神戸を主とした阪神間の市街地と瀬戸内海を見下ろし、東西30kmに連なる六甲山塊。西端にある須磨アルプスをはじめ、日本三大夜景を楽しめる摩耶山や標高931mの最高峰など20近い山々からなり、地元にとっては気軽な裏山だ。
六甲山の歴史は、明治期にイギリス人実業家A・H・グルームが開発と景観保護に尽力したことに始まる。さらに、麓に住む外国人たちが毎朝山の茶屋までウォーキングを楽しんだことから毎日登山が発祥。また、大正末期から昭和初期にかけて日本初の岩登り専門の社会人山岳会・RCC(ロッククライミングクラブ)によって芦屋ロックガーデンが開拓されるなど、日本における山登りの近代史を語る上で欠かせない存在だ。そして、大正期からは全山縦走も人気になり、近年は神戸市主催の大会も毎年開かれている。
このように始まった六甲の発展は、今ではロープウェイやケーブルカーが整備された山上には展望台や植物園、牧場、レストラン、スキー場といった観光スポットが点在。登山者だけでなく多くの観光客が足を運び、その自然を楽しんでいる。ちなみに、六甲山の一番人気のコースの下山口には日本三名泉・日本三古湯の有馬温泉があり、六甲山登山の楽しみの1つになっている。
四季を通じて植物を楽しめるのも六甲山の魅力といえる。春にはスミレやツツジ、夏には「六甲ブルー」と呼ばれるアジサイ、晩夏にはセンニンソウやボタンヅルが美しく咲く。秋にはブナが紅葉し、冬には有馬四十八滝などが凍りつく氷瀑(アイスガーデン)を目当てに多くの登山者で賑わう。
リゾートと合わせて気軽なハイキングを楽しむのもよし、本格派な登山やクライミングを楽しむのもよし。日本の近代登山発祥地という歴史に思いを馳せながら、六甲山ならではの魅力を味わおう。
登山適期の週末には山道に渋滞も起こるという、六甲山屈指の人気コース。岩場歩きや標高931mの最高峰から見下ろす大阪湾の美しい眺め、そして下山後には名湯・有馬温泉を心ゆくまで楽しむことができる。
出発は阪急芦屋川駅で、芦屋ロックガーデンの入口にある高さ10mの小さな滝・高座ノ滝へと進む。茶屋を過ぎ、ロックガーデンの中央稜線の岩尾根を登っていくと、風吹岩に到着する。そこからは、江戸時代に瀬戸内海で採れた魚を有馬温泉まで運んだとされる魚屋道(ととやみち)を歩き、雨ヶ峠、七曲り登り口、一軒茶屋を経て、一等三角点のある六甲山最高峰へ。下山は、有馬温泉へ下る。コースタイムは4時間だ。
高低図
六甲山の主稜線から有馬温泉に向けて流れる大谷川上流域には、有馬四十八滝と呼ばれる多くの滝がある。夏には涼しい滝巡り、そして冬にはロックガーデンに対してアイスガーデンとも呼ばれる氷瀑を見物でき、冬の六甲山の風物詩として知られる。
登山口の有馬温泉からロープウェー有馬温泉駅を経て、紅葉谷道出合へ。さらに、白石谷への分岐を見送り紅葉谷道を進むと、七曲滝への道標が現れ、岩壁を曲がり落ちてくる七曲滝に到着する。次に、高さ約20mの百間滝へ。百間滝は有馬四十八滝を代表する名瀑として知られる。その奥には高さ30mの似位滝があり、その後は紅葉谷道に戻り、有馬温泉へ下る。
道程は2時間40分。近年は登山道が整備されているが、冬季には凍結するので軽アイゼンとストックを必ず装備したい。また、冬以外でも降雨後は道が滑りやすく、落石にも注意が必要。経験者と行くのが望ましい。
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全国各地にあるご当地アルプスの1つが、六甲山西端にある須磨アルプスだ。横尾山など標高200~300mの低山の連なりで、風化した花崗岩がむき出しになった馬の背と呼ばれる核心部が有名だ。かつて、大正末期から昭和にかけて活躍した兵庫出身の登山家・加藤文太郎らが、横尾山を神戸槍と呼んだことも知られる。
コースは山陽電鉄須磨浦公園駅をスタートし、展望台、鉢伏山へと進む。その後、旗振山や鉄拐山、高座台団地(かつての高倉山)を経て、最高峰の栂尾山、核心部の横尾山、そして山陽電鉄板宿駅に下山する2時間45分の行程だ。
須磨アルプスは高座台にあるおらが茶屋展望台から見える大阪湾や目前の鉄拐山、明石海峡大橋の眺めが一見の価値ありだ。また、須磨浦公園駅からはりま駅まではロープウェーや日本唯一のカーレーター、観光リフトが通っており、山上には遊園地もあることから、ファミリー登山の山としても人気がある。
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摩耶山に行くにはいくつものルートがあるが、このコースは新神戸駅近くを流れる生田川の上流域にある清流沿いの道を行く。雌滝や鼓ヶ滝、夫婦滝、雄滝などの布引の滝や、川を何度も渡るトエンティクロス(漢字で二十渉。英語でTwenty Cross)を行くので、夏場に気持ちいい。
スタートは新神戸駅。布引の滝を過ぎ、天狗道出合、分水嶺越分岐を経て、トエンティクロスに入り、石づたいに川を渡っていく。神戸市立森林植物園の分岐を直進し、黄蓮谷出合、桜谷出合、徳川道出合へ行くと、アゴニー坂(顎がニー(膝)に付くほどの急登という意味)が現れる。さらに進むと摩耶別山、天上寺、摩耶山頂に到着する。下山は摩耶ロープウェーとケーブルを利用する。
天上寺は素通りしがちだが、境内からは淡路島や明石海峡大橋、小豆島まで遠望できる絶景を楽しめ、摩耶山展望台の掬星台と合わせると360度の大展望なのでぜひ立ち寄りたい。また、摩耶山は美しい夜景でも有名だ。なお、トエンティクロスは増水の際は危険で通行できないこともあるので注意が必要だ。
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六甲山登山を語る上で忘れてはならないのが全山縦走だ。西の須磨から東の宝塚まで約50kmの山道を踏破するもので、大正末期に始められ、今では神戸市が毎年秋に主催する2000人規模の大会など様々なイベントが行われている。
コースプランとしては、山陽電鉄須磨浦公園駅を早朝に出発し阪急宝塚駅に夜21時ごろに到着するという、休憩を含めると12~15時間程度で歩くのが一般的だ。
個人的に山を歩く場合やイベントなどに出場する場合は、道標は整ってはいるが道迷いも多いので、読図やペース配分などを確かめながら、前もって全行程を2~3回に分けて下見登山を経験するのをお勧めする。
なお、神戸市主催の大会は、自然に親しみ、仲間と交流を深め、体力の限界に挑戦することを目的としている、そのため、タイムを競ったり、コース内を走ることは禁じられている。地図などの詳細については、神戸市のHPを確認しよう。
参考リンク:KOBE六甲全山縦走大会 https://www.city.kobe.lg.jp/a36708/kanko/event/rokko/index.html
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