山岳・風景写真の教科書 第3回 構図を学ぶ
写真の個性や良し悪しは構図で決まります。カメラの技術的進歩がどれだけ進んでも、構図を決めるのは撮影者です。自分の感動を写すための秘訣を紹介します。
文・写真=菊池哲男
感動した部分の面積を大きく取る
構図をわかりやすく言い換えると「四角いフレームの中の陣地の取り合い」です。撮影時に何に感動して何を伝えたいかを、山の稜線や地平線、水平線を上下させることで写真を見る側に印象づけます。
[作例1]
朝焼けの空に感動
上空の大きな雲が赤く染まったことに感動したので、山よりも空を大きく切り取った
[作例2]
山全体をフレーム内に
山の稜線を入れて空の部分を少なくし、その分、山の下方を入れることで山体をしっかり表現した

悪い例
山の稜線をほぼ上下中央に置いたため、雲のない青空が広がり、山が低く見えてしまい、迫力に欠けた
[作例4]
シンメトリー構図、山と映り込み
風がなく、白馬大池に鏡のように映りこむ小蓮華山を上下の2分割法で撮影し、対称性を表現した
[作例5]
手前の花咲くナナカマドもポイントに
作例4よりも水平線を上げ、池の手前に花を咲かせたナナカマドを入れることで奥行きを表現した
横構図はスケール感、
縦構図は遠近感
人間の目は横に2つ並んでいるので視界は左右に広く、上下に狭くなっています。したがって山などの風景写真は広がりなどスケール感を重視するので、基本は横構図となります。テレビや映画のスクリーンが横に長いのもこのためで、安定感があります。ではSNSなどスマホで見ることが多い写真はどうでしょう? 縦長のものが多いですよね。縦構図は人間やビル、木々など縦長のものを写しやすく、また遠近感(パースペクティブ)や高度感、不安定感の表現に優れています。
[作例6]
横構図。お花畑の広がりを感じる
[作例7]
縦構図。お花畑の奥行きを感じる
カメラが発明されて約200年がたちます。カメラ開発の歴史は誰もがうまく写真を撮れることをめざすことでした。では「うまい」写真とは何によるのでしょうか。
まずは写真の明るさ(露出)です。被写体の明るさに対して、レンズの絞り、シャッタースピード、ISO感度で決まります。そこでAE(自動露出)が開発されました。
次にフォーカス(焦点)です。ピントが合わない写真だと、もらってもうれしくないでしょう。それでオートフォーカスが開発されました。最近では手振れを防ぐ機能も搭載されています。
このように技術面が進歩して誰もが「うまい」写真を撮りやすくなっても、変わっていないことがあります。それは何を写すか、どう切り取るかという構図を撮影者が決めるということです。したがって写真はこの構図の良し悪しでいちばん差が出てくるのです。前回、「人物スナップ」編の前半で取り上げたのもまさに構図で、分割法を取り上げました。
(『山と溪谷』2024年7月号より転載)
プロフィール
菊池哲男(きくち・てつお)
写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
山岳・風景写真の教科書
『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。
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