行程・コース
天候
早朝はガス、風なし。尾根に上がるにつれ風が出はじめ、やがて強くなる。08時前から晴れ、日差しが強く風が弱まる。
利用した登山口
登山口へのアクセス
その他:
【行き】(前日3日)
渋谷駅17:17(湘南新宿ライン特別快速)~19:07高崎駅19:33~20:39水上駅20:50~20:59土合駅
【帰り】
谷川岳ロープウェイバス停17:03(関越交通)~17:52上毛高原駅18:25(とき338号)~19:14大宮駅19:34(湘南新宿ライン)~20:11渋谷駅
この登山記録の行程
土合橋(04:01)・・・松ノ木沢ノ頭(05:16)[休憩 5分]・・・白毛門(05:52)[休憩 15分]・・・笠ヶ岳(06:40)[休憩 5分]・・・朝日岳(07:36)[休憩 10分]・・・ジャンクションピーク(07:59)・・・清水峠(08:55)[休憩 20分]・・・七ツ小屋山(09:52)[休憩 10分]・・・分岐(10:26)・・・蓬ヒュッテ(10:33)[休憩 20分]・・・武能岳(11:26)[休憩 5分]・・・茂倉岳(12:50)[休憩 20分]・・・一ノ倉岳(13:20)[休憩 10分]・・・オキの耳(14:16)・・・トマの耳(14:25)[休憩 10分]・・・谷川岳肩ノ小屋(14:38)[休憩 10分]・・・熊穴沢避難小屋(15:17)・・・分岐・・・天神平(15:43)
高低図
標準タイム比較グラフ
登山記録
行動記録・感想・メモ
谷川岳の馬蹄形縦走もジャンダルムとならぶ憧れだった。どちらかといえば馬蹄形のほうがデイ・ハイカーの本来のフィールドであり、「ゆっくりした動作の繊細な重心移動」や「足元がスッパリ切れ落ちた高度感の緊張」から解放されて楽しみながら歩けるのでは、とも考えていた。ところが強い陽射しにやられてダウン寸前、後半はやたらと休憩をとりながらなんとかロープウェイで下山した反省点の多い山行記録。
【アプローチ】
■谷川岳やるなら土合駅からでしょ、という昭和の発想で長躯のJR乗り継ぎ。いくつかの花火大会が重なったらしく道中のホームは浴衣姿で混雑していた。グリーン車に乗ったのは正解だった。
■土合駅からヘッドランプを点けてしばらく歩き、事前に情報収集しておいた場所にもぐりこんでビバーク。やや蒸し暑かったがトイレに自販機にロッカーもある。食べてから4時間ほど仮眠をとることができた。
■3時すぎに起きだし身支度を整え装備を確認すると、今回の忘れ物は「ハイドレーションのホース」であることが発覚。休憩のたびにザックの背当たり部分からハイドレーション本体を取り出して傾ける間抜けさに唖然とする。せっかく凍らせて保冷バッグに入れてもってきたのに。こぼさずにすむ自信がないため、麦茶のペットボトルを急遽ザックに追加する。
【プロローグ】
■04時にヘッドランプを点け土合橋の駐車場の奥から白毛門へのトレイルに入る。ちょっと珍しいくらいの急登につぐ急登であり、起き抜けの体にはこたえる。空気がぴくりとも動かないのでさっそく大量の汗をかく。しばらく登って右手から沢音が聞こえるあたりで、風はないにしても空気が動き出す感があって助かる。周囲はガスっており、日が昇っても明るくなるのが遅い。
■松ノ木沢ノ頭までにトラロープが3~4箇所、大きな岩(地図上の『大岩』ではない)に鎖が1本かかっているが、使わずにすむ。ちなみに谷川岳オキの耳への最後の登りと天神平への降りにもロープや鎖があったが、中級者ならすべて前を向いたままホールドとスタンスを利用しフリクションをきかせて通過することができるだろう。
■05時16分に松ノ木沢ノ頭、一服して52分に白毛門山頂着、先着のソロ男性が一人。軽く飲み食べる。ここまでずっとガス。
■笠ヶ岳へ向かうころから風が強くなる。06時40分笠ヶ岳山頂、ガスが風にあおられてめまぐるしく風景が変化している。ここでボイスレコーダーに「風が強いのでそのうち晴れるだろう」と吹き込んでいるが、その後の猛烈な陽射しを想定しておらず中途半端な予想だった。山頂から朝日岳へ向かう途中で清水峠から上がってきたというソロ男子とすれ違う。「一周ですか」と明るい声で聞かれたが、この時間にこの場所ですれ違うなら馬蹄形をやってるんだろうと察しがつくあたり、山域に詳しいように見受けられた。前に三人いて一人はランナーふうだったと教えてくれた。
■朝日岳への登りから道がややザレだし、おなじころに風が弱まり青空が広がる。朝日岳山頂(07時36分)からの眺めは標高の低い谷筋にガスが残るだけになった。ピークではソロ男子が二人。
■朝日岳からは景色が一変し、木道を含むたおやかなトレイルになる。ササ原に様々な小さな花が咲いており池塘も多い。このあたりから清水峠~七ツ小屋山~蓬ヒュッテまでは眺めが良く非常に楽しめるハイキングコースだった。ただ、先を行くトレイルランナー風味が走っているのになかなか視界から消えてくれない。足場が悪いところでの大げさで無駄の多いアクションからすると山道に慣れていないのだろう。目に障るのでしばらく休憩して距離を置く。
【中盤】
■朝日岳からは花咲くササ原のたおやかなトレイルだと書いた。ところが眺望に恵まれたこの区間で直射日光にやられてしまう。朝日岳を発ったのが08時前、清水峠手前の送電線鉄塔(08時50分)までの短いゆるやかな登りがなぜかキツい。清水峠(08時55分)を過ぎ電力会社の鉄塔保守施設の影で20分ほど休む。風もあるし、日陰で水分を補給すれば回復するだろうと考えたが、結果的にはなんともならなかった。もうひとつ、このあたりはトレイルのササを刈払って歩きやすくしてもらっているのだが、刈ったままの葉が滑りやすく、地面の様子をわかりにくくしていた。ササ原が濃い部分もあり、ガスっていればルートを求めるのに苦労するかもしれない。
■清水峠からのなんでもない登り返しをササに滑りながら苦労して稜線に上がる。おかしいな、なんでこんなに疲れるんだろうと思いながらもトレイルがやさしいのでとりあえず足は動く。七ツ小屋山(09時52分)を経て10時33分に蓬ヒュッテ着。すばらしいロケーションの山小屋だったが、外まで漂うトイレの匂いが気になった。※「そのときたまたま」なのかもしれません。この山行記録を鵜呑みにしたり拡散したりしないようにお願いします※ ホースのないハイドレーションの残量が400ccを切っていたのでCCレモンを買い、ここでも20分の休憩をとる。
■ヒュッテ前のベンチで隣り合って休憩したソロ男性から「1日で一周するんですか。たいへんでしょう」と言われたとき、「もう3分の2は済んでますから。あとは惰性で行けるはずです」と応えたのはもちろん本心なんかではなく、自分を鼓舞するためだった。標高1530m(蓬ヒュッテ)からいくつかの登降を繰り返して1950m(谷川岳)まで登るのに惰性で行けるわけがない。「やー、もうヘロヘロです」がデフォルトのハイカー自身が、今回はマズい、覚悟を要するぞ、と無意識に思っていたのだろう。
■重たい体に鞭打って武能岳へむかって歩きはじめる。引き続きササの原っぱを歩きながら、照りつける太陽が恨めしい。木立がなくずっと直射日光に当てられっぱなしである。11時26分に武能岳(1760m)山頂、お弁当を広げる男性がひとり。ここでも「馬蹄形やってます」宣言をするが、その先の稜線が最低鞍部(1594m)まで下ってから茂倉岳(1978m)まで登りかえす地形になっているのを目の当たりにして、泣きながら帰ろうかと思った。しかしここまで来てしまっては帰るほうが遠い。
【終盤】
■茂倉岳までの道のりは本当に長かった。ササっ原の登りを、よせばいいのに「あのあたりがピークか」と期待してあえぎあえぎ登ると、まだ上がある。膝に手をついたまま息を整えようとするが、整わない。2~3回そんな真似を繰り返して、最後は石につまづき転びそうになりながら茂倉岳の平たい頂上に出た。12時50分。
■山頂には一組の若いご夫婦がいた。よろめきながらあらわれた息の荒いハイカーに一瞬驚いた様子だったが、旦那さんは双眼鏡を谷川岳のほうに向け「ずいぶん人がいるんだなあ。おっ、鳥居がみえるぞ」と景色を眺め、奥様は火器をいじりながら平静を装ってくださった。「カフェ・ラテもあるけど。飲む?」なんてやりとりをしている。ここまでホースのないハイドレーションを傾けながら、「西部劇にでてくる皮袋の水筒がこんなふうだった。カウボーイみたいだな」などとやってきたハイカーからすれば別世界のように優雅だった。
■山中で挨拶以外はほとんど口をきかないとか、挨拶もしない(そうした振る舞いを批判するつもりはまったくない)ほどではないが、人をつかまえてしきりにおしゃべりをもちかけるタイプでもない。しかしこの日はやたらとしゃべった。太陽にあぶられて体は変調をきたしているが、頭のほうはだいじょうぶなのか。言葉のやりとりを通じて「まだだいじょうぶそうだ、イカれてはいない」ことを無意識のうちに確認していたのだろう。
■すわりの悪い石に腰かけて皮袋の水をほとんど飲み干しピークを発つ直前に、ここでもご夫婦に話しかけている。土樽から登ってきた。谷川岳まで行きたかったが、こうしてみるとだいぶ険しそうなのでここで引き返すことになると思う。そんな話を聞いたあと、聞かれもしていないのに「土合駅から登ってきまして……」、あまり山登りに詳しくない様子なので登山地図をもってきてもらいルート説明までしている。あつかましい振る舞いを思い出すと呆然とするが、半分くらいイカれていたのかもしれない。
■「ぼくらはこの山だけなのに。。。大変ですねえ」と送り出されて一ノ倉岳へ踏み出す。やや下って登り返して一ノ倉岳のなだらかな山頂、そこから急降下して険しげな谷川岳へ登り返す。きょう最後の登り返しが勝負どころだ、なんとしてでも正気で通過してやる、ここまでいったい何回降って登り返しただろう、あれこれ考えて気を紛らわすが一ノ倉岳へのゆるい登りをいっぺんで登りきれない。足さえ動くなら時間がかかっても谷川岳にたどりつくんだからと言い聞かせて、じりじりと進む。
■一ノ倉岳からの下降と谷川岳への最後の登りが岩稜帯なのはむしろ救われたかもしれない。フラつかないよう堕ちないように神経を集中する必要があったし、岩の表面のホールドやスタンスを観察することで気が紛れた。14時16分オキの耳、トマの耳には14時25分にやっとたどりつき、文字どおりへたりこんだ。
【エピローグ】
■なんとか谷川岳のピークまでやってこれたが、まだ先がある。無事に下山しなければならない。計画では西黒尾根を土合まで下る予定だったが、行先を天神平に変更してロープウェイで下りることにする。西黒尾根は3時間強、天神平まで2時間弱のコースタイムだからそれほど変わらない。しかしここまでなんとかやってきたにしても、この先どんなふうに体調が変化するかわからない。現状が危急の事態にあることは確かだから1時間でもリスクが少ないほうを選ぶ。ロープウェイの駅舎なら陽射しを避けることができ、自販機の冷たい飲み物もあるはずだ。
■ザンゲ岩、天狗のたまり場と過ぎてどんどん降って行くが、想定外のことがおこった。人が多くてやたらと渋滞が発生している。「なんでこんなところで…」とボヤく声を2回聞いたがほんとうにそのとおりだ。遅いグループに別のグループが後ろから追いつく。前のグループのラストが「後が来たから道を開けて~」と声をかけるか、後ろのグループの先頭が「すいません、ちょっと良いですか」と声をかければすむことなのに、どっちもしないから数珠つなぎになる。高速道路の追い越し車線をゆっくり走る車の後ろが渋滞するのは日本だけだと思うが、その日本的光景が山中でも発生していた。
■こっちはエマージェンシーの最中にある。仕方がないので「左側、すみません」「右から追い越しますよ~」を声をかけ、先に行かせてもらう。マナーもなにもあったものではない。ときどきロープウェイの駅舎が見えるのだがなかなか近づかずもどかしいが、最後に事故をおこすくらいつまらないことはない。足さばきに気を配り体調を観察しながら下る。
■田尻尾根への分岐を左にわけ、駅まであと少しの地点だったと思うが、街中の格好のままの男子女子が上がってきた。まるきり空身でバッグひとつない。どこまで行くんです、谷川岳は以前に登ったことがあるんですか、と本日最後の「しゃべりすぎ」をはじめる。「山小屋まで行ってみようかと思って」。先に歩く元気な女子が駅に備えつけのものだろう、手にもったパンフレットを見せて言う。あのね、谷川岳っていちおうガチの山なんですよ。とにかく時間を気にして、引き返すことを頭に入れてくださいね。余計なおせっかいになるといいんだけど。こんな話をしたのは二人の心配をしたというより、自分がギリギリの状態ながら山行を終了できそうだと最終確認をするためだった。
■15時43分、天神平のロープウェー駅着。終わった。自販機で飲み物を3本買い、駅舎のベンチに腰かけて2本は飲み、1本は首筋に当てる。ここから先ならどこで倒れようが普通一般の病人として搬送されるはずだ、遭難扱いにはならないだろうと安堵しながら、途中で追い抜いた登山者たちが下りてきてロープウェイに乗るのを眺めていた。
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【考察】
■この日、自分の身に起きたのはおそらく熱中症ではないだろう。むかし8月の栂海新道へ向かっていたときに、たしか雪倉岳の前後だったと思うが、熱中症らしき状態になったことがある。突然気分が悪くなり吐き気がしてきた。運の良いことに雪渓の脇を通りかかり、端から雪解け水が滴り落ちていたから、ザックを下ろして屈みこみ首筋に当てたら5分で完全に回復した。以降の山行にも影響はなかった。
■今回の症状に似ている経験は学生時代に一度だけある。8月、インカレの自転車競技100kmロードレースの途中からひどい疲労感に襲われた。もちろん疲れる競技なのだけれど、いつも感じるのとは違う種類の疲労感であり、我慢しながら走ったが最後の登りで集団から遅れゴールスプリントに参加できなかった。レースのあとは意識が朦朧としていて、そのあと1週間ほどは体調がすぐれなかった。
■少し調べてみたが、現時点では「強い紫外線を浴びながら強度の運動を長時間おこなう」ことが疲労感の原因だと推察する。おそらく紫外線と疲労の関係はまだよくわからないことが多いのだろうが、アリナミンのwebページがわかりやすい。最後のビタミンB1を補給しましょうはご愛嬌だが。
https://alinamin.jp/tired/topics/21.html
■当日の装備はどうだったのか。頭にはヘルメット、上半身はモンベルの速乾性の半袖Tシャツ、下半身はタイツにショートパンツだった。日焼けは首筋と腕がひどい。モンベルのトレッキング用のサングラスはザックにしまったまま使わなかった。
■当日の天気はどうだったのか。朝日岳以降は晴れたと書いているが、じつは完全なピーカンだったわけではない。上空に薄い雲もあったし、蒸し暑かったから空気中の水分量は多く、軽く靄がかかったような状態だった(それでサングラスが必要なほどでもない、と感じていた)。
■今後の対策。どうやら自分は紫外線に強くはないようだ、と自覚して相応の準備をすること。まぶしくなくてもサングラスはかける。長袖を着用する。首筋を守るために垂れ布のついたキャップをかぶる。
https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1223388
アラビアのロレンス、南方の部隊の兵隊さん、草取りをする農家のおばあちゃんのスタイルを模範として夏のハイキングをやっていこうと思う。紫外線で遭難なんて御免だから。
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(追記)
この日は七ツ小屋山から蓬ヒュッテにかけてササが濃く、腰近くまであるササの原を泳ぐように進んだ。刈払いがいつ行われるかで状況は変化すると思う。ガスが濃いと難路になるだろう。
フォトギャラリー:31枚
装備・携行品
【その他】 サレワのトレランシューズ。テスラのタイツ、ユニクロのショートパンツ。全行程モンベルの速乾性半袖、ブラックダイアモンドのハーフフィンガーグローブ、ペツルのヘルメットにはOzmo Pocket装着。ザックはロウアルパインの22リッターに、雨具・ロールペーパー・ヘッドランプ・スマホ・バッテリー充電器と予備電池・カロリーメイト2パック・トレイルミックス300g・ココヘリ発信機・地図など。キャメルバックのハイドレーションに薄めのアクエリアス2リッターとペットボトルの麦茶400cc(残量ゼロ)。スタート時重量7.5kg。 |
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