華やかで美しい夏山の始まり。ミヤマキリシマのピンクの絨毯をめざして くじゅう連山・平治岳
九州の屋根とも呼ばれるくじゅう連山。6月はミヤマキリシマが山を彩る、一年で最も華やかな季節です。中でも大群落がある平治岳(ひいじだけ)を紹介します。
熊本県と大分県にまたがるくじゅう連山は、九州本土最高峰の中岳、主峰・久住山、大船山などの峰々がひしめき合うように連なる、九州最大級の火山群の総称です。
「九州の屋根」とも呼ばれるくじゅう連山一帯は「阿蘇くじゅう国立公園」に属し豊かな自然環境が保たれている場所です。
この雄大な山岳風景は、四季を通じて多くの登山者を魅了し続けていますが、特に6月の山開きの頃には、くじゅう連山の代名詞でもあるミヤマキリシマが山肌をピンクに染め上げ、最も華やかで美しい夏山の始まりとなります。
ミヤマキリシマは、九州特産のツツジ科の植物で、雲仙・阿蘇・くじゅう・霧島など火山帯に多く見られる半落葉低木ですが、大船山から平治岳の山頂部一帯が最大の群生地で、「大船山ミヤマキリシマ群落」は国指定天然記念物に指定されているほどです。
6月初旬のミヤマキリシマが満開となる時期を狙って、平治岳登山を計画しました。
平治岳は、坊がつるの北東にある双耳峰の優美な山容で、上部には山群きってのミヤマキリシマ大群落があり、一帯を紫紅色に染め上げる花の山としても知られています。
最大の群生地がある平治岳と大船山へのコースとしてポピュラーなのは、長者原コースから雨ヶ池越を通って、坊ガツルから赤紫色に染まる平治岳を目指すコースや、法華院温泉山荘に宿泊して湯にひたり満天の星空を見て、翌朝大船山から平治岳へ縦走する贅沢な山旅のプランも可能です。
今回私は、最短コースで平治岳や大船山に立てる吉部登山口を選びました。ここは、奥まった場所にあるためマイカーを利用することになります。駐車場から林道を進むとすぐ登山口です。
はじめ緩やかな道は、すぐに木の根が貼り巡る急坂に変わります。前を登る人の靴底が見えるほどの急坂ですが、ここさえ登りきれば傾斜は緩んで新緑が美し快適な道になります。
次第に鳴子川の水音が近くなると、暮雨の滝(くらぞめ)の分岐につきます。落差約5m・幅約8mの豪快に流れ落ちる滝で、夏は涼しく、秋は紅葉、冬は氷爆が見事です。水しぶきが気持ちよく、マイナスイオンをたっぷり浴びて、再び歩き出します。
しばらく鳴子川に沿って進むと、大船林道に合流します。
道なりに林道を進むと、ぱっと視界が開け右には三俣山が大きく迫り、左は大船山から北大船山そして平治岳の峰々に囲まれた坊がつるを一望できる場所に出ます。
ここからでも、大船山や平治岳の山肌が紫紅色に色づいていることがわかります。
林道を進んだ奥には、九州最高所の温泉である法華院温泉山荘があります。この時期の山頂はとても混み合うので、早めに法華院温泉山荘について花やかに飾られた山を眺めながら、ゆっくり昼食を食べる贅沢な時間が好きです。山荘の売店メニューも充実しています。
さて、いよいよ坊がつるをぬけて平治岳を目指します。色とりどりのテントの花が咲くテント指定地をぬけ、避難小屋の先の分岐を左へ行けば平治岳です。
途中に、雨後にぬかるむ道に石を運び登山道保護の協力をお願いする「1人1石運動」の看板があります。私も石を2個運びぬかるむ場所に投じました。
美しい自然林を抜けると北大船山と平治岳の鞍部になる大戸越(うとんごし)です。
四差路になる場所で各方向から登山者が登ってきて、ミヤマキリシマに飾られた山肌に歓声が上がりカメラのレンズが向けられています。
登山道は、混雑緩和のために登り下りの一方通行となります。急坂を喘ぎながら登りつくと大岩がある平治岳南峰です。
連山の中でも北側にあるため、ミヤマキリシマ越しに多くのくじゅうの名峰たちを見渡す景色が広がります。本峰の南斜面は一面にミヤマキリシマが広がり、「絨毯を敷き詰めた」としか表現できないような絶景です。
本峰へはミヤマキリシマの中を漕ぐようにして進みます。もう一度絶景と展望を楽しんだあとは往路を戻りました。
※2022年は虫害が報告されています。最新情報は法華院温泉山荘の現地情報や、くじゅうファンクラブのHPもご参照ください。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
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