索する山岳会と石碑設置をめざす楠さんの会社の思いが一致し、2010年に両者の有志らが集まって「道宗道の会」を結成した。

まずは朴峠(ほおとうげ)から高落場山(たかおちばやま)の1km余りを切り拓き、その中間地点に約600kgのモニュメントをヘリで吊り上げて設置。その後、数年かけて刈り払いや標識の設置を行ない、全線を整備した。道宗道は、五箇山地区の行徳寺(ぎょうとくじ)を起点に高清水山(たかしょうずやま)や八乙女山(やおとめやま)など尾根道を通って井波地区の瑞泉寺まで全線約30kmにも及ぶ。

砺波平野の散居村の風景
砺波平野の散居村の風景

楠さんは道宗道の魅力を「世界遺産の合掌造り集落から始まり、道中は豊かなブナ林があったり、砺波平野(となみへいや)の散居村や白山など景色もいい。山城の跡や瑞泉寺の建築も見どころです」と語る。

コロナ禍前に6年連続で開いたトレイルラン大会は大盛況で道宗道の知名度を高めた。会は現在も定期的な整備を続けている。「汗水流して大変な作業ではあるんですが、自分たちも山歩きを楽しみながら、充実感を感じています」と楠さん。

道宗道の復興を通じて、たくさんの人々の縁もつながった。

企画したトレイルランニング大会には多い年で700人が参加した
企画したトレイルランニング大会には多い年で700人が参加した

★関連日本山岳遺産認定地:道宗道 [ 富山県 ]道宗道の会(2023年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

『山と溪谷』2024年9月号より転載)

この記事に登場する山

富山県 /

高落場山 標高 1,122m

富山県の西部、南砺市にある山で、庄川と砺波平野を区切っている高清水山系の山。北端の八乙女山から大寺山、赤祖父山と徐々に高度を上げ、尾根は高落場山へと続いている。 自然豊かな山で、雪が深く、山スキーヤーの人気も高い。また北麓にある縄ヶ池はミズバショウが咲き、県指定の天然記念物となっている。 山頂にはかつて「赤尾の道宗道」と呼ばれる古道が通っており、地元の「道宗道の会」が古道を整備して、行徳寺から瑞泉寺までの約30kmの路を復活させた。機会があれば、この古道とあわせて楽しみたい山だ。

富山県 / 白山山地

高清水山 標高 1,145m

庄川が平野部へ流れ出る辺りは、砺波(となみ)平野と呼ばれる。平野の一番奥には1000m前後の山々が屏風のごとく連なる。その中でも一番高いのが高清水山だが、ひと続きの山なので麓からは見分けにくい。 高清水山が独立峰らしく望めるのは、北東の杉尾峠側からだろう。積雪期もしくは残雪期の方がいい。そのころの登山コースも杉尾峠経由が一般的だ。 かつては頂上に通じる登山道はなかったが、近年は「赤尾の道宗道」と呼ばれる古道が地元の山岳関係者によって復活して、この山にも登山者が訪れるようになった。 山腹の縄ガ池はミズバショウの群生で有名で、ここから登るのがいちばん近い。

富山県 / 白山山地

八乙女山 標高 756m

富山県南砺市にある山。南砺市市街の南部に位置し、山頂近くには風神堂がある。毎年6月には、風を鎮め豊作を祈願する「八乙女山風神堂祭典」が行われる。

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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