低山ながら峻険。信仰の山・経ヶ蔵山で鳥海山の眺望と自然観察を楽しむハイキング
山形県・庄内平野の東面の一角に位置し、信仰に支えられた歴史ある経ヶ蔵山(きょうがくらさん)。山頂付近にはかつて仏教の経典が納められた経塚があり、これが山名の由来となっています。一帯はミズナラやブナなどの明るい落葉広葉樹林が広がり、山頂からは鳥海山の眺望が得られます。新緑の時期、気持ちよい森林浴と自然観察を楽しみましょう。
写真・文=斎藤政広、カバー写真=経ヶ蔵山から鳥海山遠望
経ヶ蔵山に登るコースは、北の十二滝から登るコースと南の円能寺(えんのうじ)からのコースがありますが、ここでは円能寺からのコースを紹介します。
円能寺からスタートして駐車スペースを過ぎ、林道から離れて登山口から山道に入ります。登山道はひと汗絞られる階段の続く急登で始まりますが、適所にベンチがあるので休み休み歩けます。
落葉広葉樹の明るい山道を進んでいくと、ベニイタヤやシナノキの大木が迎えてくれます。森との対話を楽しみながら登っていきましょう。春先だとミスミソウやカタクリ、カスミザクラの彩りが楽しめます。
猿渡の蔵(さるわたりのくら)の階段を登り、胎内くぐりへの分岐に出ると、気持ちのよい山道が続きます。まもなく胎内くぐりからの道と合流し、眺望のよい座禅岩へ。胎蔵山(たいぞうさん)をはじめ出羽の山並みが広がるので、岩の上に座って景色を楽しんでいきましょう。
気持ちのよい山道をさらに進むと、やがて露岩帯に出ます。石仏のある経塚の脇を巻くようにして、さらに山頂に向かいます。経塚は、かつて納経に利用された自然の岩窟で、山形県の史跡に指定されています。
まもなく山頂の展望台へ到着。展望台に上がれば、庄内平野を眼下にして北方に鳥海山が美しい姿で迎えてくれます(冒頭写真)。
展望を楽しんだ後、このまま下山するのは少々もったいないような気がします。山頂から片道20分ほどの北峰に向かいましょう。北峰まではアップダウンもありますが、ときおり鳥海山の雄姿が望め、総じて気持ちのよい山道が続きます。途中には、眺めのよい須弥壇岩(しゅみだんいわ)があり、東側の展望が開けます。
着いた北峰は際だった展望はありませんが、北方に鳥海山がブナ林の枝越しに姿を見せてくれます。帰路は、急な下りに気をつけながら、往路を戻ります。
さてここからは、道すがら出会った動植物たちを少し紹介しましょう。経ヶ蔵山周辺は落葉広葉樹の環境なので、生き物たちとの出合いも多く、野鳥観察や自然観察も楽しめます。
まずは、ヒオドシチョウ。食樹はエゾエノキ、ハルニレ、エゾヤナギなどで年1回の発生です。この時期に見られるのは越冬した成虫で、関東地方よりは1ヶ月ほど遅れて産卵、羽化が始まります。
続いてツマキチョウです。食草はハタザオ、タネツケバナなどのアブラナ科の植物です。サナギで越冬して、春に羽化します。年1回の発生です。オスは羽の先端部にオレンジ色の装飾を身に着け、メスにはありませんが裏羽根は美しい草刷り模様をしています。
MAP&DATA
参考コースタイム:円能寺駐車場~経ヶ蔵山~北峰~経ヶ蔵山~円能寺駐車場:約2時間55分
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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