夏の日本アルプスは汗冷え対策が必須! ウェアの選び方 ベースレイヤー・ドライ系アンダーウェア編

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いよいよ始まった夏山シーズン。登山者の憧れ、日本アルプスに登るための登山ウェア選びの基本を紹介する。第1回は、ベースレイヤーとドライ系アンダーウェアの特徴と選び方を学ぼう。

文=辻野 聡、監修=田中 敦(好日山荘登山学校校長)

目次

日本アルプスで必要なウェアとは?

日本アルプスという高所環境に耐えうるウェアをそろえる必要がある
普段の生活環境とは異なる日本アルプスでは、高所環境に耐えうるウェアをそろえる必要がある

日本アルプスに適したウェアを選ぶには、まず日本アルプスとはどういう場所なのかを知っておく必要がある。日本アルプスは標高3000m級の山々が連なり、普段我々が生活している環境とはまったく異なる環境だ。たとえば、奥穂高(おくほたか)岳山頂直下に位置する標高2983mの穂高岳山荘では、盛夏の昼間の気温は18℃程度、夜間は5℃程度まで下がる。真夏の山麓から歩き始めると気温差が激しく、なにを着て行けばいいのか、どんなウェアを持っていけばいいのか、登山初心者なら戸惑ってしまうのも無理はない。

登山のウェアは、レイヤリング(重ね着)が基本となる。薄いウェアを重ね着することで細かい温度調節が可能で、寒ければ着る、暑ければ脱ぐ、がセオリーとなる。レイヤリングするウェアの種類は、次の通り。肌に近い方から、ドライ系ベースレイヤー、ベースレイヤー、ミッドレイヤー、アウターウェアの順。それプラス、停滞時や小屋内で着るサーマルレイヤー(防寒着)などがある。これらを、天候や気温などの状況に応じて正しく着ることが重要だ。間違ったレイヤリングをすると、低体温症のリスクが高くなることもある。また、最新のウェアは本来の機能以外にも快適性を高めるさまざまな機能が付加されているが、まずは基本機能にしっかり注目して、ウェア選びを行ないたい。

今回は、好日山荘池袋西口店で、好日山荘登山学校校長の田中敦ガイドにウェア選びのコツを教わった。

好日山荘池袋西口店で、好日山荘登山学校校長の田中敦さんにウェア選びのコツを教えてもらった
店頭で実際に製品に触れながら、田中敦ガイドにウェアの選び方を教えてもらう

ベースレイヤーの選び方

汗を吸い上げて拡散させて乾燥させる

ベースレイヤーの役割は、かいた汗を吸い上げて素早く乾燥させること。それには吸汗性・速乾性の高い素材を選ぶことが重要になる。なぜ吸汗性・速乾性が必要かというと、 “汗冷え”を防ぐことにある。汗冷えとは、行動中にかいた汗が、そのまま乾かずに冷たくなり、休憩時など停滞した時に体を冷やしてしまうこと。体が冷えると低体温症になるリスクが高くなる。吸汗性・速乾性の高い素材だと、行動しながら乾かすことができるので、汗冷えしにくくなる。ほかのレイヤーは気温や天候によって脱いだり着たりすることがあるが、ベースレイヤーはどんな状況でも着続けるので、特に素材や機能性に注意して選びたい。

各種ベースレイヤー。いろいろな素材があるが、まずはいろいろ使ってみることで、自分との相性がわかる
各種ベースレイヤー。いろいろな素材があるが、まずはいろいろ使ってみることで、自分との相性がわかる

「吸汗性・速乾性の高い素材は、ポリエステル、アクリル、あとは各メーカー独自の化学繊維です。ただ、おすすめはメリノウールですね。速乾性は化学繊維に負けてしまうのですが、綿に比べれば早く、匂いがつかず、温度調節がしやすい。私がウールを使うのは、初めて行く山で暑いのか寒いのかわからない場合、あるいは山小屋泊で2日分の着替えを持って行くのは嫌な場合ですね。悩んだらウール、大失敗がないのがいいところです」(田中さん)

アイスブレーカーのメリノウール製ベースレイヤーには、快適に着られるさまざまな工夫がされている
アイスブレーカーのメリノウール製ベースレイヤーには、快適に着られるさまざまな工夫がされている

繊維自体に吸湿性があり、通気性と保温性を併せ持ち、抗菌防臭効果に優れた天然素材のウール。チクチクするから嫌、という人もいるかもしれないが、最近では自然な肌触りになるように加工された素材も登場している。

夏季にウールのベースレイヤー使用するなら生地が薄めのものを選ぼう。ウールは、速乾性は化繊に劣るが、ドライ系アンダーウェアを下に着ることで汗冷えしにくくなる(ドライ系アンダーについては次の項目で解説)。

困った時のメリノウール。薄手のロングスリーブなら高い汎用性で使い勝手がいい
困ったときのメリノウール。薄手のロングスリーブなら高い汎用性で使い勝手がいい

ベースレイヤー選びでの、もうひとつのポイントは、半袖か長袖か。単純に夏だと半袖を選びたいところだが、夏のアルプスだと少し事情が異なる。

「おすすめは長袖です。皮膚が露出していると、紫外線による日焼け、岩や樹木などによる擦り傷、虫刺されのリスクが高くなります。特に日本アルプスのように標高が高くなると紫外線が強くなるので、長袖がおすすめです。半袖が絶対だめというわけではなく、半袖+アームカバーという方法で肌の露出を抑える方法もあります」(田中さん)

ベースレイヤーに付加される機能としては、防臭、防虫、紫外線カットなど。6〜9月だとベースレイヤー単体で行動することが多いので、基本的な速乾機能を押さえた上で付加機能を考えよう。首の周囲が少し高くなっているものは日焼け防止と保温効果があり、フロントにジッパーが付いているものは温度調節がしやすい。

田中さんchoice

アイスブレイカー
スフィア2 ロングスリーブ ティー(メンズ)

アイスブレイカー/スフィア2 ロングスリーブ ティー(メンズ)

暑いシーズンでもメリノウールを心地よく着られる、夏向き素材のCool-Liteを使用した長袖Tシャツです。素材はリヨセルとメリノウールをブレンド。ともに吸湿性に優れるためサラリとした着心地で、リヨセルの特徴であるソフトでなめらかな風合いや接触涼感も感じられます。

価格 14,300円(税込)
サイズ S〜L
カラー 3色
詳細を見る

ミレー
モルフォ ジップ ショートスリーブ

ミレー/モルフォ ジップ ショートスリーブ

テクニカルハーフジップ・ショートスリーブタイプです。軽量で高い吸汗速乾性能を誇る「ポーラテック パワードライ」を採用。グリッド構造が通気性を高めつつ肌面の汗を効果的に吸い上げ、上位レイヤーへと素早く拡散します。長めのハーフジップ仕様は暑いときのベンチレーションとして重宝します。

価格 9,790円(税込)
サイズ XS〜L
カラー 5色
詳細を見る

ドライ系アンダーウェアの選び方

汗を肌から遠ざけて汗冷えを防ぐ高機能アンダー

ドライ系アンダーウェアコーナー。さまざまな製品がずらりと並ぶ
ドライ系アンダーウェアコーナー。さまざまな製品がずらりと並ぶ

レイヤリングでは、以前はベースレイヤーを一番下に着ていたが、現在ではその下にドライ系アンダーウェアを着るのが、トレンドかつ理にかなったレイヤリングだと広く知られている。ドライ系アンダーウェアは、汗を肌から遠ざけて、汗冷えを防ぐのに非常に有効だからだ。

「ドライ系アンダーウェアの共通したコンセプトが、汗を肌面から吸い上げてベースレイヤーに素早く移動させ、特殊な素材、構造によりベースレイヤーの汗が肌面に戻らないように工夫されていること。汗戻りがないので、汗冷えを抑えることができます」(田中さん)

ドライ系アンダーウェアの代表的なものが、ファイントラックのドライレイヤー、ミレーのドライナミックメッシュなどだ。

独自の撥水機能が特徴のファイントラックのドライレイヤー ベーシック
独自の撥水機能が特徴のファイントラックのドライレイヤー ベーシック

ここでポイントとなるのは、ドライ系アンダーウェアが肌から離した汗を、ベースレイヤーが吸水して素早く乾燥させるというところ。ふたつのレイヤーが連携することで、優れた機能を発揮する。これこそが、レイヤリングの妙だと言えるだろう。

「これらの製品は、着ているだけでは効果が発揮されません。すぐ上に着るベースレイヤーが、高い吸水速乾性をもっていないと、肌から離した汗が発散されずに肌に戻ってきてしまいます。また、汗を効率よく肌から離すために、できるだけ体にフィットしたものを選ぶことが重要です」(田中さん)

こうしたドライ系アンダーウェアの存在は、登山者の間でどの程度浸透しているのだろうか。

「どれくらいの人が使っているかといえば、好日山荘登山学校で行なっているスキルアップ講座の受講生ならほぼ100%。初級講座の受講生でも50%ぐらいはいます。ただし、メーカーにより素材、構造が異なるので、どれがいいかは意見が分かれていて、大絶賛する人がいる反面、効果を感じにくいという人も稀にいます。その人の感じ方や体質による部分もあると思いますが、私は大絶賛派ですね」(田中さん)

最近のドライ系アンダーウェアは女性用のラインナップも豊富
最近のドライ系アンダーウェアは女性用のラインナップも豊富

ドライ系アンダーウェアは、シャツタイプの長袖、半袖、ノースリーブのほか、パンツや靴下などもそろえているメーカーもある。まずはシャツで効果を試してから、いろいろそろえていくのがいいだろう。

田中さんchoice

ファイントラック
ドライレイヤー ベーシック

ファイントラック/ドライレイヤー ベーシック

ドライ系アンダーウェアの先駆けとなる製品です。ファイントラック独自の「撥水」技術によって、かいた汗は瞬時に肌から離れ、肌をドライにキープ。汗冷えを抑えます。2020年にリニューアルがなされてから、耐久撥水性や抗菌防臭性が上がりました。着心地がよく防臭効果が高いので、長期山行でもおすすめです。

価格 4,950円(税込)
サイズ S〜XXL
カラー 2色
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ミレー
ドライナミック メッシュ NS クルー

ミレー/ドライナミック メッシュ NS クルー

疎水性に優れ、熱伝導率の低いポリプロピレンをベースに、かさ高メッシュで編み上げることで肌面の汗を素早く吸収し、上位のベースレイヤーに拡散します。厚手のメッシュなので、汗を吸い上げたベースレイヤーを肌から遠ざけられ、肌面の冷えを防ぎ、ドライ感を保ちます。メッシュ自体の通気性が高いので、発汗量が多い盛夏や活動量の多いアクティビティのときに活躍します。

価格 5,060円(税込)
サイズ S-M、L-XL、XXL
カラー 4色
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取材にご協力いただいたお店

好日山荘 池袋西口店

所在地 〒171-0021 東京都豊島区西池袋3丁目27-12 池袋ウエストパークビル
営業時間 11:00~20:00
定休日 なし
公式サイトを見る 好日山荘 池袋西口店

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プロフィール

田中 敦(たなか あつし)

日本はもちろん海外での登山ガイドの経験も豊富。好日山荘登山学校校長。好日山荘池袋西口店勤務。公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅡ、Nature Instructors Academy of Japan所属

日本アルプスに登るためのウェアガイド

登山初心者にもわかりやすい登山ウェア選びの基本を、好日山荘登山学校校長の田中敦さんが解説。これを読めば、登山ウェア選びの悩みは即解決!

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