冬の白馬 入山前に押さえておきたい天気のポイント

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長野県北西部、白馬村を中心としたエリアは上質な雪と、街のそばまで迫った山岳地形に恵まれ、日本が誇る国際山岳リゾートのひとつです。ところがバックカントリースキーや冬山登山の事故も毎年発生しています。中には雪山や天気についてよく知らなかった遭難者もいるようで、簡単にアルプスに入れてしまう白馬ならではの環境が影響しているとも考えられます。

悪天、荒天に関連した気象遭難は、気象の知識があれば避けられたと思われるものが少なくありません。このコラムでは、気象遭難を防ぐ一助となるべく、冬の白馬エリアの天気が荒れる場合、そして比較的晴れやすい場合の気象パターンを紹介します。

 

白馬は雪山とスキーが楽しめる一大リゾート

冬の白馬エリアの魅力は、雪山の楽しみ方が実に豊富なことでしょう。白馬村を中心としたHAKUBA VALLEY(ハクバ・バレー)には個性豊かな10のスキー場があり、さらにそのうち栂池、八方、五竜は人気の冬山登山ルートの登山口にもなっています(下図参照)。

スキー場のゲレンデトップから、いわゆるバックカントリーのエリアへ入山する登山者には、スノーシューなどで近場のスポットを散策する人、アイゼンとピッケルを駆使して頂上をめざすなど冬山登山をする人、登った先から滑降するバックカントリースキーを楽しむ人などがいて、白馬エリアではいずれのアクティビティーも盛んで人気があります。

報道が十分でなく誤解されることが多いですが、一般的にバックカントリーへの侵入自体は禁止されていません。白馬エリアではゲレンデ内で雪崩が発生することを防ぐ目的の立入禁止区域は別に設定されており、ゲレンデトップから通行できる登山道は解放されています。入山者は自らの責任で真冬の北アルプスを楽しむことができるのです。詳しくは白馬村観光局が公開している「白馬ルール」を確認しましょう。

もちろんゲートの外はリスク管理がなされていない「リアルな」北アルプスですから、危険を回避する技術と知識が必要です。気象遭難を防ぐ上では、どんなときに雪が降り、風が強まるのかを知っておくことが重要です。

 

長野北部の大雪4パターン 風向で雪の降りやすい場所が移動

冬の日本列島は脊梁山脈を境に気候が一変することはよく知られています。長野県が太平洋側なのか日本海側なのかは地域によって基準が違うため判断が難しいところではありますが、白馬エリアは長野県内にあって最も日本海との距離が近いため、冬型の気圧配置になれば雪が降って、ときには大雪にも見舞われます。ほとんど日本海側といってもよいくらいでしょう。

では、どのような場合に遭難リスクの高い荒天となるのでしょうか。長野地方気象台のホームページでは長野北部が大雪になるパターンとして、次の4つが紹介されています。このうち、①と④は白馬エリアでは特に注意が必要です。

① 北西部山沿いの大雪

大陸からの季節風が吹き出し始める初期段階で、どちらかといえば西寄りの風向がそろっていると、日本海で発生した雪雲が真っ先に北アルプスにぶつかるため、北アルプス周辺で降雪量が多くなります。白馬エリアを含めた北アルプスで集中的に雪が降るのはこのパターンです。 
また、上空の気圧の谷が深いとJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)が発生します。JPCZが白馬に向いている場合には内陸まで雪雲が侵入しやすくたびたび大雪に見舞われます。一方で、風下側の妙高高原や志賀高原ではあまり降らないことがあります。とくに天気予報などで、西回りで寒気が流れ込むと解説される場合に顕著です。

② 北部全域の大雪(信越線の大雪)

典型的な冬型の気圧配置が強まると、等圧線が南北に立っているため新潟との県境付近の広範囲で降雪量が多くなります。寒気が非常に強いと白馬エリアも大雪となることがあります。寒気が弱いと小谷村までの山で雪雲がせき止められて白馬村であまり降らない場合がありますが、その場合でもスキー場上部より上では風が強まって、ガスもかかりやすいでしょう。

③ 北東部の大雪

冬型の気圧配置が崩れ始めると、西から高気圧に覆われだし、等圧線が北東―南西方向に向くことがあります。そのようなパターンでは野沢温泉や妙高高原側で雪が降りやすく、白馬ではあまり降らない場合が多くあります。

④ 長野市付近までの大雪

冬型の気圧配置が崩れると、日本海に低気圧(ポーラーロー)が発生することがあります。そのような低気圧が北日本に接近して猛烈に発達すると、低気圧から延びるシアライン(前線のようなもの)が陸地にかかるため数時間のうちに晴天から急激に天気が悪化して大雪を降らせることがあります。危険な疑似好天と呼ばれるパターンのひとつですから、ぜひ覚えておいてください。


ここまででわかるように、白馬エリアは山間部でありながら、里雪型のときに雪が降りやすい傾向があるようです。

冬型の気圧配置といっても上空の寒気は強いときもあれば、弱いときもあり、また高度によって差があるため千差万別です。寒気の強さはその時々の気象情報を確認してイメージをもっておくことを推奨しますが、一般的に上空3000m付近で-20℃以下の寒気が入ってくると北陸地方や長野北部では平地でも除雪に苦労するような大雪に見舞われやすいので特に警戒が必要です。

また、日本海の海面水温は冬の初めの方が高く、春先にかけて冷えていく傾向があるため、同じ強さの寒気でも冬の前半(12月や1月)の方が一度の多くの雪が降りやすいと考えられます。

 

移動性高気圧は前面より後面がねらい目

次に入山しやすい穏やかな天気になりやすいパターンを考えてみましょう。

冬に入山しやすい天気になることが多いのはやはり移動性高気圧が日本列島を覆うときです。ところが、白馬エリアが日本海と非常に近いという地理的特徴のために、高気圧の中心がまだ西にある場面では弱い西高東低のような気圧配置となり、各スキー場ではよく晴れていても、それより上の山岳エリアでは風が吹きやすかったり、ガスがかかったりすることがよくあります。

高気圧の中心が東日本の真上~東に抜けつつある場面の方が、風が弱くなりやすく安全に登山が楽しめることが多いようです。高気圧後面は次の気圧の谷の接近前なので、上空高いところの雲が次第に増えていきますが、初心者や中級者にとっては風がない方がより重要だと思いますので、高気圧は後面をねらうことをすすめます。 

プロフィール

宮田雄一朗

日本気象協会所属の気象予報士。山梨県で気象キャスターをしています。天気予報をきちんと伝えられるように奮闘中。日々の天気の話題の中で、登山にちょっと役立つ知識もお届けします。

日本気象協会

日本の気象コンサルティングサービスのパイオニアとして1950年に創立。以来、気象・環境・防災などに関わる調査解析や情報提供を行っている。
近年ではAIやIoT、気象ビッグデータの活用を通じ気象の調査解析、情報提供の精度を向上させ、気候変動への適応など持続可能な世界を実現する活動を支援している。
 ⇒tenki.jp

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