街で楽しむ山イベント・番外編: 健脚願うハイカーに耳よりの情報を、東京・人形町にある韋駄天を祀る大観音寺で入手!

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東京・人形町は大観音寺(おおがんのんじ)。こちらでは俊足の神、韋駄天(いだてん)を祀り、以前からランナーたちの間で話題にのぼっていた。この度、山岳信仰にゆかりのある「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」を文字入れしたご朱印帳を製作したと小耳にし、住職にきっかけなどを聞いた。

Contents
  • 人形町と大観音寺の縁起
  • 韋駄天ってどんな神?
  • 韋駄天グッズにご朱印帳が仲間入り
  • 山岳修行で履かれたわらじ

 

人形町と大観音寺の縁起

江戸時代、人形操り芝居や浄瑠璃芝居などの小屋が軒を連ね、それらに関わる多くの人形師たちが住んでいたことに由来する人形町。現在、町を貫く人形町通りは5車線の大通りで、車の往来が絶えない。そんな目抜き通り沿いにありながら、ひっそりとした一角が。ここが大観音寺だ。のぼり旗が立っていないと見過ごしてしまいそうな、こぢんまりとした境内。一歩足を踏み入れると、通りの喧噪から一線を引いたように、静けさに包まれるから不思議だ。

本尊は、なんと菩薩像の頭部。4代目住職の関口真流(しんりゅう)さんに縁起を聞く。「鎌倉時代、もともと鎌倉の新清水寺(しんせいすいじ)にあった菩薩像が火災により頭部が落ちたと伝わります。その後、江戸時代に井戸から掘り出され、観音堂に安置していましたが、明治時代に廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)のあおりでお堂は取り壊しに。そこで、この地に勧誘したことに大観音寺は始まります。明治9年のことです」

続けて、住職から興味深い話が。「菩薩仏頭像は高さ170cm、幅54cmもある鉄製で、人の手で動かすのは困難なほど重い。それが、2011年3月11日の東日本大震災で向きを変えていたのです。真正面だった顔が右へ25度も。驚きました」。それまで、開帳日は新清水寺の火災の日にちなみ、毎月17日だけだったが、11日も加えることに。「被災地に祈りをささげる日になればと思います」

観世音菩薩を本尊に、韋駄天などを祀る

 

韋駄天ってどんな神?

巨大な仏頭像に興味は尽きないが、韋駄天がお目当てという参拝者も多い。約40年前、境内入口に先代住職が建立した小堂に木彫りの像を安置。「韋駄天は仏法や伽藍の守護神ですが、韋駄天走りという言葉があるように、俊足の神としておなじみですね。仏舎利を奪って逃げた鬼神を素早く追いかけ、取り返したとされます」。寺の立地が、東京マラソンの27km地点に近いことも手伝い、例年3月の大会前には必勝祈願に訪れるランナーの姿が多く見受けられるそうだ。

「走りのほうが注目されていますが、食材調達の神としても信仰されているんですよ」と住職。「ごちそうさまという言葉の馳走は、駆けずりまわるという意味ですが、これは韋駄天が釈迦のためにあちこち駆け回って食材を集めたことに由来します」。なるほど、韋駄天とはなんとも頼もしい! そして、さまざまなご利益にあずかれそうだ。

りりしく、頼もしい表情の「護法韋駄天尊」

 

韋駄天グッズにご朱印帳が仲間入り

韋駄天にあやかり、すべてのランナーが無事完走できるよう、願いを込めて紙製の「肌守」を作ったのが10年前。以来、彼らからの要望を取り入れながら木札守、手ぬぐい、夜間練習用のアームバンドリフレクターなどを制作してきた。

2020年3月に登場したのはご朱印帳(1800円)だ。表紙には韋駄天が走り抜けるイラストのほかに、「六根清浄」の文字があしらわれている。この言葉は、眼(視覚)、耳(聴覚)、鼻(嗅覚)、舌(味覚)、身(触覚)、意(意識)といった六根から起こる欲望を絶ち切り、清らかになることをうながす。修験道の山岳修行では「懺悔、懺悔、六根清浄」と唱えながら歩くのだ。「山というのは古くから信仰の対象です。近年はレジャーの要素が強くなり、山への畏敬の念を忘れがちに。そのようなことがないよう、六根清浄を書き入れたご朱印帳を作りました」

山にでかけた際、寺社でご朱印をいただく機会も多い。通常よりもひとまわり小さく、バックパックにしのばせるにはありがたいサイズ感だ。

ご朱印帳を手にする関口真流住職


韋駄天のお札や手ぬぐい、アームバンドリフレクター

 

山岳修行で履かれたわらじ

韋駄天の小堂に、履きつぶされたわらじが奉納されている。聞けば、6年前に住職の長男・真允(しんいん)さんが百日回峰行(ひゃくにちかいほうぎょう)を達成したときのものだとか。百日回峰行は天台宗・延暦寺に伝わる修行の一つで、文字どおり100日にわたって山中を巡り、礼拝する。何足ものわらじをつぶしたというから苦行ぶりは想像にかたくない。ボロボロになったわらじを前に、なんだが励まされる。加えて、健脚を願わずにはいられなかった。


百日回峰行で使われたわらじ。苦行の証だ


人形町にある重盛永信堂でせんべいをみやげに

 

DATA

大観音寺

住所:東京都中央区日本橋人形町1-18-9
電話:03-3667-7989
※座禅会を毎月11日に開催(18:45~20:00/500円)

 

※取材・撮影は緊急事態宣言以前のものです

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

街で愉しむ、山イベント

街中で開催される、山にまつわる展覧会や上映会、トークショー、ギアマーケットなどなど。東京を中心とした気になるおでかけ先から、フリーランス編集者の小野泰子さんの視点を通してイベントのようすをお伝えします。

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