尾瀬「原の小屋」、2年ぶりの営業がスタートします。ゆったりとした尾瀬時間を過ごしに来ませんか?

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燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第8回は、いよいよ営業開始直前のお話です。

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第8回は、いよいよ営業開始直前のお話です。

文・写真=髙妻潤一郎

2021年5月、スタッフとともに営業開始日の2週間ほど前から本格的な小屋開けの準備を始めていた。今年はどんな年になるのだろう。まだまだ感染症の問題で平常の尾瀬にはならないとは思うものの、私たちは淡々と作業を進め、お客様の迎え入れの準備をするほかない。

窓枠すべての雪囲いを外し、秋にまた同じように取り付けができるように順番に片付けていく。昨年、雪囲いの板も丁寧に補修や塗装をして設置したが、やはり数枚はこの冬の間に傷んでしまった。補修が必要になった雪囲い板は、修繕できるように場所を変えて仮置きをしておく。

雪囲いの片付けと同時に除雪作業も行なっていく。除雪機も稼働するが、細かなところは手掘りである。そうやって最初の数日は男女ともに外作業が主となる。こうして雪がなくなり地面が現われると、今度は建物の周辺にさまざまな仮設の建築物を作る。これに必要不可欠なのが、建築現場で足場として使用している、単管と呼ばれる金属のパイプである。実はこの単管にはさまざまな部品が販売されており、値段も手ごろで使い勝手が良い。私たちはこれに色を塗り、足場のような雰囲気にならないよう、山小屋や周りの景色に少しでもなじむようにしている。

パイプ同士をつなぐジョイントは、90度で固定されている「直交クランプ」略して「直交」と、斜めにも取り付けができる「自在クランプ」略して「自在」の2種類ある。スタッフが最初に覚える単語がこの「直交」と「自在」かもしれない(笑)。これをラチェットレンチやメガネレンチという工具でネジを締め上げ、木材やポリカーボネート材の波板などと組み合わせて、ウッドデッキ、喫煙所、物干し場、洗濯場、発電機小屋の屋根を作っていく。

尾瀬・原の小屋

単管で作った物干し場、事前に寸法を切り揃えておけば、数時間で完成する
単管で作った物干し場、事前に寸法を
切り揃えておけば、数時間で完成する

さて、外仕事も少し先が見えてくると今度は接客の準備だ。小屋の仕事はマニュアル通りにいかないことが多いのが現状である。それでもスタッフができるだけスムーズに「一日の仕事の流れ」を覚えられるよう、自分たちを宿泊者に見立てて食堂のセッティングや給仕、下げ膳から洗い物の手順などを、ひとつひとつ確認しながら身につけていってもらう。

部屋の掃除もしかり、頭で考えるのではなく、自然にその動作ができるまで、反復練習していく。「お疲れ様でした! こちらで受付をお願いします!」。チェックインもお客様役と受付役に分かれて交互に練習。今年は検温の作業もある。「それではお部屋のご案内と館内のご説明をさせていただきます!」。私たちで用意した文章をそのまま棒読みしたのではお客様の心に響かないから、マニュアル文をもとに各自の言葉で説明ができるまで、こちらも練習である。

尾瀬・原の小屋

オリジナルのヒノキ升で夕食時に地酒を販売。今年からの新しい試みだ
オリジナルのヒノキ升で夕食時に地酒を販売。
今年からの新しい試みだ

また山小屋での生活はいっけん下界とそう変わらないように見えるが、小屋から一歩外に出ればそこには大自然が待ち構えている。ケガをしても小屋の前に救急車は来てくれないのだ。だからそんなアクシデントやリスクについてもスタッフへは伝える必要がある。 そうして迎える営業開始初日、今年最初のお客様が到着する。「笑顔でね!」「大丈夫、いっぱい練習もしたんだから!」。心なしか緊張しているスタッフに裕子が声を掛ける。

「お疲れ様でした!」。玄関に明るい声が響き渡る。2021年「原の小屋」のスタートだ!


山と溪谷2021年7月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

- 尾瀬 - 原の小屋 OZE・HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


山小屋直通電話:090-8921-8314
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プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

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