おでかけルポ: 「すべての旅は本から始まった――。写真家 石川直樹の世界」 @東京都立多摩図書館

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街中で開催される、山にまつわる展覧会や上映会、トークショー、ギアマーケットなどなど。東京を中心とした気になるおでかけ先から、フリーランス編集者の小野泰子さんの視点を通してイベントのようすをお伝えします。第1回目は、世界をまたにかけて活躍する写真家・石川直樹さんの「本との関わりかた」が見えてくる展覧会にでかけました。

図書館ならではの展示構成

山好きの間で、もはやその名を知らない人はいないのではと思うほど、めざましい活躍を続ける石川直樹さん。2019年夏には4年ぶり、2度目となるパキスタン・中国国境のK2(ケーツー、8611m)に挑戦するも、雪の状態から頂(いただき)を目前にして無念の撤退。しかし、すぐに帰路に着くことなく、同じカラコルム山脈のガッシャーブルムⅡ(8035m)に狙いを切りかえ、見事登頂を果たしている。

帰国後、精力的に遠征の報告会を各所で行ないながら、この記録を2019年のうちに写真集『Gasherbrum Ⅱ』(SLANT刊)、『EVEREST/K2』(CCCアートラボ刊)におさめ、発表しているのだから、“仕事が早い”のひと言に尽きる。

山だけでなく、文化人類学や民俗学にも関心が高く、辺境から都市まであらゆる場所に足を運ぶ石川さん。日本各地に残される、「異形の神々を迎える儀礼」を一冊にまとめた『まれびと』(小学館刊)も2019年に刊行している。

このように、石川さんはさまざまなフィールドに赴き、「インプット」したことを、本を通じて私たちに「アウトプット」してくれている。それを目の当たりにできるのが、今回の展覧会だ。

図書館1階にある展示エリアでは、最新刊を含め、これまでの写真集、著作、雑誌掲載記事をいっきょに陳列。そのどれもを手にとり、じっくり目をとおすことができる。また、2006年11月号から2011年12月号まで表紙写真を担当した月刊文芸誌『群像』は62冊におよび、一面に整列したさまは圧巻だ。

写真集のコーナー。手前左から2冊目が『まれびと』、3冊目が20年の旅の集大成『この星の光の地図を写す』(2019年、リトルモア刊)


石川さんによる『群像』の表紙写真。デザインは祖父江 慎さんが手がけている

 

石川さんの本棚を再現したコーナーも図書館的

いわゆる写真展とは一線を画す、図書館が主催する展覧会ならではの見せ場がもう一つある。それが「石川直樹の本棚」だ。東京都立多摩図書館と東京都立中央図書館が所蔵する本を用い、石川さんの自宅の本棚を再現している。

友人宅に招かれたとき、本棚を拝見するのは人となりが垣間見え、楽しいものだが、このコーナーもしかり。子どものころから読書家である石川さんの本棚には絵本に児童書、文芸書、山岳や海洋、民俗やプリミティブアートなど、幅広いジャンルの440冊が並ぶ。それぞれが石川さんの感性を刺激し、旅への憧れをふくらませることになったに違いない。

本棚で、インパクトを放つ表紙が目に留まった。画家・秋野 亥左牟(いさむ)さんがインディアン居留地を訪ね、彼らの世界観を描いた絵本『おれは歌だ おれはここを歩く』だ。世界各地に残る洞窟壁画を紹介した石川さんの写真集『NEW DIMENSION(ニュー ディメンション)』(2007年、赤々舎刊)につながっていくのかな。多種多様な旅の原点は、こういった本にあったのか……。そんなことを思いながらページをめくっていく。もしかしたら、ここに集う一冊を手にしたことがきっかけで、私たちも新しい旅の第一歩を踏み出すのかもしれない。

「石川直樹の本棚」が旅へといざなう。上段右端が『おれは歌だ おれはここを歩く』
 

大判ポスターや、太平洋横断時の“漂流物”も

本以外の展示として、過去の写真展時などに製作されたポスター40点も見ごたえがある。なかにはカルチャーマガジン『EYESCREAM(アイスクリーム)』の増刊にて、付録だったA2サイズのものも。これには、2011年に2度目のエベレスト登頂時に撮影した写真が使われている。いいな、こんな付録。

また、2004年に挑戦した熱気球による太平洋横断の旅を紹介するコーナーも興味深い。この旅は失敗し、宮城県沖1600kmの海上で救助されている。驚くことに、4年後の2008年にカメラをはじめとする機材や装備が鹿児島県・悪石島(あくせきじま)で見つかったのだ。これらのボロボロになった漂流物もまた、石川さんの「アウトプット」にひと役買っている。

この企画展示に合わせ、2月11日(火)には「地球を旅する」と題して石川さんの講演会が開かれている。120名の定員枠は高倍率での抽選となり、集まった人々は石川さんから旅と本にまつわる話を2時間にわたり、たっぷり聴くことができた。

石川さんの写真を引き立てながらも、伝えるべき情報を盛り込んだ秀逸なポスターの数々


悪石島に流れ着いたカメラや衛星電話など。破損が激しいものもあれば、原形をとどめるものも


講演会ではスライドを交えながら、現在までの活動についてまっすぐな言葉で語ってくれた石川さん

 

写真=奥田晃司

「すべての旅は本から始まった――。写真家 石川直樹の世界」

会期|2020年1月25日(土)~3月15日(日)※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2月29日(土)~3月15日(日)の臨時休館が決定。これに伴い、企画展示も中止となった
会場|東京都立多摩図書館 1階 東京都国分寺市泉町2-2-26

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

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