“ファン”たちの手による草刈りで美しい草原を守る。乙女高原ファンクラブ｜日本山岳遺産の横顔 vol.15

豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第15回は、秩父山地南西部の乙女高原で草原の保全活動に取り組んでいる「乙女高原ファンクラブ」を紹介する。

写真＝乙女高原ファンクラブ
取材・文＝一ノ瀬伸
『山と溪谷』2022年3月号掲載記事

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熱心なファンたちが守る　価値ある草原の未来
毎年の秋の終わり、その草原には200人を超える“ファン”たちが集まる。花はなく紅葉も終わった時期にいったいなぜ？ 彼らは草刈り機や鎌を手に辺りの枯れ草を刈り取っていく。長い間、こうして草原を守っているのだ。

山梨県山梨市、秩父山地南西部に位置する乙女（おとめ）高原と、活動を続ける「乙女高原ファンクラブ」の話だ。標高約1700ｍに広がる5.4haの乙女高原の草原には、春は30種類ものスミレ、初夏はレンゲツツジといった花々が咲く。多くの鳥、昆虫もすむ。豊かな生態系を有する草原は放っておけば森になってしまう。人による定期的な手入れが必要というわけだ。

「人が草刈りをして自然が守られるというのはおもしろいですよね。私がいちばん魅了されたのは、そういう自然と人間の関係性です」

同クラブ代表世話人の植原彰さんはうれしそうにそう話す。

乙女高原の歴史は少なくとも100年以上遡る。かつて人々は草原で刈った草を肥料や家畜のエサとして利用した。戦後、飼料や燃料の変化に伴ってほかの多くの草原が衰退するなか、乙女高原はスキー場として使われ整備が続いたため草原が維持された。

しかし、2000年にスキー場が営業を終了。「このままでは美しい草原がなくなってしまう」。危機感をもった地元有志らが草原を次世代に残そうと行動した。この年の秋に行なった草刈りが翌年のクラブ発足のきっかけとなった。

それから20余年、入会者数は750人を超える。活動は毎年11月の草刈りだけでなく、クラブで養成した案内人による自然観察会や草原の課題を考えるフォーラムの開催など多岐にわたる。乙女高原の魅力を伝える新たな催しも模索中だ。

「乙女高原でやりたいことがたくさんありすぎて、あれこれと考えています。地元にこんなおもしろい草原があって、なんて素敵なことだろう、といつも感じています」

植原さんはときめいたように言う。乙女草原に魅せられた人々が希有な自然を未来へつないでいる。

★日本山岳遺産認定地 詳細： 乙女高原［ 山梨県］乙女高原ファンクラブ（2010年）