谷川岳を懐深く堪能 馬蹄コース(反時計回り)
白毛門、笠ヶ岳、朝日岳、ジャンクションピーク、七ツ小屋山、武能岳、茂倉岳、一ノ倉沢岳、谷川岳(オキの耳・トマの耳)( 上信越)
パーティ: 1人 (Yamakaeru さん )
白毛門、笠ヶ岳、朝日岳、ジャンクションピーク、七ツ小屋山、武能岳、茂倉岳、一ノ倉沢岳、谷川岳(オキの耳・トマの耳)( 上信越)
パーティ: 1人 (Yamakaeru さん )
晴れのち曇り
マイカー
その他:
カーナビには「JR上越線 土合駅」をセット。土合橋(どあいばし)駐車場を利用。土合駅を過ぎたすぐの土合橋手前を右に折れるとある。無料で5~60台駐車可能。トイレはなし。スタート地点の白毛門登山口は駐車場の奥にある。緯度経度情報は(36.835802 138.966453)。
土合橋駐車場(03:08)・・・松ノ木沢ノ頭・・・白毛門(05:30)・・・笠ヶ岳(06:10)・・・朝日岳(07:10)・・・ジャンクションピーク(07:28)・・・清水峠(白崩避難小屋・送電線監視所)(08:44)・・・七ツ小屋山(09:46)・・・蓬峠(蓬ヒュッテ)(10:21)・・・・武能岳(11:17)・・・笹平・・・茂倉岳(12:44)・・・一ノ倉沢岳・・・奥の院(13:55)・・・オキの耳(14:01)・・・トマの耳(14:15)・・・熊穴沢避難小屋(14:22)・・・天狗の溜まり(14:48)・・・土合橋駐車場(16:55)
馬蹄コース。山が連なりを馬蹄のごとくU字を描くように縦走できるコースを言う。個人的に馬蹄コースと聞くと断然、谷川岳を連想する。正式には「谷川岳馬蹄形縦走路」。選択するルートにもよるが、距離約25km、累積標高約3,000m。標準コースタイム17時間と言われ、一般的にはコース上に点在する山小屋や避難小屋に1泊2日、ないしは2泊3日かけて周遊するコースとなっている。距離は正直短いとと思うが、問題は累積標高約3,000mにある。純粋な3,000mの登りよりも、急峻な山々を登ったり降ったりの連続は激しい筋肉疲労を伴う。ちなみに一般的な富士山登山の場合は、スタート地点(5合目)で約2,300mなので標高差は約1,400m。難コースとして知られる早月尾根でさえ2,200mなので、数値を観るだけでも気合が高まる。
防寒着と多めに食料を詰めこみ、万が一に備えてツエルトも装備に加える。コース上には要所に避難小屋が配置されているが、なにせ谷川岳の遭難件数は半端ではない。備えるにこしたことはない。
先日の土曜日16時に現地入り。深夜出発となるので、明るいうちに登山口の確認を済ませておく。戻る途中にパラパラと雨が降ってきた。週末の天気予報に雨マークはなかったはずなのでで、単なる通り雨だと思っていたが、本格的に降り出したのでやむを得ず車に退避する。日曜日のテンクラ予想は強風のためCマークとなっていた。雨が残る場合、中止も考えなくてはならない。ゴーと唸りを増す雨風の音を聴きながら、早めの就寝とする。
2時に起床。
風の唸りは続いていたが、雨の音は聞こえない。果たして、外に出てみると満天の星空があった。ここ最近、夜間登山が続いているが、間違いなくこの一年でもっとも美しい星空だった。「よしっ」とばかり準備を済ませ登山届けを出して出発。ちなみに谷川岳では、特別に指定されたエリアに入る際には、10日以前に申請して許可を得る必要があるのでよく事前に確認しておいた方がよい。遭難件数が半端にと書いたが、谷川岳は「遭難死者が世界一多い山」としてギネス認定されているとのこと。決して軽んじてはいけない山だ。
手すりの壊れた橋を渡って登山道へ入る。いきなり斜面が崩れていて道を見失うが、ヘッドライトで照らしながら注意深く先を進む。
出発を急いだため、歩きながら朝食を食べようとおにぎりを片手に持って出たが、コースはいきなりの急登から始まる。息が整わず、おにぎりが口にできない。
尾根伝いに急登の道を登っていく。深夜の登山をすると、真夜中の山は人間の世界ではないといつも思う。一歩踏み込んですぐに気が付くのは、異様な獣臭さ。昼間にはない強烈な糞尿の匂いがする。数分前に、大型の動物が同じ場所に立っていた可能性も十分にある。
見上げると樹々の間から綺麗な星空が見えた。透き通った夜空で小さな星々までがはっきりと見える。あの特徴的なオリオン座が、星に埋もれて逆に隠れてしまうほどだった。
振り向くと、下の方から「チラチラ」とヘッドライトの揺らめきが見えた。誰か続いてきているようだ。
懸念していた風は、高度を上げるにつれて勢いを増していくようだった。今は樹が守ってくれているが、唸る音を聴くだけで不安になる。森林限界を超えて直接風と向き合った時が心配だ。最初の山頂で引き返すことも想定しておかなければならない。
白毛門に到着。ここまでで標高を一気に1,000m上げたことになる。風はまだなんとか耐えられる。それより想定以上だったのは寒さ。昨晩の雨が山頂付近では雪として積もったようで、周囲がすっかり雪景色に変わっている。冷たい風が吹くと、雪が巻き上がって顔に当たる。
6:00丁度に日の出を迎える。満天の星空から最高の日の出を期待していたが、いつの間にか張り出した雲が邪魔をして、雲の切れ間に僅かにオレンジ色の光を見ただけに終わった。ヘッドライトの電池が消耗して、ほとんど意味をなさなくなったので、30分程前からOFFにして歩いている。薄明りでも十分な道だった。
笠ヶ岳に到着。空も地面も真っ白。夜間の急登ということもあって意外に時間を要した。道中の道の駅で買った大きなリンゴをかじる。瑞々しくて美味しい。
快適そうな縦走路が延びている。適度なアップダウンを繰り返しながら進む。足元には薄っすらと雪が積もっている。久しぶりに踏む雪の感触は心地よい。
急な斜面を一気に登り、最初の難関、朝日岳に到着。ここで福島から来たという青年に出会う。後ろに見えていたヘッドライトの人か。追いついてくるとは相当な健脚だ。見ればとても慣れた綺麗な足運びをしていた。お互いの挨拶は「霧が取れないですかね」だった。
朝日岳の手前付近から、いよいよ風がやばくなってきた。気を許すと身体ごと持っていかれそうになる。加えて、足元の岩がところどころで凍っている。防寒の準備はしてきたが、アイゼン装備までは持ってきていない。少しでもダメだと判断したら潔く折り返そうと決めた。幸い、危険と感じる場所はなかった。
ジャンクションピークという変わった名前のピークを過ぎると、馬蹄コース前半もほぼ終わりを迎える。U字の底の部分は清水峠と呼ばれるコルになっていて、一気に高度を下げていく。
降っている途中で、待ちにまった瞬間がやってくる。
ぶ厚く広がっていた濃霧が、一瞬のうちにスーッと引いて、代わりに谷川岳の壮大なパノラマが出現する。
なんとドラマティックな演出だろうか。どんなにカメラの解像度が上がろうとも、この感動はこの場に立った者にしか味わえない。振り向くと歩いてきた朝日岳方面は冠雪が見て取れる。正面の高度が低いところでは紅葉が真っ盛り。白と赤の競演に息をのむ。行く手の眼下にはこれから向かう清水峠の避難小屋が見える。その向こうに大きなピークが一つあり、その右側に尖ったピークが見える。山容から上越のマッターホルンと呼ばれる大源太山か。とすると大きなピークは七ツ小屋山。そのまま左へと稜線が続き、幾つかのピークを経て、一番左端奥に明らかに周囲のどれよりもスケールの大きい山が見える。云わずと知れた谷川岳。朝日岳と同じく冠雪して威風堂々の白い姿を見せている。稜線を歩く時の目測には自信があるが、これだけスケールが大きい谷川岳を目前にすると、もはや計測不能になる。距離よりも、アップダウンが相当激しいことを改めて認識した。これは手ごわい。
清水峠には白崩避難小屋の他、大きな送電線監視所がある。送電線監視所の方が立派なので、遠目には監視所の方が避難小屋に見える。監視所の脇で少し休憩しておにぎりでエネルギーを補充する。
清水峠から七ツ小屋山方面にかけては、熊笹の草原が広がっている。空まで続くような緑の斜面に、風が強く吹くたびに笹がなびく。斜面を登らずにトラバースしながらショートカットするルートもあるが、こんな雄大な風景を見たからには登らない訳はない。
手前の偽ピークを越えて七ツ小屋山へ。解放感の中、のんびりと登っていく。
七ツ小屋山に到着。清水峠の手前からみた縦走路の風景も良かったが、七ツ小屋山から眺める谷川岳への縦走路は格別だった。緑の中に一部黄色に紅葉した下草があり、露出した土の茶色が加わり、縦走路をマーブルのように彩っている。緩やかに延びていく稜線の先に大きな山。大好きな石徹白から別山・白山へ続く道を思い出す。
蓬峠へ到着。熊笹の草原に小さな蓬ヒュッテが建っていた。木製のベンチ?に腰を掛けて、暫し休憩。早朝に歩いてきた白毛門・笠ヶ岳・朝日岳の山々がよく見えた。冠雪した稜線の白と、紅葉の対比が美しい。こんな景色を見ながら歩けるなんて天国だ。
目前の谷川岳がどんどん大きく近づいてきた。ただ、その前にも、幾つかのピークが立ちはだかっている。ここからは、武能岳・茂倉岳・一ノ倉沢岳そして谷川岳とアップダウンの連続となり、反時計回り後半のコース上最大の難所と言われている。
速度を意識的に落として歩いているので、疲労感はないがとにかくお腹が空く。シャリバテにならないよう、残ったおにぎりを頬張りながら進む。
先程、コース後半最大の難所と表現したが、その中でも一ノ倉沢、谷川岳は本当に山が大きかった。歩けども歩けども、登れども登れどもだ。また、清水峠付近では綺麗に見えていた谷川岳も、七ツ小屋山付近から再び雲がかかりだして、今やすっかり霧の世界に逆戻り。時間帯はまだお昼だというのに、ほぼ誰ともすれ違わない。
強風を避けながら岩稜地帯を進むと突然、霧の中に白い鳥居が出現した。ようやく谷川岳の心臓部「奥の院」に到着。小さな祠が建っていた。奥の院まで来れば谷川岳の双耳峰、オキの耳とトマの耳も近い。
オキの耳とトマの耳では、それぞれ標識だけを写真に収める。霧の中の標識だけというシンプルな図柄。まぁ、仕方ない。
ここからはついに下山モードに突入。西黒尾根を使って下山しようかと思ったが、日本三大急登はやはり登りに使ってこそ。ということで別な機会に使うことにして、今回はロープウエイの沿って延びている田尻尾根コースを使って下山することにした。
熊穴沢避難小屋を通ってまずはロープウエイ駅方面を目指す。小屋周辺は観光エリアで石畳の道が続くが、登山をする者にとっては足への衝撃が大きく、とても歩きにくかった。
時計を見るとあまり悠長にはしていられない。ヘッドライトの予備電池は持っているが、明日の仕事のことを考えると、暗くなる前には下山して帰路につきたい。ペースを上げて一気に降っていく。
雲を抜けたのか、目の前に真っ赤な紅葉ゾーンが現れた。遠くにロープウエイの駅が見えた。ちょうど駅周辺が紅葉の一番の見ごろになっているようだった。
それにしても、駅までの距離が思っていた以上に遠かった。
駅の手前で分岐して、田尻尾根を降っていく。昨晩の雨でぬかるんでいてあちこち泥だらけ。転ばないように注意が必要だった。紅葉した樹林帯の中を降っていく。強い陽射しの中であれば、もっと鮮やかに見えたに違いない。今は夕暮れを前にして、くすんだ感じが残念だった。
「ゴーッ」という音で見上げるとロープウエイが動いていた。途中で出会った人から「今は休運中ですよ」と聞いていたのに「動いとるやんけ!」と思わず突っ込む。まぁ、折角、馬蹄コースにチャレンジしているのだから、最後まで徒歩でなくては意味がない。
登山道を抜け切ると、ロープウエイの点検道路か未舗装の林道に出た。あとは林道を降り周遊の輪を閉じる。
12時間で歩ききれると思っていたのに、総計15時間の山歩きとなった。もはやアホと言われそうだが、久しぶりに思う存分、山歩きが堪能できてとても幸せだった。達成感とともに谷川岳馬蹄形縦走を終える。
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