カタクリの花が咲くまでの時間に思いをはせて。葉っぱも観てみよう
春先の山肌を紅紫色に染める可憐な花、カタクリ。その群落に目を向けると、さまざまな発見がある。葉の色、形、大きさ――。花をつけるまでの長い道のりに思いをはせてみた。
文・写真=髙橋修
カタクリの花は可憐で美しい。しかし、きれいな花をなんとなく見るだけではもったいない。よく観察すると、さらにいろいろなことが発見できる。
今年、日本の山は残雪が多く、山の上では例年よりカタクリの開花が遅れている。カタクリが満開になるのがこれからの山も多い。佐渡や東北にあるカタクリの群落地では、まだまだ山を紅紫色に染めるカタクリたちに出会えるのだ。
カタクリは、花が咲くまでに何年かかるのだろうか。種を蒔いていつ咲くのか栽培実験をしたら、花が咲くまでに7年かかったという。これは栽培実験の期間であるので、実際山の中で自生する場合は、さらにもっと時間がかかることは容易に想像できる。つまりカタクリは花を咲かせるまでに最短で7年、だいたいはそれ以上かかるということになる。
カタクリの花の群落地では、花だけでなく、花が咲いている株の周りも観てみよう。大きいものから小さいものまで、あおあおとしたカタクリの葉っぱが、たくさん見られるはずだ。
関東地方のカタクリの葉っぱは 緑色だけではなく、紫色の模様が入った葉が多いが、新潟のカタクリの葉は、なぜか緑色だけのものが多い。私にはわからないが、この模様には何か意味があるのだろうか。

さらによくカタクリの葉っぱをよく探してみると、芽ネギをクチャッとしたみたいな、細い葉っぱがあることに気がついた。実はこの細い葉は、カタクリの種から芽ぶいたばかりの1年目の葉なのである。
さらに、もっと探してみると、その1年生のカタクリの葉っぱにマッチ棒の頭のような茶色いものが乗っかっているものがあることに気がついた。そこをよく観察すると、茶色で、ちょっと固そうだが、皮はへなへなになっている。これがカタクリの種皮だ。種からニョキニョキと1年生カタクリの芽が出て、その先端に種皮が残っているのである。

カタクリの一生はここからスタートだ。カタクリは2年目から、小さいながらも少し広がった葉を作る。そして、少しずつ少しずつ、小さな葉を大きくしていくのだ。カタクリたちの中での競争も激しく、光が当たらなくて枯れるものもある。また、虫や動物に食べられてしまうものもあるだろう。生き残って花を咲かせることができるカタクリは、ほんのわずかである。
こうして、カタクリたちは10年近くかかって、やっと花を咲かせる。花を咲かせるまでには想像絶する試練を乗り越えてきたことだろう。
カタクリの花が咲くまでの長い道のりを思えば、カタクリの花に対する思いもより強くなる。そして、より深くカタクリの周囲の自然にも目が行くことだろう。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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