ユズ、山椒、それとも夏ミカン? アゲハチョウやクロアゲハを庭に呼ぶためのガーデンデザインを教えます
仙台に転居した2年後に、5坪ほどの庭が付いた一軒家を購入した。地下鉄の駅から歩いて15分ほどの住宅街で、そんなに昆虫がたくさんいるような場所ではなかったが、それでも時折アゲハチョウやクロアゲハが飛ぶのを見かけた。ちょうど庭にどんな樹を植えようかと考えていたので、それならとアゲハチョウを庭に呼ぶ樹を植えることにした。
文・写真=昆野安彦
目次
アゲハチョウについて少し解説
アゲハチョウについて少し説明すると、ナミアゲハ、または単にアゲハとも呼ばれるように、日本産のアゲハチョウ科のなかではもっともポピュラーな種類だ。北海道から南西諸島までの日本のほぼ全域に分布し、雌はミカン科の植物に産卵する。
成虫の発生は年に数回だが、春に羽化する春型と呼ばれるタイプは、夏に羽化する夏型と呼ばれるタイプよりも少し小型。この小さな春型は、飛んでいる時の様子が「春の女神」とも呼ばれる同じアゲハチョウ科のギフチョウやヒメギフチョウに少し似ており、この春型のアゲハチョウは私の好きな蝶の一つになっている。
なお、この春型と夏型のように、同じ種でも季節によって大きさや色彩が異なることを、昆虫の世界では「季節型」と呼んでいる。
*
ミカン科植物のいろいろ
さて、アゲハチョウはミカン科の樹に産卵するので、庭に植える樹は同科のなかから選ぶことになるが、一口にミカン科と言ってもいろいろな種類がある。思いつくままにあげてみると、野生種ではサンショウ、カラスザンショウ、キハダ、コクサギ、ミヤマシキミ、マツカゼソウなど、栽培種ではユズ、カラタチ、夏ミカン、ミカンなどだ。
狭い庭なのでそうたくさん植えるわけにはいかない。樹と樹の間隔はある程度あける必要があるからだ。少し迷ったが、果物のなる樹があればいいなと思っていたので、温州みかんを植えることにする。
*
宮川早生を購入する
温州みかんについて少し説明すると、ミカン属、キンカン属、カラタチ属などからなる柑橘類の1種で、スーパーで売っているミカンはこの温州みかんだ。
一般に温州みかんの樹は寒さにあまり強くないため、現在、太平洋側の北限の栽培地は宮城県の山元町と言われている。私の家は山元町よりさらに北なので、もし果実が成れば、素人栽培とはいえ、日本最北のミカンになるかもしれない。
ネットで温州みかんの苗木を検索すると、寒さに強いという説明のある「宮川早生(わせ)」という品種が目に留まった。大きな果実が付いた良さそうな苗木で、樹高は1.5mもある。愛知県の農家さんのサイトだったが、購入した人の評価が軒並み良いので、この樹に決める。
愛知県で育った苗木が、東北の仙台で果たしてうまく根付くかなと案じていたが、秋になると普通のミカンがたくさんできたのは嬉しかった。
*
ヘンルーダも植えることにする
さて、ここで困った問題が起きた。それは当初の目的通り、アゲハチョウが産卵のために庭に飛来するようになったのだが、放っておくと、孵化した幼虫がミカンの葉をもりもり食べてしまうからだ。
あまり幼虫が多いと果実の成り具合も悪くなってしまう。ミカンは食べたいし、かと言って蝶も見たいというジレンマ。そこで私は、宮川早生で見つけた幼虫は適宜、ヘンルーダ(別名:ルー)という別のミカン科植物に移し替えることにした。
ヘンルーダ、あるいは別名のルーと聞いてすぐにそのイメージが湧く方は、相当の植物通だ。
地中海沿岸地方原産のミカン科の常緑小低木で、日本には江戸時代に渡来したそうだ。当初は薬用や料理の香りづけなどに利用されていたそうだが、今はそのような使われ方はほとんどされていないようだ。
現在、ヘンルーダは庭植えの観賞用やドライフラワーの材料として園芸店などで売られているが、私の場合は幼虫の移送先として、家の敷地の隅っこにまとめて植えてみることにしたのである。
*
一石二蝶!? うまくいった庭造り
さて、その結果はというと、うまくいった。宮川早生から移した幼虫は、ヘンルーダの葉をもりもり食べてくれたからだ。
また、もう一つ予想外のこともあった。それはヘンルーダにもよく産卵することで、これなら幼虫を移し替えるという手間をあまりかけずにアゲハチョウの数を増やすことができる。
つまり、ヘンルーダを植えたことにより、ミカンの収穫とアゲハチョウを呼ぶ庭造りの両方がうまくいったのである。一つの行為から二つの利益を得ることを「一石二鳥」というが、ヘンルーダの場合は蝶がからんでいることなので、少々強引な解釈だが、「一石二蝶」と言い換えてもいいのかな、と思っている。
なお、幼虫を移し替える時に素手で触るのが不安な方は、水彩用絵筆の先を水で濡らして優しく幼虫をすくいとるとか、あるいは軍手をはめてつまむと良いだろう。
*
せんだい蜜柑と命名
温州みかんを庭に植えてから今年で20年になる。昨年は150個ものミカンが成ったが、150個もあると、秋から冬の間、スーパーで買う必要がなくなる。苗木を買った時の値段を考えると、その点では非常に良い買い物だったわけだ。
ヘンルーダも落下した種子から自然に増え、こちらもアゲハチョウを呼ぶのに大いに貢献している。
私の家は仙台市にあるので、庭の自家製のミカンには「せんだい蜜柑」の名前を付けている。この「せんだい蜜柑」の味を知る人は、ご近所や旧友など、ごく一部の方に限られるが、食べた方は「とても、おいしい!」と言ってくださる。多少は手間暇をかけて育てているので、そう言ってもらえると、作った甲斐があったな、などと思っている。
*
チョウを呼ぶ花、ブッドレア
ところで、今回の記事ではおもにアゲハチョウが産卵する植物についてここまで書いてきたが、アゲハチョウが蜜を吸うために訪れる「花」についても、どんな種類を庭に植えたらいいか、紹介しておく。アゲハチョウが好む花が庭にあることにより、より長い時間、アゲハチョウが飛び回る姿を庭で見ることができるからだ。
私の家では、ブッドレア(正式名称:フサフジウツギ Buddleja davidii)を数本、植えている。この花は中国原産とされ、長い円錐形状の花穂に各種のチョウがよく集まることで知られ、英名でも「バタフライブッシュ」と呼ばれている。花期は7~10月と長いため、庭に花がお目当てのチョウ類を呼ぶには、最適な花の一つと言えるだろう。
写真は庭のブッドレアを訪れたクロアゲハだ。アゲハチョウに比べると里山をおもな棲み家にする、住宅地ではやや稀な種類だが、ブッドレアの花が庭にあれば、こうした里山のチョウも庭に来ることがある。ちなみに、クロアゲハも庭のミカンによく産卵するが、ヘンルーダから幼虫が見つかることもある。
*
ブッドレアで分かる近所の蝶の多様性
このブッドレアにはアゲハチョウやクロアゲハ以外にもさまざまな蝶が訪れる。たとえばタテハチョウ科のツマグロヒョウモンだ。この蝶は南方系の種だが、最近は仙台でもごく普通に見ることができるようになった。このように、ブッドレアが庭にあれば、自宅の周囲にどんな蝶が生息しているかが分かるわけである。
たとえば、学校の校庭の片隅にブッドレアを植栽し、子供たちにブッドレアに集まる蝶を毎日、観察・記録させれば、立派な理科の自然研究になるのではないかと思っている。
*
以上、私のアゲハチョウを呼ぶ庭造りについて紹介した。もし仙台より南にお住まいで、「庭にアゲハチョウを呼んでみたい」、「ついでにミカンも食べたい」と考えている方がおられたら、私のやり方を参考のひとつにしていただければと思う。
温州みかんの苗木の植え付け時期は、厳冬期後の3月頃が良いとされている。今回の記事を読んで苗木の購入を検討されている方は参考にしてもらいたい。なお、温州みかんは単為結果性で、1本でも結実すること、および隔年結果性で、よく実った次の年は、あまり実らないことも覚えておいてもらいたい。
ヘンルーダについては、冬になったら根元より少し上で切り詰めて剪定すると、春にみずみずしい茎と葉が伸長し、アゲハチョウの産卵に好適な状態になる。私の経験ではこの冬の剪定をしないと、どうもヘンルーダの状態が芳しくない。この点もお含みおきいただければと思う。
私のおすすめ図書

育てやすい&たくさんとれる 一坪ミニ菜園入門
庭先のちょっとしたスペースを利用したい、除草に手間をかけたくない、無農薬で健康な野菜を作りたい、一坪でもたくさんの野菜を作ってみたい。そんな方におすすめなのが、この一冊です。この本で紹介する菜園は2×2mの木枠を庭において管理しますが、木枠の作り方、土壌の作り方、人気の野菜64種の栽培方法が紹介されています。私も自宅の庭に木枠菜園を作ってみましたが、とても参考になりました。この本があれば、きっと理想的な菜園ライフを楽しむことができるでしょう。
| 著者 | 和田義弥 |
|---|---|
| 発行 | 山と溪谷社(2024年刊) |
| 価格 | 1,980円(税込) |
目次
プロフィール
昆野安彦(こんの・やすひこ)
フリーナチュラリスト。東京大学農学部卒(農業生物学科)、東北大学農学部名誉教授。著書に『大雪山自然観察ガイド』『大雪山・知床・阿寒の山』(ともに山と溪谷社)などがある
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他