ウメとサクラの花の見分け方。北アルプスの上高地と岳沢に咲く4種類の桜も含め、キーポイントを解説します
文・写真・図版=昆野安彦
目次
公園によく植栽されているウメとサクラ。どちらも同じバラ科サクラ属の樹木なのでその花の形は互いによく似ているが、ウメはスモモ亜属、サクラはサクラ亜属と、分類学上は別種の樹木だ。どちらも春に咲くので、両樹が混在していると、どちらがウメで、どちらがサクラなのか、判断に迷うことがある。皆さんはこの二つの花の明確な違いをご存じだろうか。ウメの方が早く咲くよ!という答えは核心をついているが、遅咲きのウメと早咲きのサクラは花期が重なることがあり、この答えだけでは両樹の決定的な見分け方にはならない。
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ウメの花柄はごく短いが、サクラには長い花柄がある
ウメとサクラの花の見分け方のもっとも重要な区別点は、その花の付き方だ。サクラは花柄(かへい)という細長い茎の先に花をつけるのに対し、ウメの花柄は2~3ミリほどと、ごく短い。そのため、ウメの花は枝に直接花が咲いているように見える。
また、葉が茎に付く部分のことを植物用語で「節」というが、サクラの花は一つの節から複数の花を咲かせるのに対し、ウメは一節に一つの花が基本だ。このため、サクラの花は一本の枝に花が鈴なりになっているように見えるが、ウメの場合は一本の枝に点々と花がつく感じになる。この二つの点に注意すると、両樹の区別は難しくないだろう。
ちなみに、果物屋さんで商品として売られているサクランボには手で持ちやすいように軸が付いていることがあるが、これがサクラの長い花柄だ。
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上高地のサクラの仲間
一口にサクラと言っても、日本にはさまざまな種類が見られる。都市部の公園に植栽されているサクラの多くは「ソメイヨシノ」という栽培品種だが、日本の山野には野生種のサクラも自生している。実際、ソメイヨシノも、その起源は野生種のエドヒガンとオオシマザクラの種間雑種であることが明らかにされている。
野生種のサクラは上高地にも自生している。河童橋周辺で見られるのは、ミヤマザクラ、ウワミズザクラ、シウリザクラ、それにタカネザクラの4種だ。
ソメイヨシノの花の付き方が「散形花序」と呼ばれ、一か所から複数の花が出るのに対し、タカネザクラを除く上高地の3種のサクラは花の付き方が少し異なり、いずれも「総状花序」という花の咲かせ方をしている。
総状花序のウワミズザクラとシウリザクラ
総状花序というのは花柄のある小花が円錐状または円柱状に並んでいるもののことで、とくに上高地に自生しているウワミズザクラとシウリザクラは全体が白いブラシのような円柱状をしているのが特徴だ。
私が住む東北の里山では、ウワミズザクラはよく見かける種類で、今でこそ、いつ出会っても落ち着いて見ていられるが、初めて見たときはずいぶん面白い花を咲かせる樹だなとびっくりしたものだ。しかも、調べてみるとサクラの仲間ということで、自然界には私が知らないことが多々あるのだなということを認識させてくれた樹でもある。
ここでバラ科サクラ属の分類について解説
ところで、バラ科サクラ属は、果実や核の形態の特徴から次の五つの亜属に細分化されている。すなわち、サクラ亜属、ウワミズザクラ亜属、バクチノキ亜属、スモモ亜属、モモ亜属で、ここまで書いてきた種類では、ソメイヨシノとミヤマザクラがサクラ亜属、ウワミズザクラとシウリザクラがウワミズザクラ亜属、そしてウメがスモモ亜属ということになる。
この五つの亜属のうち、私たち日本人がサクラの花として一般にイメージするのはサクラ亜属の種類だが、日本の山野にはソメイヨシノのような栽培品種のほかに、野生種も自生している。すなわち、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、クマノザクラ、カンヒザクラ、それに前述のオオシマザクラ、エドヒガン、ミヤマザクラなどだ。
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岳沢に咲くタカネザクラで絶景のお花見
サクラ亜属の野生種であるタカネザクラ(別名ミネザクラ)は、上高地付近でも見られる。河童橋から横尾にかけての遊歩道沿いに点々と見られるが、亜高山性のサクラなので、より標高の高い場所でも見られる。たとえば河童橋から歩いて2時間ほど登った岳沢にも少数が自生している。
岳沢にある岳沢小屋の標高は2170mだが、さらに少し登った天狗沢方面の標高2200m付近にも自生している。強風の多い場所のためか、どの株も樹高は3mほどと小さい。
このタカネザクラはさきほどの河童橋付近の3種のサクラとは異なり、ソメイヨシノと同じ散形花序のサクラだ。その点では、上高地のサクラのなかではもっともソメイヨシノに近いサクラと言うことができる。
岳沢や天狗沢に登ってこのタカネザクラの花を見る機会があれば、おそらく、日本ではもっとも高標高の絶景のなかでのお花見を楽しんでみるのもいいだろう。
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アンズとモモの花
サクラのことばかり書いてきたので、最後にアンズとモモの話をしよう。アンズはウメと同じスモモ亜属、モモはモモ亜属と分類は異なるが、共通点もある。たとえば、その果実にはいずれも縦方向の浅い溝がある。いずれも中国原産で、古い時代に日本に渡来して果樹や花木として育成されてきたものだ。ちなみにウメも中国原産だ。
アンズとモモの花は花柄がごく短い点など、ウメの花に良く似ているが、ウメが一節に1個の花を咲かせるのに対し、モモとアンズは一節に複数の花を咲かせる。このため、ポツポツと咲いているように見えるウメに対し、アンズとモモは枝に花が密集して咲いているように見える。
アンズとモモの花の区別点は開花期の萼片の反り返りで、アンズは反り返るが、モモは反り返らないと言われている。花が咲いていれば、この特徴から区別できると思うが、もし花で区別できない場合は、少し悠長だが、果実が成るまで待てば、きっと区別できるだろう。
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以上、ウメとサクラの花の見分け方とともに、岳沢と上高地のサクラについても種々書いてみた。
これからウメとサクラの咲く季節を迎えるが、近所にウメとサクラがある地域にお住いの方は、是非、今回の記事の区別点に注意して両樹の花の付き方を確認していただければと思う。
なお、冒頭の写真の花はウメで、野鳥はメジロである。とりあわせの良い二つのもののたとえに「梅に鶯(ウグイス)」という言葉があるが、ウグイスが人前に姿を現わすことは稀で、梅の枝に止った姿を見る機会はごく少ない。一方、メジロはウメの花の蜜が大好きなので、写真のような姿を見る機会が多い。とても絵になる構図なので、ウメの花が咲いていたら、注意するとよいだろう。
最後になるが、今回の記事で用いたサクラ属の分類については、「山溪ハンディ図鑑3 樹に咲く花 離弁花①」(山と溪谷社、2000年刊)に準拠したことを付記する。
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| 著者 | 山と溪谷社編 |
|---|---|
| 発行 | 山と溪谷社(2021年刊) |
| 価格 | 1,980円(税込) |
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プロフィール
昆野安彦(こんの・やすひこ)
フリーナチュラリスト。東京大学農学部卒(農業生物学科)、東北大学農学部名誉教授。著書に『大雪山自然観察ガイド』『大雪山・知床・阿寒の山』(ともに山と溪谷社)などがある
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