山岳・風景写真の教科書 第7回 光を究める

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写真の命は「光」。撮影時にどの方向からどんな光が当たっているかを意識し、撮影したい山と時間の適切な撮影スケジュールを立てると、写真の質は劇的に上がります。

文・写真=菊池哲男


写真は光を使って物や風景を画像として保存するものなので、光がないとなにも写りません。光源からの光は放射状に広がりますが、太陽などのように光源が無限に遠くにあるときは、光線は平行な光として扱うことができるという性質があります。

一般的な自然風景における光源は太陽が基本です。晴れの日の太陽光は平行光線で広がりはありません。そのため、晴れの日に被写体があるとくっきりと影ができます。

では曇りの日や雨の日はどうでしょう? 曇りや雨の日は太陽が見えませんが、厚い雲の向こうに太陽があり、雲によって柔らかな光に拡散され、面の光源になっています。そのため曇りの日は光が被写体全体に回り、色合いが優しく、影ができにくくなります。

被写体・撮影者と光の差す方向の名称

横から見たところ

上から見たところ

作例の紹介

順光

写真解説:大喰岳(おおばみだけ)から夏の槍ヶ岳(やりがたけ)を撮影。順光の作品は光が均一に当たり、登山道などの情報がよく伝わります。コースガイドなどに適しています。

撮影者が太陽を背にすることで被写体に均一に光が当たり、色鮮やかに再現できます。朝日夕日に染まる山もこの光です。複数人での記念写真にも向いています。ただし、全体的に立体感に乏しく、メリハリのない写真になりがちです。

サイド光

写真解説:上の写真と同じ場所で時間を変えて撮影。サイド光は山の反対側に影が出て、山や手前の残雪が立体的に表現されています。

撮影者の横から太陽が差す状態で、被写体に影が出て立体感が生まれ、コントラストもアップします。山の撮影にとてもマッチする光です。

半逆光

写真解説:冬の八方(はっぽう)尾根第2ケルン付近。波打つようなシュカブラ(雪の風紋)が、半逆光により細やかで柔らかい影を作り、立体的に表現できました。奥の山並みは頸城(くびき)連山。

半順光は順光とサイド光の間で、色鮮やかにしつつ、立体感もある作品になります。半逆光は逆光とサイド光の間にあり、撮影者側の手前斜めに影が出るため、立体感が増し、ドラマチックになります。

逆光

写真解説:厳冬期、北八ヶ岳(きたやつがたけ)北横岳(きたよこだけ)山頂で迎えた朝日が雪面を染めます。朝夕の光は特にドラマチックなことが多くなります。

被写体(山)側に太陽がある状態でメインの被写体が影で暗くなり、ディテールなどが出にくくなりますが、特に朝夕などはドラマチックで雰囲気のある作品になります。ただし、太陽がフレーム内に入るとゴースト(光が六角形や楕円形となって写り込むこと)、フレアー(画像が白っぽくなること)が発生するので注意が必要です。

『山と溪谷』2024年11月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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