小屋閉めを無事終えて山眠る尾瀬。 小屋とは年明けの雪おろしまでしばらくのお別れです

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燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第11回は、山小屋を閉めた後の過ごし方について。

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第11回は、

文・写真=髙妻潤一郎

2021年の「原の小屋」は10月下旬、無事に小屋閉めを終えることができた。ご利用いただいたお客様はもちろん、小屋運営に関わっていただいたすべての方々に感謝しつつ、まずは一安心といったところである。そして奇しくも下山日の朝は見晴らし地区も一面の雪景色となり、早くも冬の訪れを告げていたようであった。

尾瀬・原の小屋

奇しくも下山日の朝は初雪となる。見晴地区は一面、銀世界となった
奇しくも下山日の朝は初雪となる。
見晴地区は一面、銀世界となった

私たちは鳩待峠に下山し、そこから車で日光を経由して檜枝岐村に向かい、御池登山口に置いてある車を引き揚げた後、自宅に戻った。今日を境に基点が自宅になるのだ。荷物の整理をしながら、少し休養を取りたいと思うが、まだまだ雑務が続きそうだ(笑)。しかしながら、小屋での生活ほど慌ただしいことはない。いわゆるオフシーズンが存在するおもしろい仕事である。しかしこのオフシーズンをどう過ごすか。言い方を変えれば「オフシーズンこそがオンシーズン」、つまり、冬の間に何をするのかによって、来シーズンの小屋の成功不成功につながっていくと考えている。やや大袈裟な考えかもしれないが、少なくとも私たちはいままでそう過ごしてきたつもりだ。

尾瀬の場合は冬も雪おろしなどの作業があるため、私たちはオンシーズン・オフシーズンとは言わず、グリーンシーズン・ウィンターシーズンと呼んでいる。さてこのウィンター(オフ)シーズンであるが、毎年何か学習なり、技術なり、資格を取得することを続けてきた。具体的には直接小屋の仕事につながらないような知識でもよいので、「何か一つぐらいは!」と続けている。せっかくある程度自由な時間が取れるのだから、これを使わない手はない。

小屋の生活をはじめて17年、おかげさまで17個以上のなんらかの知識なり技術を身につけることができた。たとえ一つ一つはたいしたものでなくとも、数が多くなればそれなりに意味のあるものになってくる。「資格マニア」と小馬鹿にする人もいるが、自分自身への財産としておこなっているに過ぎず、誰かに認めてもらいたくてしているわけでもない。それよりも勉強によって合格までのプロセスを組み立てるコツのようなものが身につき、そのことが小屋でのさまざまなトラブルの解決に役立っているのではないかと思っている。

こうして下山後も毎日、目標を持って一日一日を過ごしていくことで、ダラダラする暇がなくなる(笑)。つまり今日が充実していれば、1週間も充実しているし、それが続けば1年間も充実していることになる。そしてその積み重ねが私たちの小屋への姿勢につながっていると思っている。

尾瀬・原の小屋

最後のハシゴ作業となる煙突の取り外しを済ませ、小屋閉め終了
最後のハシゴ作業となる煙突の
取り外しを済ませ、小屋閉め終了

そんなわけで私たちはすでに来年の小屋の準備を始めながらこのウィンターシーズンも目標を立てて活動を始めている。明日はどうなるかわからないのが人生だが、自分自身が記憶したり、身につけたりした技術はなくなることもない。そうした一種の財産作りをしながら、毎日を過ごしている。

「来年はどんな年になるのか?」「コロナの収束は?」などなど不安なことは多いし、今年の運営方法ですら、はたして正解であったのかどうかはわからない。ただこれが10年、20年と経った時に「あの時の判断は間違いではなかった」と言ってもらえれば幸せだ。

気がつけば都会はクリスマスムードに包まれ、通常の師走のにぎわいが戻りつつあるようだ。私たちは年が明ければまた、雪おろしの小屋通いが始まる。


山と溪谷2022年1月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度の営業は終了しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

- 尾瀬 - 原の小屋 OZE・HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度の営業は終了しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
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プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

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