山を楽しんだ分の恩返し。あだたら山の会
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、福島県の安達太良山(あだたらやま)で登山道整備や遭難救助などを行なうあだたら山の会を紹介する。
取材・文=一ノ瀬伸、写提提供=あだたら山の会
あだたら山の会
Area:安達太良山Main activity:登山道整備
Group profile:
66年の歴史をもつ福島県山岳連盟加盟の山岳会。毎月1回の山行は県内を中心に日本アルプスなど各地へ。安達太良山の登山道整備やパトロール、山岳遭難救助も行なう。会員募集中。
http://www.adatarayama.com/
日本百名山のひとつに数えられる福島県の名峰・安達太良山は、5月19日に今季の山開きを迎えた。当日は登山口や山頂でイベントも開かれ、過去最多のおよそ5000人が訪れたという。
この日、パトロール隊として登山者を見守っていたのが「あだたら山の会」。会の歴史は古く1958年、空前の登山ブームの時代に麓の二本松市(にほんまつし)の高校生が仲間を集めて設立。山岳会として各地で山行を楽しみながら、安達太良山の登山道整備や遭難救助などを行なっている。
「私たち自身も登山者として山を楽しませてもらっているので、恩返しができたら、という思いで取り組んでいます」と現会長の椎原寿明さんは話す。
毎月の整備作業は、下草の刈り払いや橋の取り付けなど必要に応じてさまざま。最近では、別の民間団体や行政と共に休業中のくろがね小屋付近に携帯トイレブースを設置した。椎原さんは、そうした団結の重要性が高まっていると語る。
「人手がたくさんある時代ではないですし、資金面も含めて、ひとつの団体だけでできることは限られます。お互いに情報共有して、時には一緒に活動していく必要があると思います」
かつて60人ほどいた会員は現在38人。それでもここ数年、情報発信に力を入れ新しい顔ぶれも加わった。山を知り尽くした長年のメンバーも多く、豊富な知識や経験が人命救助に貢献している。
「安達太良山で数年に1人は亡くなってしまっている現実がある。登山道整備でも救助活動でも代々受け継がれた知見を活かしながら、いかに遭難を減らせるか、小さい団体ながら考えています」
安達太良山の魅力を尋ねると、椎原さんは「山頂を境に、いわゆる表と裏で景観が全然違って。歴史は万葉集に載るくらい古く、江戸時代には宿場町があって……」と饒舌に。なんだか楽しそうだ。
「楽しんだ分、恩返し」。そんな山との向き合い方が今後、登山の〝当たり前〟になっていくことを、あだたら山の会は願う。
★関連日本山岳遺産認定地:安達太良山 [ 福島県 ]あだたら山の会(2023年)
日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します
日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(『山と溪谷』2024年7月号より転載)
この記事に登場する山
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!
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