金額は? 使途は? 導入に向けて動き出した南アルプスの入山料

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求められる使用目的と透明性の確保

「全体的にかつてに比べて登山者が減っている中、オーバーユースというより自然環境保全という多目的にわたって協力金を登山者に求めることにはいっそう説明が必要になる」と、各地の山岳の利用者として山岳ガイドの山田哲也さん(東京都)は釘を刺した。

環境省によれば、南アルプス国立公園の利用者は年間60万人とされ、上高地の入込数だけで約120万人いる北アルプス南部とは比べものにならない。

「基本登山道の維持管理は行政の責任だと思うが、金をとるなら目的や集める方法、なにに使われたかは明らかにする必要がある。とることが目的になって人件費に使われたなら意味がない」(山田哲也さん)

「南アルプスの自然環境をみんなで維持するのが目的」と言っても、集まる額が少なければ制度としての持続可能性はないのでここも課題だ。

南アルプスでは、登山道整備で登山道周辺のハイマツなどの刈り払い、ロープや道標の設置などが目的になるようだ。改修後の鳥倉登山道のメンテもこの中に含まれる。一方で、協議会の事業として、登山道整備のほか、高山植物保護(ニホンジカ食害対策)、携帯トイレの普及、登山の安全対策も入っている。

7月の北岳山頂(写真=やまころ)
7月の北岳山頂。南アルプスは北アルプスより登山者数が大幅に少ない(写真=やまころ

登山者の意見をどうくみ上げるのか?

甲斐駒ヶ岳七丈小屋や仙丈ヶ岳の馬の背ヒュッテを管理する花谷泰広さん(株式会社ファーストアッセント代表取締役)は、設立総会で「予算や人員が限られているなか、山域全体を一体としてとらえ、美しい景観を後世に引き継いでいくためには、登山者の理解や共感が欠かせない。登山者との対話としてアンケートやパブリックコメントを実施し、丁寧な情報発信をすべきだ。透明性は欠かせない」と強調した。

しかし、2月の設立総会から6月の実証実験まで時間がない。

協議会では長野県側の山岳関係者は参加していたが、北アルプス南部の利用者参加制度の検討会では設けられていた、有識者や利用者代表枠がないのも気になった。

「協力金」の意味

利用者が多い、先行した北アルプス南部でもすべての登山口に協力金のための人員を配置することはできない。「協力金」なので、払いたくない人には本来強制できない。結果制度自体知らないまま登って下山する。

逆に、北沢峠行きの登山バスでの協力金を求める際、事実上の通行料にならない方法を考えて手間や人員が余計にかかれば意味がない(QRコード決済になった)。

設立総会で伊那市が示した登山者へのアンケート(300人対象)では、協力金の導入に96.4%(賛同77.3%、どちらかというと賛同19.1%)が賛成している。しかし整備された北沢峠周辺の登山道の往復に来る人が、南アルプス南部のハイマツに埋もれそうな登山道整備やシカ柵の設置のためと呼びかけられて、ピンとくるだろうか。

「登山者の理解最初から100%とはいかない。アンケートを取りながら改善すべきところはしていく」(石橋自然保護官)

南アルプス南部では、リニア中央新幹線という大型開発が進んでおり、それを誘致してきたのは今回協議会の設置を呼びかけた長野県側の自治体だ。「壊したいのか守りたいのか」、お金を登山者に求める場合、説明を求められるのは売店に立つ筆者だ。

この日、委員の花谷さんは、私案として具体的なタイムスケジュールとともに「南アルプス財団」構想を提示した。尾瀬や知床などには自然公園管理の財団がある。同時にそれは大型開発との長い闘いの歴史の結果でもある。

南アルプスが好きな人が増えるためには

飯田市の遠山谷で登山道整備を実施してきた登山家の大蔵喜福さん(南信州山岳文化伝統の会)は、「そこらじゅうでお金をとられることを登山者は嫌がる。2000~3000円でも、1カ所でお金を払えばあとは安心できる。自然保護のため本気でやるなら(マイカー規制のための)バスを団体で買うぐらいのことをしてもいい」と設立総会で意見を述べた。

山小屋の宿泊料やテント場代の高騰はあるにしても、計画立案とその遂行に厳密さが求められる北アルプス南部と違い、南アルプスはそれでもまだ比較的のんびりしている。それだけに自分の登山の力量を試される幅が大きい。

山小屋の仲間と、定額の山小屋フリーパスやテント場フリーパスがあれば、もっと南アルプスに来たい登山者が増えるのに、と話したことがある。

ゆっくりと腰を据えて南アルプスの自然を楽しみ、何度も足を運んでくれる登山者が増えることが、結果的にこの自然を守りたいと願い行動に移す人を増やすことにもつながると思うからだ。

どんな南アルプスを後世に引き継ぎたいのか、行政と登山者が話し合うべき点はそこではないだろうか。

南アルプス南部、静高平(写真=かぐや姫)
南アルプス南部、静高平。山小屋の数も営業期間も限られるエリアだ(写真=かぐや姫
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プロフィール

宗像 充(むなかた・みつる)

むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。

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