クマは歯磨き粉さえも嗅ぎつける。目を合わせないためにサングラスは有効。米国のロングトレイルに学ぶクマ対策
8月14日に知床・羅臼岳で起きたヒグマ事故をはじめ、クマの出没や事故に関する情報が連日メディアをにぎわせている。クマの生息エリアに足を踏み入れる際にすべきことはなにか、登山者一人ひとりがあらためて考えるべきときが来ているようだ。クマが広く分布し、ハイキング文化が根付くアメリカでは、クマとハイカーが共存するためのルールやマナーが定着している。3大ロングトレイルをはじめ、アメリカのロングトレイルを毎年歩き続け、今年もアイスエイジトレイル(1800km)に出発しようとしている斉藤正史さんに、現地で実践しているクマ対策について聞いた。
文・写真=斉藤正史 トップ写真=PIXTA
アメリカのクマは3種類。いずれも日本のクマよりかなり大きい
そろそろ今年もアメリカにトレイルを歩きに行くシーズンになりました。クマのニュースが日本で一気に増えたからか「クマには充分注意してくださいね」と言われることが急激に増えたように思います。もちろん、アメリカにもクマがいますし、毎回遭遇しています。
アメリカには、アメリカクロクマ(ブラックベア)、ヒグマの亜種(グリズリーベア・ブラウンベア)、シロクマ(ホッキョクグマ)という3種類のクマが生息しています。シロクマは北極圏に生息しているので、トレイルを歩いていて遭遇するのは、北部やロッキー山脈ではヒグマ、そのほか全米各地ではアメリカクロクマです。アメリカクロクマはオスが体長約2m、ヒグマは体長約2m、ちなみにシロクマは最大で体長約3mほどになります。日本のツキノワグマは体長1.4〜1.8m、ヒグマが1.5〜2mなので、アメリカのクマはかなり大きいことがわかります。アメリカのトレイルで遭遇することのある2種のクマについて、特徴を紹介します。
ヒグマ(グリズリーベア・ブラウンベア)
雑食性で、植物、ベリーのほか、魚、小型哺乳類などを捕食します。アメリカクロクマとは異なり、ヒグマは長くて強い爪があるので、穴を掘り、根、球根、塊茎、また、イエローストーン国立公園周辺では。ヘラジカの子や産卵中のマスなどの脆弱な動物、小型哺乳類、昆虫を捕食します。実にさまざまなものを食べます。ヒグマは非常に賢く、好奇心旺盛で、餌を見つけるのが得意です。餌を与えられると、人間と餌を結びつけてしまうことがあり、非常に危険です。
アメリカクロクマ
北米で最も一般的で、広く分布しているクマです。森林地帯から海岸、高山地帯まで、どこにでも生息しています。クロクマは雑食でなんでも食べます。捕食はほとんどしませんが、腐敗した動物の肉は食べます。爪が湾曲しているので、穴を掘って食べ物を探すことができません。クロクマは非常に賢く、匂いだけでなく見た目でも食べ物を認識できます。人間の食べ物を与えられたクマは、キャンプ場、バッグ、ゴミ箱、さらには車さえも食べ物と関連付けるようになります。ヨセミテ国立公園では、車の中に食料を置いていると車を破壊することさえあります。
ちなみに、日本のツキノワグマは雑食性の動物ですが基本的に植物を主食にしています。季節や生息地域の環境によって食べ物が変わります。春から、新芽、若葉、花、山菜、果実、ハチやアリなどの昆虫、秋にはブナやミズナラのドングリなどを主に食べます。動物の捕食は基本的にしないと言われており、冬眠明けの食料がない場合などは、シカの死体を見つけた時に食べることもあります。
3種類のクマのなかで、基本的にほかの動物を捕食するのは、グリズリーベアーやシロクマです。そのなかでも北部にいるクマは、自然の中に食べ物が少ないので捕食をしますが、同じグリズリーベアーでも、アメリカとカナダの国境付近では餌が豊富にあるため、わざわざ狩りをして体力を消耗するような行動を積極的にはしないと言われています。以前、アメリカ北部のトレイルを歩くときに友人に「グリズリーベアーが多いよね、注意しないと」と話したとき、「モンタナ州辺りのグリズリーベアーはベジタリアンが多いからそんなに心配しなくていいよ。タンポポを食べるから」と言われたことがあります。
プロフィール
斉藤正史(さいとうまさふみ)
1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。
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