気が付けば下山途中に真っ暗に…! 秋山のタイムマネジメントのポイントとは?

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気温が下がり、盛夏には避けていた低山にも登りやすくなる秋。高山から始まった紅葉も徐々に下がってきて、あちこちに足が向く時期です。一方で、気を付けたいのが、夏山に比べて日没が早くなる、ということです。そんな秋の山のプランニングのポイントを、登山ガイドの木元康晴さんに教えていただきました。

 

プランニングの時点でマージンタイムを設定し、秋の早い日没に備えよう

秋は日を追うごとに、日没が早まります。たとえば8月31日の東京都高尾山の日没時刻は18時12分ですが、10月15日には17時8分と、1時間4分も早いのです。秋山では、そのような日没の早さを意識したプランニングを立てないと、本当に暗くなって慌てることになります。

今から30年以上も前ですが、私も秋の奥多摩の三頭山からの下山途中で、日没を迎えてしまったことがあります。当時はまったくの登山初心者で、ヘッドランプを持つという知識もなく、暗闇が迫る中、泣きそうになりながら必死に下山しました。その時の緊張感は、今も忘れることはありません。

早い日没は気持ちを慌てさせ、あらゆる事故の原因になります

同じような事態を避けるには、プランニングの時点でしっかりと対策をとっておくことが大切です。とは言え、早目に下山できるように考える、といった程度では不十分です。いつかアクシデントが発生した時には、対応できないこともあり得るでしょう。

そこでお勧めしたいのが、プランニングの時点で行動可能時間の最後に、「マージンタイム」という時間の余裕を意図的に設定すること。

登山は、計画通りに進むとは限りません。足をくじいてファーストエイドに時間をとられることもあるでしょうし、途中で道を間違えて、引き返したりすることもあるはずです。その予定外の出来事に費やすかもしれない時間を、あらかじめ「マージンタイム」として設定しておけば、日が短い秋であっても、無事に下山できる可能性が高まります。

 

行動可能時間の25%をマージンタイムとして設定

マージンタイムは、行動可能時間の25%を目安に設定しましょう。エリアやコースよって様々な要因があるので、実際には20%〜30%程度の範囲内で設定しますが、ここでは説明しやすく25%とします。

その日の登山開始時刻から、最終下山時刻までの時間を100%として、その75%になったところを、下山目標時刻とするようにプランニング。そして残った25%の時間をマージンタイムとし、アクシデントが発生した場合の対応時間にしよう、という考えです。

特にアクシデントがなければ、下山場所でその25%の時間が余ることになりますが、その場合は早く帰宅しても良いですし、山麓の公園で紅葉を見たり、カフェや日帰り入浴施設でゆっくりする時間に充てることもできます。

 

行動可能時間の決め方

行動可能時間を決めるには、まずは登山開始時刻と、最終下山時刻とを明確にします。

プランニングの時点で、登山口に到着する時刻は決まっているはずです。登山開始時刻は、その時刻から10分から20分程度あと、ということになります。ソロの場合は10分もあれば出発できるでしょうが、10人くらいのパーティで女性が多いときなどは、トイレの順番待ちなども生じるので、20分後くらいにしたほうが確実です。

最終下山時刻は、基本はその日の日没時刻です。日没時刻は緯度経度のほか、地形によっても変わります。ただし暗くなるタイミングが解ればいいので、さほど厳密ではなくても大丈夫です。Googleに「下山地点の市町村名 日没時刻 登山日の日付(月日)」と入力し、表示された時刻とします。

また、帰りのバスや電車が限られる場合は、その発車時刻にします。

両方が決まったら、最終下山時刻から、登山開始時刻を引いた時間が行動可能時間となります。その行動可能時間の75%を行動予定時間とし、登山開始時刻に加えたものを下山目標時刻とします。下山目標時刻から、最終下山時刻までの時間がマージンタイムです。

ちょっと計算が煩雑に思えますが、こうした時間計算は、スマートフォンの時間計算アプリを使うと簡単です。

 

コースタイムを当てはめて検証

登山開始時刻と下山目標時刻が決まったら、次は目指す山のコースタイムを計算し、休憩時間も加えた上で、下山目標時刻に下山できるかを検証しましょう。ここでコースタイムを計算するには、「ヤマタイム」などの、登山計画マネジャーを使うのが便利です。

それでは、実際にマージンタイムを設定してみましょう。私が秋に登りに行くことが多い、山梨県の滝子山を例にして、マージンタイムで設定します。

登山日は、2022年10月15日、コースはJR中央本線の笹子駅を起点として南稜を登って頂上に立ち、藤沢コースを下って初狩駅へ向かうことにします。初狩駅からの電車はおおむね1時間に1本以上はあるので、帰りの電車の時刻は特に考慮しません。

滝子山の頂上から見た、富士山と御坂山塊の山々

朝、自宅を無理のない時刻に出て笹子駅に到着できる時刻は、乗換案内を使って07:57と解りました。したがって登山開始時刻は、08:07となります。

次にGoogleで「大月市 日没時刻 10月15日」と打ち込むと、17:09と表示されました。その時刻を最終下山時刻とします。

左はGoogleで下山地となる大月市の、当日の日没時刻を表示させたところ。
右は「時間計算機」というアプリの画面。無料で使えます

時間電卓で17:09から08:07を引くと、9時間2分です。この時間に75%をかけると、6時間47分となました。これが行動予定時間で、残った2時間15分がマージンタイムです。

08:07にその6時間47分を足すと14:54となり、これが下山目標時刻となります。

乗換案内や時間計算アプリを使って決めた、マージンタイムと下山目標時刻

次にヤマタイムを開いて、笹子駅から順にポイントをつなげ、滝子山山頂を経て初狩駅へ。さらに右の「コース計画を調整する」に出発時刻として08:07を入力。休憩ポイントに、必要と思われる時間を指定していきます。すると、初狩駅の到着時刻が15:20となり、下山目標時刻から26分のオーバーと解りました。

ただし、私はいつも、コースタイムより少しだけ早く歩きます。そこでコースタイム倍率に「0.95」と入力。すると初狩駅への到着時刻は14:56に変わり、下山目標時刻とほぼ一致しました。

もしここで、下山目標時刻から大幅に遅れての下山になるようであれば、出発時刻を早めて再度計算します。それでも遅れる場合は、そのコースはもっと日の長いシーズンに目指すことにして、もっと行動時間の短い、別のコースを考えたほうが良いでしょう。

ヤマタイムを使い、下山目標時刻までの下山が可能かを検証

この滝子山の例では、マージンタイムが2時間あまりとなって、ちょっと多いのではないか、と思われるかもしれません。ただし秋の山は落ち葉が道を覆い隠し、道迷いに加えて転倒などする可能性も高まります。マージンタイムはこのくらい設定したほうが、気持ちに余裕ができて安全でしょう。

また、25%のマージンタイムでは対処できないアクシデントが生じることもあり得ます。暗くなっても最低限の行動ができるように、ヘッドランプを忘れないことはもちろん、万が一のビバークに備えて、ツエルトと防寒着も持参するようにしましょう。

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

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