「いつか山の近くで暮らしたい!」。そんな人たちの背中を押す地方移住応援コラムが始まります。初回は「地方移住を成功させるためのステップ」を紹介します!

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文・写真=鈴木俊輔

中央に鎮座する有明山と北アルプスの山々
中央に鎮座する有明山と北アルプスの山々。長野県池田町の自宅近くで撮影

「山の近くで暮らしたい」をかなえるための方法

はじめまして、ローカルライターの鈴木です。山と溪谷オンラインを愛読していただいている方のなかには、「いつか山の近くで暮らしたい」と思っている人も多いのではないでしょうか。この連載では、「地方での暮らしに興味はあるけど、実際どうなの?」「地方移住するためには何が必要?」といった疑問に答えながら、「山のある暮らしの魅力」を発信していきます。どうかお付き合いください。さて、書き始める前にちょっと自己紹介を。

私は神奈川県の出身で、東京の出版社で7年間働いた後、2015年に妻と長野県池田町に移住。町の地域おこし協力隊での3年間の活動を経て、ローカルライターとして独立しました。

私は長野県の移住相談員や町の定住アドバイザーなどの活動もしているのですが、相談に来る方は圧倒的に山好きが多い! 私が住む北アルプス地域は、その名の通り北アルプスのパノラマが目の前に広がる場所。仕事柄、当地の移住者に取材する機会も多いのですが、みなさん口を揃えて「山の景色に魅了された!」と言います。

朝の天気を見て山登りに出かけられるのは山麓暮らしならではですし、毎日、家から山の景色を眺められるのは最高の贅沢です。ここで白状すると、かくいう私は長野県に移住するまで登山経験がなく、子どもが少し大きくなってから山登りを始めました。なので、登山は浅いのですが、北アルプスの麓に移住してから山が大好きになりました。自己紹介はこのくらいにして本題に。今回は、移住を成功させるためのステップについてお話しします。

長野県池田町の定住アドバイザー
長野県池田町の定住アドバイザー(左上が筆者)

山のある暮らしへの第一歩。移住までの4つのステップ

内閣官房が2020年に実施した調査によると、東京、神奈川、千葉、埼玉の4県に住む20代から50代の内、49.8%が「地方暮らし」に関心があると回答。ほぼ2人に1人が地方圏での暮らしに関心を持っているということになります。しかしそのなかで、実際に移住する人はそう多くはないでしょう。縁もゆかりもない土地に移り住むのは不安だし、いろいろなハードルもありますよね。いきなり地方移住というと臆してしまいますが、一つ一つ段階を踏んでいけば実現に近づきます。具体的に移住へのステップを見ていきましょう。

① 移住の目的を整理

何のために移住するのか、移住してどんな生活を実現したいのかを明確にしましょう。移住の目的がはっきりすることで、住みたい地域が見えてくるかもしれません。そして、移住するに当たっていちばん大事なのは、一緒に移住する家族やパートナーがいる場合はよく話し合うこと。本当に新天地での生活を望んでいるのか、家族間で意見の相違はないか。地方に移住すれば、住む環境も付き合う人もすべて変わります。学校に通う子どもがいれば、転校が必要です。後になって、「こんなはずじゃなかった……」ということがないよう、家族の思いや考えを確認しましょう。

② 情報収集

気になる地域をインターネットやSNSなどで調べてみましょう。役場や市役所の移住ページには町の概要や支援体制などが載っていて、先輩移住者の体験談なども参考になります。また、都市圏などで開かれる移住セミナーに参加するのもおすすめ。役場の移住係の職員や先輩移住者に直接話を聞ける貴重な機会です。気になることはリスト化して聞いてみましょう。

長野県の空き家バンクのWEBページイメージ
長野県の空き家バンクのWEBページ https://rakuen-akiya.jp/

③ 現地訪問

移住候補地が見つかったら、実際に現地に行ってみましょう。暮らしの目線で地域を回れば、生活のイメージが湧いてきます。また、地域の民宿やゲストハウスに泊まると、オーナーが現地のことを詳しく教えてくれます。カフェなどでもいろいろな話が聞けますよ。移住候補地が寒冷地であれば、あえて真冬に行ってみるのもおすすめ。過ごしやすい季節だけでなく、それ以外の季節も体感しておくと安心です。また、情報だけでなく、フィーリングも大切にしたいところ。その土地を訪れて、ワクワクするのか、それともしっくりこないのか。直感は意外と重要です。

アクセスや買い物環境など、暮らしの目線で地域を散策
アクセスや買い物環境など、暮らしの目線で地域を散策

④ 仕事探し・住まい探し

地方移住に当たってのいちばんのハードル。しかし、仕事と住まいがなんとかなれば、移住の実現は目の前です。これらのテーマについては次回以降で詳しく書きますが、ここではちょっとだけ触れておきます。仕事については、しばしば「地方には仕事がない」と言われますが、都会に比べて業種や職種が少ないだけで、必ずしも求人が少ないわけではありません。特に近年は労働者人口の減少で、積極的に求人を行なう企業はたくさんあります。ハローワークなどで、どんな仕事があるのかを調べてみましょう。住まいについては、「庭付きの一軒家を借りて住みたい」という方がとても多いのですが、実際のところは賃貸できる空き家物件はそう多くはありません。いわゆる「空き家はあるが住めない問題」です。アンテナを高く張ってこまめに空き家バンクや不動産屋のサイトなどで探すとチャンスが広がります。また、一旦はアパートなどに住んで、そこから空き家を探したり新築したりするのも一つの手です。

「物置として必要」「いつか実家に戻りたい」など、空き家を人に貸せない理由はさまざま
「物置として必要」「いつか実家に戻りたい」など、空き家を人に貸せない理由はさまざま

半年間の準備で信州に引っ越した私が移住までにしたこと

大きく分けると、だいたいこんなステップです。一つ一つ行動に移していくと、次にやるべきことが見えてきますし、移住先での生活のイメージが湧いてきて不安も少なくなります。準備から移住まで、どのくらい時間をかけるかは一概には言えず、数カ月でスピード移住する方もいれば、何年もかけて検討して移住に至る方もいます。私の場合は、年末に会社を退職し、約半年間かけて準備し、翌年の7月に引っ越しました。移住先を考えるなかで、自然が豊かで実家からもそこまで離れていない長野県に候補地を絞り、実際に各地を回りながら旅先でいろいろな方から話を聞きました。そのなかで池田町の存在を知り、美しいアルプスの景色に感動し移住を決めました。もう少し現地の暮らしを知っておきたかったので、近隣地域の農場でWWOOF(住み込みの農業体験)を経験。たった10日間でしたが、真冬の寒さや地域での暮らしを体験できたおかげで、自分が移住してからの生活をイメージすることができました。

2月にWWOOFを体験した安曇野市のリンゴ農場
2月にWWOOFを体験した安曇野市のリンゴ農場

移住までにはいくつかのハードルがありますし、移住してからも苦労することはあります。それでも、自分が選んだ場所で自分が望む生活を送れることは最高の幸せです。地方への移住を考える方にとって、このコラムが少しでもお役に立てばうれしいです。次回は、「住まい探しのポイント」について書きます。

プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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