はじめての山ごはん

山ごはん初心者さんのための、食材選びや、持ち運びのコツ、注意点など、山ごはんの基礎知識を紹介します。

監修=いきいき登山ガイド・ヤッホー‼さん
写真=小山幸彦(STUH)

はじめに

山ごはんの目的とは、安全な登山をサポートすることにあります。山ごはんを学ぶのはロープワーク・読図・気象などを学ぶのと目的は同じです。水道・ガス・電気、医療機関がない山中では、

「登山に必要なエネルギーや栄養素を充足させること」
「食中毒を起こさないように衛生管理を行うこと」
「体力を消耗させるような重装備にならないこと」
「山行スケジュールを圧迫しないように短時間で調理すること」
「自然にダメージを与えるようなゴミ・排水をださないこと」

などが、山ごはんには求められます。
このページでは、山ごはんの献立、調理、持ち運び、マナーの基本を紹介します。

山と自宅での調理の違いとは?

1.基本は加熱調理

山ごはんでまず気を付けたいことは食中毒です。おいしく、栄養満点の食事を作っても、食中毒を起こしては元も子もありません。食材や調理器具を充分に洗えない山では、食べる前にしっかりと火を通せるレシピがいいでしょう。サルモネラなど食中毒菌の多くは、75℃以上1分間の加熱で死滅します。


2.食べられなくなる失敗はNG

焦がして食べられなくなってしまっては、必要なエネルギーをとれない、ということにもなります。火加減には十分注意しましょう。外で調理するため、ストーブは、外気温や風の影響を受けやすいです。日差しが強いと火が見えづらく、火力がわかりにくいということもあります。クッカーの中を見て、どれくらい沸いているかで判断するしかありません。


3.必要最低限の水と食材、道具で手早く作る

当たり前ですが、食材や道具を自分で持ち運ぶ必要があります。場所によっては水も自分で運びます。日帰りや山行日数でも異なりますが、荷物の重さでエネルギーを消費しては本末転倒です。食べきれる量の食材を用意し、汁物も全て飲み干せるだけの量にしましょう。よく作る食材や使っている道具の重さを測って、把握しておくと役立ちます。

また、調理時間が短い、つまり加熱時間が短いレシピであれば、燃料も節約できるので、持っていく燃料が少なく てすむことになります。数日の縦走時には意識したいポイントです。これもよく作るレシピでどれくらいの燃料を消費するのか、重さで測っておくと計画が立てやすく便利です。

食材選び、レシピのコツ

1.常温保存可能な食材を活用する

レトルトパウチ食材、缶詰、乾物、フリーズドライ食品など、常温保存可能な食材を活用しましょう。スーパーや輸入食材店などをこまめにチェックし、山ごはんに使えるものがないかを探してみるのもいいですよ。

缶詰や、乾物はローリングストック(常に一定量備蓄すること)しておき、家庭での料理でもレパートリーを増やしてはいかがでしょうか。ローリングストックは防災にも役立ちます。

2.調味料や香辛料を活用する

調味料や香辛料を上手に使うことも大切です。アレンジが利き、軽くてかさばらないので、必要最低限の持ち物で美味しいレシピが作れるのです。

食材の持ち運びのコツ

1.献立ごとに食材をまとめる

自宅で必要な分量を用意した上で、1日目夜、2日目朝など、各献立でまとめておくと、調理の際に迷いがなく、スムーズです。

 

2.調味料は必要な分量を小分けにする

調味料もあらかじめ自宅で献立に必要な分量だけを小分けにして持っていくと、山の中で作業する必要がなく便利です。 液漏れが気になるしょう油などの液体調味料は、小型のボトルに入れ、さらにファスナー付きポリ袋に入れます。


3.野菜の持ち運びのコツ

あらかじめカットされたものを持っていけば、包丁やまな板を持ち運ぶ必要がありません。自宅でカットしたものをファスナー付きポリ袋に入れるか、スーパーやコンビニでは、カット野菜やパウチされたものが購入できるので、活用してもいいでしょう。

大葉などの葉物は水で湿らせたキッチンペーパーにはさんで、ポリ袋に入れて運びます。

風味を生かしたいときなどには、やはり直前に切りたいもの。そんなときには、野菜用のポリ袋もおすすめです。


4.肉は冷凍して持ってい

肉は細菌が増えやすいため、注意が必要です。細菌の増殖は10℃以下で抑えられます。ファスナー付きのポリ袋に調味料で味付けをして入れて冷凍し、保冷バックに入れて持ち運びます。それでも、日帰りまたは初日の献立にして、1日目に食べるようにしてください。

後片付けのコツ

山では洗い物ができません。汚れたクッカーはティッシュなどで拭きとります。ゴミはファスナー付きのポリ袋にまとめると便利です。分別は家に帰ってからと割り切って、小分け容器などもまとめて入れてしまえばOK。

山ごはんのマナー

1.周囲の登山者への配慮

ベンチを独占しない…という基本はもちろん、音やニオイなどにも気を付けましょう。例えば、人が多いテント場では、周囲の音が意外と響きます。朝食は前の晩に用意しておいて手早く済ませるか、明るくなった後に用意しましょう。混みあった山頂でステーキなどはニオイが気になるものです。場所や状況を選びましょう。


2.環境への配慮

まずは普段の登山と同様、ゴミを出さないことです。パスタの茹で汁などは、なるべく出さないように少ない水で行ないます。ボトルなどに入れて持ち帰るのもいいでしょう。

果物の皮や種は自然に還るからOK、と思うのか、捨ててしまう人を見かけることがありますが、これもNGです。気温が低い高山では微生物の動きが活発ではないので、分解されずに残ってしまうこともあります。また、クマなどの野生動物を「餌付け」することになってしまい悪影響を及ぼす可能性があります。


3.安全への配慮

テント内での火器類の使用は一酸化炭素中毒を引き起こす危険性があるため、NGです。また、外であっても、強風時に草むらの近くで火器を使用することで火事を誘発する危険があります。実際に、調理中にストーブが倒れて周辺の草に引火し、大規模な山火事が起きた例があります。火器を扱う際は適切な場所で行ないましょう。

監修=いきいき登山ガイド・ヤッホー‼さん
本名、芳須勲。管理栄養士・健康運動指導士・登山ガイドの資格を持ち、中高年登山者の健康づくりを、栄養と運動の両面からサポート。山ごはん・アウトドア料理を得意とし、災害時における野外炊飯法などの講習会も各地で行なっている。著書に山登りABC「登山ボディのつくり方」(山と溪谷社)、山登りABC「もっと登れる山の食料計画」(山と溪谷社)など。
HP:http://cocolohas.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/ikiikitozan/
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