「グゥワー!」突進してくる真っ黒い塊。クマに何度も遭遇した山岳写真家・曽根田卓さんが語る、九死に一生の瞬間と教訓

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東北の山々を中心に撮影を続ける山岳写真家・曽根田 卓さん。これまで何度もクマと遭遇して危険な目に遭ってきた。うなり声を上げて立ち上がる巨体、ものすごいスピードで突進してくる恐怖......。そのリアルな瞬間と、曽根田さんが実体験から得た教訓を紹介する。

文・写真=曽根田 卓

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写真=PIXTA
写真=PIXTA

クマの深刻な人身被害が日本各地で相次いでいる。2025年度のクマによる死者数は11月7日時点ですでに13人に上り、最多だった2023年度の6人を超え、過去最多を更新中だ。今年はクマが食べるブナやナラの実が大凶作で、エサを求めて市街地まで侵入するクマの姿が連日報道されている。また登山中にクマに出遭ったという情報もウェブ上で多く見られるようになった。これはクマの個体数が増えていることに加え、人を怖がらないクマが多くなっているのでは、と私は考えている。

東北地方のマイナーで静かな山を好む私は、よくクマに遭遇する。基本的にクマは臆病な動物なので、クマの方から距離を広げて立ち去っていくケースがほとんどだ。しかしクマの性格にも個体差があり、危ない目に遭った経験が何回かある。その時どのように私はクマと対峙したか、いくつか例を挙げてみたい。

うなり声をあげて立ち上がるクマ

私が最初にクマに出会ったのは、四十数年前の5月初旬、神室連峰(かむろれんぽう)の越途(こえと)ピークから小又山(こまたやま)をめざして雪庇の上を歩いているときだった。木が雪面から跳ね上がる音に驚き、振り返ると大きなクマがそこにいた。クマとの距離は10mほど。急にうなり声をあげてクマが立ち上がった。その瞬間、私はクマに背を向け全速力で逃げた。

これはクマと遭遇したときに絶対やってはいけない行動と言われているが、恐ろしくてそんなことを考える余裕はなかった。かなりの距離を逃げた後、クマが追いかけてこないことに気づき、私は荒い息づかいで登山道にへたり込んだ。

神室山から天狗森と小又山(奥)を望む。クマと何度も出会っている山域だ
神室山から天狗森と小又山(奥)を望む。クマと何度も出会っている山域だ

危機一髪の瞬間。突進してくるクマに対し、無意識に出た対抗策

それ以上に危なかったのは2016年5月下旬。船形連峰(ふながたれんぽう)の白髪山(しらひげやま)をめざして、最初のピーク・コブノ背の直下を歩いていると、ブラインドカーブの先に大型の獣がいる気配を感じた。姿は見えないが、ヤブをかき分ける音が聞こえる。カモシカと思い「オイッ!」とその何者かに呼びかけた途端、真っ黒い塊が「グゥワー」とほえながら私に向かってすごいスピードでカーブの奥から突進してきた。

「うわぁクマだ!」その一瞬、無意識に出た対抗策は、両手を大きく広げ、渾身の大声を発してクマを威嚇する方法だった。この大声攻撃にクマはびっくりしたようで、突進してきた方向を一気に変え、谷側の斜面に駆け下っていった。本当に危なかった。すべてのクマがこのように大声を発して退散するとは限らないし、逆に興奮させてしまう場合もある。このケースは非常にラッキーだったと、今さらながら思う。

コブノ背の手前から見た面白山(右)と大東岳
コブノ背の手前から見た面白山(右)と大東岳
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プロフィール

曽根田 卓

1958年仙台市生まれ。山岳写真集団仙台所属。東北の静かな山をこよなく愛している。共著に『分県登山ガイド3 宮城県の山』、「季節の山歩き」(山と渓谷社)のガイド記事執筆。『山と高原地図 栗駒・焼石』(昭文社)の調査執筆担当。
⇒ (続)東北の山遊び 

Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

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