田部井淳子さんゆかりの極上湯の宿・沼尻高原ロッジに泊まり、安達太良山を紅葉登山
ひとり気ままに山と温泉を楽しむ温泉登山。登山前後に泊まりたい至福の温泉宿を紹介します。第21回は紅葉の安達太良山と、田部井淳子さんゆかりの宿へ。
写真・文=月山もも
福島県中部にある安達太良山は、どの季節に登っても楽しい人気の山ですが、紅葉が美しいことで特に知られています。
紅葉真っ盛りの安達太良山に、やや穴場な沼尻登山口から山頂を目指しました。
紅葉の盛り、沼尻ルートは見所がいっぱい
紅葉シーズンの休日で登山者は多めだったものの、沼尻ルートはそこまでの大混雑ではなく、ホッとして歩き始めます。色づいた木々の中を歩いていくと登山口から5分ほどで「白糸の滝展望台」へ。
滝の周辺は赤や黄色の紅葉で彩られており、この日最初の絶景を目に焼き付けました。
この後は左手に湯の花採取場を眺めながら歩いていきます。
川を流れているのは強酸性の温泉で、火山性ガスなどの危険があるため一般の登山者は立入禁止となっていますが、ガイドを申し込めばあの川の源である「沼尻元湯」で源泉につかることもできるんだとか。
30分ほどで道が2つに分岐しますが、今回は危険箇所が少なく山頂まで最短で着ける、船明神山方面を歩くルートを歩くことに。
紅葉に染まる山並みを眺めながら歩を進めていくと、2時間ほどで安達太良山の火口「沼ノ平」へ。打って変わって荒涼とした風景が目の前に広がり、まるで月面のような迫力に圧倒されます。
沼ノ平から山頂に向かう「馬の背」まで来ると、反対側の奥岳登山口から登ってきた登山者で賑わっていました。
山頂からはくろがね小屋を経由して下山します。くろがね小屋周辺はまさに紅葉の盛り!あまりの美しさにしばらくの間立ち尽くしてしまいました。後ろ髪を引かれつつ、奥岳登山口に下山します。
くつろげるラウンジでコーヒーやお酒をいただく
今回は、登山口に近い沼尻温泉の宿「沼尻高原ロッジ」に前泊しての登山でした。
かつて、登山家の田部井淳子さんが営んでいた温泉付きのロッジをリノベーションし、リニューアルオープンした宿です。
ロビーでは暖炉が燃えていてあたたかく、田部井淳子さんが実際に使っていた登山靴なども陳列してあり、思わず見入ってしまいました。
案内していただいたのは洋室のツインルーム。
室内には「日常を忘れてゆっくり過ごして欲しい」という配慮から、時計やテレビ、電話がありません。テレビの代わりにワイヤレススピーカーが設置してあり、iPadを借りることもできるため、部屋にいても退屈することはなかったです。
ラウンジではチェックインから午前0時までと朝は7時から10時まで、コーヒーや紅茶、白ワインやウィスキーなどを自由にいただくことができます。
カラフルな北欧風のファブリックでまとめられたラウンジは、広々としていてソファーの座り心地も良く、コーヒーを飲みながらゆるゆると時間が過ぎていきました。
源泉かけ流しのにごり湯を夜通し楽しめる
男女別の大浴場があり、それぞれに露天風呂もついていて夜通し入浴が可能です。
内湯では半円型の浴槽に、強酸性の硫黄泉の源泉がかけ流されています。源泉は高温ですが、水で薄めずに階段状の湯口を流すことで温度を下げているようです。熱めの濃厚なお湯に浸かると毛穴がキュッと引き締まるように感じました。
露天風呂からは紅葉した木々も眺められ、内湯より少しぬるめのお湯にゆっくりと浸かることができました。
絶品の打ち立て蕎麦と、目にもおいしい料理の数々
食事は朝夕ともレストランにて。夕食は、出来たてを一品ずつ運んでいただきます。
お酒は会津の地酒「冩樂」の純米吟醸を。ほんのりと果物のような香りがして料理の味の邪魔をしない、食中酒にぴったりなお酒でした。
お造りは食べられる花があしらわれ、食べてしまうのがもったいないほど美しい盛り付け。「もって菊」「ピクルス」「にんじん」の3種のソースが添えられていました。
笹の葉に包まれた押し寿司は「穴子」「海老」「しめ鯖」の3種類。
黒い器で提供されたのは「茸」と「天然のすっぽん」「会津産の高麗人参」の炊き合わせで、滋養あふれる味わいです。
メイン料理は軽くスモークした肉の炭火焼き。付け合わせの野菜までおいしくいただきました。
コースの終盤には料理長が蕎麦の実の栽培から手がけたという、打ち立ての十割蕎麦が提供されます。
「おかわりできますよ」と言われたもののお腹はいっぱい……だったのですが、香り高い大変おいしい蕎麦で、思わずおかわりをお願いしてしまいました。
翌朝は、たっぷりの地物野菜のほか、メヒカリの一夜干しや会津地鶏の卵焼きなど、ここでしかいただけないおかずが盛りだくさん。
おいしい朝食に、山を歩く活力をいただきました。
*紹介した食事、サービスは2020年10月取材時の内容です。
沼尻高原ロッジ
料金:1泊2食付き/1室1名利用28,000円~、2名18,000円~
住所:福島県耶麻郡猪苗代町大字蚕養字沼尻山甲2864
電話:0242-93-8101
HP:https://www.numajiri-lodge.com/
プロフィール
月山もも
山と温泉を愛する女一人旅ブロガー。山麓の温泉宿を一人で巡るうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山を始める。ゆるハイクから雪山登山まで、テントも一人で担ぐ単独登山女子。 ブログ「山と温泉のきろく」https://www.yamaonsen.com/に、温泉と登山のすばらしさについて綴っている。山と温泉に魅せられる人を増やすことが、人生のよろこび。著書に『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)。
ひとり温泉登山
山と温泉を愛する月山ももさんによる月1連載。登山前後に入りたい極上の温泉宿をご紹介します。