「細かいところまで行き届いている!」 アウトドア・コーディネーターの小雀陣二さんが、グレゴリーの最新バックパック「ZULU(ズール)」をチェック!

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「チュンチュン」の愛称で親しまれ、登山やアウトドアの専門誌で料理の記事を執筆することも多い小雀陣二さん。実はあらゆる野外の遊びを知りつくした、登山・アウトドアの先達です。
アウトドアのギアについても詳しい小雀さんに、2019年モデルにアップデートされたグレゴリーのバックパック「ZULU(ズール)」について聞きました。

写真=亀田正人
協力=小雀陣二、サムソナイト・ジャパン

 

アウトドアの雑誌で登場しないことがないというくらい活躍している小雀さんですが、登山とかアウトドアの遊びはいつ頃から、どんなきっかけで始めたんのですか?

小中高とサッカーをやっていたんですが、高校を卒業したころからバイクに乗るようになりました。バイクツーリング+キャンプというのが、最初のアウトドア経験でした。
そのあとは、兄の影響で、マウンテンバイク(以下、MTB)にハマって。

仲の良い友人3人組では、ひとりが野田知佑さんに憧れてカヌーをやってるのがいて、ひとりが山を登っていて、僕がMTBをやっていました。だからお互いの遊びに付き合って、山、カヌー、自転車と、いろいろ体験しました。

最初の一台、スコット社のMTBと小雀さん(1991年頃、丹沢にて)


僕の場合は、「MTBで走るために」山に登っていました。当時は丹沢とか、箱根の明神岳とか、よくMTBを担いで登っては走って楽しんでいました。
当時は情報も少なかったですが、専門誌や書籍で道具の情報を調べて。振り返るとちょっと危なかったな、という体験もありました。

ちょうど「パタゴニア」の日本支社ができたので、1年半くらい、断られても売り込んで、入社させてもらったのが93年でした。パタゴニアには、アウトドアの遊びの達人みたいな先輩・同僚が大勢いて、一気にアウトドアの世界が広がっていき、いろいろなアクティビティに連れて行ってもらいました。

REIに入社後、スタッフにカヤックを教える小雀さん(中央・パドルを持つ人。1999年頃)


1999年にアメリカのアウトドア専門店「REI(アールイーアイ)」が日本に上陸する、となって、REIに転職しました。わずか3年で解散してしまうんですが、当時の同僚には、トレイルランナーの石川弘樹や、アウトドア・ライターの村石太郎のほか、その後、アウトドア業界で活躍することになる人たちが大勢集まっていて、とても刺激的な集団でした。


小雀さんご自身はどんなギアが好みですか?

そんな背景ですので、僕自身は山岳部とか山岳会とかの出身ではありません。純粋な登山一本ではなく、アウトドアの遊びをいろいろやっていて、山登りはアウトドアの楽しみ方のひとつだと捉えています。だから「1gでも軽く」と考えるアルピニストや、冒険家とも違います。

楽しいから山に行く。楽しむために山に行く――。料理もそうなんですが、アウトドアで過ごす時間を楽しむために持っていくものが多いです。

その中で、これまでの経験でも、山では危険な状況に陥ることもあるので、本当に危険な状況でも信頼して使えるアイテム、使っていて心地よい、安心感がある道具を選びます。

どんな道具を好んで選ぶか、小雀さんにお話を伺った


現在、「アウトドア・コーディネーター」として活動されているわけですが、用具メーカーに商品のアドバイスをしたり、一緒に商品開発したりすることも多いですよね。

最近の登山・アウトドアのギアは、例えば「軽さ」に注目するあまり、数値上、スペック上は、前のモデルよりアップデートされているようでも、実用的にはかえって使いにくくなってしまって、「これって改良なの?」ということがよくあります。

もちろん新しい素材や、それを作り上げる技術的なことは進化しているのですが、商品ができあがって、それをフィールドで使う、となったときに、トータルでは改良されていない、そういう作りになってしまってるアイテムも少なくありません。

大切なことは、本当に使う人のことを考えた商品なのか、ということでしょうか。

安心して信頼できるアイテムを好むという小雀さん(写真:永易量行)


「グレゴリー」についてはどんな印象を持っていますか?

「グレゴリー」というバックパックブランドは、実際にバックパックを使う人が開発していて、使うユーザーのことを考えて、「細かいところまで行き届いた商品を作ってくる」というイメージがあります。

スペック上のアップデートだけではなく、数値にならない「使いやすさ」というのが追求されて、アップデートを重ねていると感じます。

例えば、この「ZULU(ズール)」ですが、ポケットの位置やサイズがちょうどよく、収納しやすく、使いやすい。

ここのポケットにはこれ、ここにはこれ、というのが決めやすいので、初心者からベテランまで、自分の持っていくアイテムを、ほどよく収納できて、使いやすいだろうなと思います。

35リットルくらいのザックは「これから山歩きを本格的にやってみよう」という人が、必ずひとつは買おうと考えるサイズです。メーカーとしても売れ筋で、各社から様々なモデルが出ていますので、商品特徴をよく調べて、選ぶのが良いでしょう。

大きくなったヒップベルトポケット。使い勝手がよく考えられている


では「ズール」の特徴を具体的に教えてください。

最大の特徴・改良点は、あとで説明するとして。さっき言った、使う人のことを考えて設計してるな、というのがこれです。
「レインカバー」の収納が、フロントポケットの内側から、雨蓋の裏になりました。

これだと一見、雨が降ってきたときに、雨蓋のストラップを外して開けて、レインカバーを引っ張り出す、って思うでしょう。

雨蓋を開けてレインカバーを引き出す?


メーカーのカタログやウェブサイトでもこういう紹介していますけど、実際は、こうやって使うんだと思うんです。

雨蓋と本体の間に手を滑り込ませれば、雨蓋を付けたままレインカバーを引き出すことができ、ザックを立てた状態でレインカバーを被せることができます。

雨蓋をしたまま手を滑り込ませ、ジッパーを開いてレインカバーを引き出すのが正解だろう


フロントポケットに収納されていたこれまでのモデルよりも早くレインカバーを被せることができると思います。こういうところがスペックに表れない「使う人のことを考えた改良」だと思うんです。


たしかに、これなら素早くレインカバーを引き出すことができそうです。
さきほど話していた最大の改良点というのは、どんなところですか?

このズールが、前のモデルから、もっとも大きく変わったところ、最大の改良点は「背面システム」ですね。「フリーフロートサスペンション」と名付けられています。

背中側、ヒップベルトまで一体化された嵩の高いメッシュになっていて、さらにショルダーハーネスにもメッシュが使われていて、身体にフィットしていながら、通気性能を最大化しています。
背負ってみての印象は、メッシュがピタッとして、背中から腰までがソフトに包まれている感じで、フィット感が向上しています。

最大の改良点、背面からヒップベルトが一体になったメッシュパネル。フィット感が向上した


以前のモデルは、腰のパッドのところが盛り上がっていて、ヒップベルトはそれぞれが独立していました。
今回の改良では、腰回りからヒップベルトが一体化していて、腰周りのホールド感が向上しています。ピタッとフィットはしますが、嵩の高いメッシュなので、通気性は確保されるでしょう。

今はまだ寒い季節で、厚着をしているので体感しにくいですが、春から夏になって、シャツ1枚で、汗をかきながら登る季節になると、このメッシュと、さらにショルダーハーネスのメッシュやパッドの肉抜き穴によって、相当の通気を体感できるのではないでしょうか。

さらに、この部分のパーツが伸び縮みする、身体でいうと「腱」のような役割をしているため、例えば下山時に大きく身体が揺れるときなどに、メッシュに合わせて伸び縮みするので、荷物のブレを抑えることができるような仕組みになっています。

メッシュの動きに合わせて伸び縮みするパーツ。荷物のブレを抑える役割を持つ


さらに、今回の改良では、背面長を自分で調整できるよう、ショルダーハーネスの位置を面ファスナーで調整できるような仕様になっています。

M、Lとその中間の目安となる線が引いてありますが、無段階で調整できるのが良いところです。使うたび、背負うたびに、自分にとってのベストな位置を調整して、グレゴリーが大切にしている「フィット感」を追求できます。

面ファスナーで留まるショルダーハーネスで、背面長を調節できる


また、この通気を確保するメッシュを張るために、ザック本体にはフレームが入っています。
フレームは体に沿うように曲げられていて、腰の後ろの脇のところが張り出してその内側が空間となっているので、パッキングのコツとしては、ここの隙間を埋めるようにパッキングするとよいと思います。

僕は荷物をスタッフサックに小分けにしてパッキングするタイプなので、この隙間は埋まるのですが、大きな塊でパッキングすると、ここに隙間ができてしまって、もったいないことになります。

使う側がよく考えて、ザックに合わせてパッキングを工夫することで、ザックの容量と性能を最大に活かすことができるでしょう。

 

ほかにどんな特徴がありますか?

フロントポケット、サイドポケットはメッシュの生地で、よく伸びて、しっかり抑えが効いています。
フロントポケットは、薄手のシェル、中間着などを入れるのに適しています。歩き始めて身体が熱くなってきたときに、あるいは風にあたって寒く感じたときなど、本体にしまうのに比べて面倒がなく、フロントポケットを使って、こまめに脱ぎ着ができることがメリットです。

脱いだシェルジャケットなどを簡易に収納できるフロントポケット


僕の場合は、サイドポケットの一つにはボトル、もう一つにはレインパンツなどを入れることが多いです。この35リットルのモデルは縦方向のみに出し入れですが、大きなモデルは、ボトルを斜めに出し入れできるスリットもあるようです。

細かいところですが、フロントポケット、サイドポケットとも、メッシュの縁取りが折り返して引っかかりがあるのもポイントです。こういう作りは、小さなブランドでは省かれてしまいますが、入れたものが簡単に抜けていかないようなひと工夫が細かいです。

丈夫なメッシュでできているサイドポケット


それからサイドポケットとコンプレッションストラップは2通りのかけ方ができますが、僕の場合は、念のため、ボトルを押さえるようにストラップをかけることが多いです。
これは、登山道のコンディション、登りなのか下りなのかなど、ポケットの中身の出し入れのしやすさを優先するか、入れていたものをしっかり抑えたいかで、使い分けることができます。

ショルダーハーネスに付けられた、サングラスを留めるためのバンジーコード


サングラスをショルダーハーネスに挟んでおくためのバンジーコード(「サングラスストウ」という)や、トレッキングポールを留めておくバンジーコードなども付いています。
僕は野外の光を他の人よりまぶしく感じてしまうようで、サングラスは欠かせません。うっかり落としてしまうリスクを考えたら、このコードを使って留めておくのが確実ですね。

ハイドレーションスリーブ。フックは純正のハイドレーションだと使いやすい


ハイドレーションシステムに対応したスリーブ(ザック内側の袋)は、フックのところが、最新のグレゴリーのハイドレーションパックに合わせて改良されています。
ここ数年、僕はハイドレーションを使わず、ボトル派だったのですが、今回改良されたグレゴリー純正のハイドレーションシステムは良さそうなので入手しようと思っています。

大きく開く逆U字のフロントアクセス


雨蓋を開けなくてもメインの収納スペースにアクセスできる「逆U字のジッパー」は、登山中に限らず、例えば、このザックで山小屋やテントで宿泊するときに、宿泊先ではザックを横に置いておいて、ここをガバっと開いてモノの出し入れができて便利でしょう。

ひとつひとつ作りが細かく、フィールドでの使い勝手がよく考えられています。

ほかにも細かいポイント、改良点はあるのですが、完成されたザックをトータルで捉えてみると、このグレゴリー・ズール35は、登山シーンでの通気の確保と、フィット感、背負い心地の追求と、使う人の動作に裏付けされたポケットなどの仕様が、バランスよく作られていて、「細かいところまで行き届いている」と感じます。

今年ザックを買おうと考えている方には、ぜひその背負心地を店頭でチェックして、ご自身で感じていただきたいと思います。

 

グレゴリー ズール GREGORY ZULU

背面システムが改良され、通気性を最大化させたバックパック。
男性用モデルは「ZULU(ズール)」。女性用モデルは「JADE(ジェイド)」。

ズール35

価格
22,000円(税別)
サイズ
SM/MD、MD/LG
カラー
3色

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※ズールには容量違いで、ほかに30、40、55のモデルがある

グレゴリー ジェイド GREGORY JADE

ショルダーハーネスやヒップベルトの形状を女性に合わせて設計されている。

ジェイド33

価格
22,000円(税別)
サイズ
XS/SM、SM/MD
カラー
2色

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※ジェイドには容量違いで、ほかに28、38、53のモデルがある

 

プロフィール

小雀 陣二

1969年、東京生まれ。アウトドア・コーディネーター。
アウトドアメーカー、カヤックショップ、などでの勤務経験を経て独立。雑誌や広告、CMの撮影などのサポート、スタイリングを担当するほか、得意の料理を活かし、野外料理レシピの連載執筆も行う。各地のアウトドアイベントでは、自らの体験を持ってアウトドアの魅力を伝えている。
日本各地のガイド仲間と共にカヤックやMTBのツアーを行い、夏のアラスカでは川下りやハイキングをエスコートしている。
週末は自らのカフェ「雀家 」をオープン。著書に『おかわり山グルメ』『お手軽アウトドア燻製レシピ』(エイ出版社)、『3ステップで簡単! ご馳走 山料理』(山と溪谷社)など、アウトドア料理に関する著書多数。
⇒雀家 suzumeya

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