金額は? 使途は? 導入に向けて動き出した南アルプスの入山料

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富士山などですでに始まっている入山料制度。南アルプスでも2025年に実証実験が行われることになった。山麓の大鹿村を拠点に活動するライターが、南アルプスが抱える課題と、協力金制度の構想について取材した。

文・写真=宗像 充

今夏、1口500円で実証実験を実施

長野県内の伊那市、飯田市、大鹿村の3市村と国や長野県、山小屋および山岳関係者が2月25日、南アルプス(伊那谷エリア)山岳環境保全連絡協議会の設立総会を開き、今年6月から協力金(寄付金)を募ることを表明した。今年の夏シーズンは実証実験として1口500円の協力金を募り、登山者にアンケートを取りながら周知する。具体的な運用の開始は来シーズンを想定している。各地の山岳でも導入が議論されているなか、南アルプスでの課題を探った。

2月25日の南アルプス(伊那谷エリア)山岳環境保全連絡協議会設立総会
2月25日の南アルプス(伊那谷エリア)山岳環境保全連絡協議会設立総会。発言しているのは白鳥孝伊那市長

南アルプス全域での募金をめざす

登山の協力金は登山者に任意で協力を呼びかけ、資金を登山道整備やトイレ等環境整備に充てる場合が多い。北アルプスや富士山で先行して実施されてきた(富士山では通行料に移行、義務化)。

協力金募集の方法は、北沢(きたざわ)峠の登山バスを運行している伊那市戸台も含め、三伏(さんぷく)峠への鳥倉(とりくら)登山口を抱える大鹿村、聖岳(ひじりだけ)・光岳(てかりだけ)への芝沢口(しばさわぐち)にゲートをもつ飯田市でも、QRコードの読み取りによるクレジットカード決済を検討している。ホームページを通じての寄付も可能だ。

またこの日、山梨県側、静岡県側にも呼びかけて、広く協力金の枠組みを作る意向が、協議会の会長に選任された白鳥孝伊那市長から示された。協力金は山岳地域の自然環境保全のために広く使われ、その恩恵を受けている登山者にも負担を求めることがうたわれる。

「なぜお金を払うのか」、納得できる理由を

筆者は夏に南アルプスの山小屋の三伏峠小屋の手伝いをしている。忙しい時に小屋に上がって売店の店番もする。協力金が呼びかけられた場合、北アルプスでは山小屋に募金箱が置かれているように、南アルプスでも同様のことが想定されている。

登山道や高山植物保護にはお金も労力もかかることはわかる一方で、「なぜお金を求めるのか」については説明する立場にある。地元の人間として南アルプスが好きな人に来てほしいと願うので、不必要なお金をとった結果、二度目はない観光的な登山の場になるのは望まない。そして南アルプスの山にしょっちゅう登る人間としては、「なぜお金を支払わないといけないのか」については納得いく理由が欲しい。

地元の自治体の住人であれば市町村に税金という会費を納めているし、そうでなくても国に同様に税金を納めている。まずもって行政主導で金を利用者に求めるのであれば、「税金の二重取り」と言われない程度の説明責任が行政側にあると思う。

一方で、商業活動以外にも、ある活動の参加に際し参加費や協力金を支払うことは当然あり、その場合、その活動が進んでお金を出すほどの内容であるのか、関心はある。

特に南アルプスは国立公園でもあり、みんなの共有財産でもあるので、受益者は登山者だけではない。民間活動とは違う公益性がその維持運営には求められると思っている。

受益者負担のねらいと課題

登山者としては、中央アルプスや八ヶ岳にはない協力金をなぜ南アルプスで、と疑問に感じるだろう。

「やらなければいけないことがたくさんあった。やっとスタートした」と設立総会で白鳥伊那市長は意欲を見せた。

今回の協力金については伊那市の果たした役割が大きい。伊那市は登山バスで大量の登山者を運び込む北沢峠を擁するため、全域の組織ができれば、そこで得た協力金を全域の自然環境保全にも役立てることができる。昨年4月、環境省と伊那市は登山者にお金を求める場合の方法を協議したようだ。

特に民間の山小屋が登山道管理をしている北アルプスと違って、南アルプスの場合、行政管理の山小屋が多く、登山道も行政が維持している部分が大きい。

たとえば、伊那市管理の登山道では専門の職員が登山道の維持管理をしている。三伏峠までの鳥倉登山道は、老朽化した桟橋の架け替えを大鹿村が一昨年から3年かけて進めている。昨年は1500万円で今年も同程度の費用がかかる見込みだ。

委員として出席した三伏峠小屋オーナーの平瀬定雄さんは、「鳥倉登山口は約6000人の登山者がいる。日帰り利用者も増えており、桟橋も古くなり道を壊すなど問題」と現状を指摘。「受益者負担の考えで協力金を募るには管理を一律でする必要がある」と述べた。

登山道整備
登山道整備は登山者にとって理解しやすい使途だ。鳥倉登山道で新しくなった桟橋

シカの食害対策にも活用?

しかしこの日、白鳥市長が強調したのは「シカの食害の影響」だ。実際、高山植物を保護するシカ柵維持のため、毎年ボランティアが三伏峠にも登ってくる。柵のあるなしで植生に与える影響は明らかで、柵が傷むと侵入したシカで高山植物は根絶やしになる。

シカの食害を防ぐための柵
南アルプス全域で深刻化するシカの食害を防ぐための柵

ただ、シカが増えたのは登山者のせいではない。

ぼくが口にすると、伊那自然保護官事務所の石橋岳志自然保護官は「山に負荷を与え恩恵を得ている登山者も協力して、みんなで環境を守って次の世代に伝えるのが目的。お金をとるのが目的ではない」と、あらためて協力金の理念を説明された。

先行した北アルプス南部では、登山道維持のために松本市と安曇野市がそれぞれ500万円ずつ出資し、それを原資にして登山者にも負担を求めている。1回目の会議で歳入歳出の決算書案が示されている。名称も利用者参加制度とされ、通称を「北アルプストレイルプログラム」とした。協力金をきっかけに登山者に登山道維持について関心を持ってもらう狙いが大きい。2021年の初年度に531万円、2年目は427万円が集まっている。

NEXT求められる使用目的と透明性の確保
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プロフィール

宗像 充(むなかた・みつる)

むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。

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