山岳・風景写真の教科書 第10回 夜の山を写す・星空編

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空気が澄んで多くの星が輝く季節ですね。これまでに学んできた撮影の基礎を駆使すると、夜の山も写せるようになります。この冬は山岳夜景撮影に挑戦してみましょう!

文・写真=菊池哲男

何をどう表現するかが大切

デジタルカメラではその場でいろいろな情報を液晶モニターで確認できることから、フィルム時代に比べて圧倒的に山岳夜景が撮影しやすくなりました。それでもピントや露出などをマニュアルモードで撮影する必要があることから、今でも難易度がそれなりに高い撮影です。でも実際にやってみると、意外と簡単に写ることを実感できるでしょう。星を写す以上に、何をどう表現するかが大切です。星座を表現したいときは星を点で写したほうがわかりやすく、星が昇る・沈むなどの動きや時間の表現には光跡が向いています。

1. 撮影準備

①撮影モードをマニュアルMに設定

露出(明るさ)に関わる「絞り」「シャッタースピード」「ISO感度」を自分で設定していきます。

②超広角レンズに替える、もしくはズームレンズの場合は焦点距離を広角側(24mmや28mm)に設定。絞り値をレンズの小さい数字(F2.8やF4など)に設定

暗い中、どこまで光を取り込めるかはレンズの性能で決まっており、星の撮影用には超広角の単焦点レンズ20mm/F1.8や14-28mm/F2.8などのズームレンズが適します。といっても、超広角レンズを持たず、24-120mm/F4などズームレンズ1本というユーザーも多いでしょうから、今回はズームレンズを想定して解説します。

③ISO感度を1600~4000に設定

④シャッタースピードを15~30秒に設定

⑤無限遠にピントを合わせる

星を写す場合は、基本的に無限遠(むげんえん)にピントを合わせましょう。まずは暗くなる前にオートフォーカスで無限遠の遠景にピントを合わせ、ボディ側またはレンズ側でオートフォーカスをオフにします。このとき、持ち運びでずれないようにマスキングテープで止めておくと安心です。撮影中に焦点距離を変えてしまった場合や誤ってレンズのピントリングを動かしてしまった場合などは再調整が必要です。カメラを三脚に固定し、ミラーレスカメラではそのまま明るい星や街明かりなどを背面液晶モニター上で拡大し、星像や街の明かりがボケずに小さくなるようにピントリングを回して合わせます。一眼レフカメラの場合は、ライブビューモードに変えて同様なやり方でピントを合わせます。


2. 撮影

実際の撮影では

(1)星をほぼ止めて写す
(2)星の光跡を写す

と大きく2つに分けられます。光跡を写そうとして失敗すると時間がもったいないだけでなく、狙う星座も日周運動で動いてしまい、これを避けるためです。

①まずは撮影時間を短め(15~30秒)にして撮影し、露出を決定

②ISO感度を下げ、シャッタースピードを長くする。絞り値を大きくして、露光時間を長くする

下の作例を見てみましょう。

(1)星をほぼ止めて写す

小遠見山より五竜岳・鹿島槍ヶ岳に沈みゆく冬の星座たち

星をほぼ止めて撮影するために、この露出(写真の明るさ)に決定しました。焦点距離が長くなるとシャッタースピードをさらに短くする必要があり、その分ISO感度を上げなければなりません。すると、高感度ノイズ(写真がざらついた感じになったり、現実にはない色が写ること)が目立つなど画質が悪化するので注意が必要です。光跡を写す際は、ISO感度を下げます。今回は4000から100に落とします。

撮影データ

焦点距離 14mm
絞り F2.8
シャッタースピード 15秒
ISO感度 4000

(2)星の光跡を写す

ISO感度を下げると写真は暗くなります。露出を、星をほぼ止めて写したときと同じにするためにシャッタースピードを長くし、絞りを絞ります。

(計算例)
ISO感度:4000→100  1/40倍
シャッタースピード:15秒×40倍=600秒(10分)
絞り値と光量:F2.8→F4にすると取り入れる光量は1/2倍
シャッタースピード:600秒×2倍=1200秒(20分)

撮影データ

焦点距離 14mm
絞り F4
シャッタースピード 1200秒
ISO感度 100
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北の空の日周運動

北半球では、天の北極付近に北極星があります。北極星を中心に反時計回りに星が動くように見える、星の日周運動の様子も写すことができます。

栂池・展望湿原付近より北天付近の日周運動

撮影データ

焦点距離 14mm
絞り F4.5
シャッタースピード 1230秒
ISO感度 100

『山と溪谷』2025年2月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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山岳・風景写真の教科書

『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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