夏のひととき 鳥海山南麓のブナ帯にある二ノ滝渓谷に涼を求めて
鳥海山南麓、ブナの森に囲まれた二ノ滝渓谷。水や岩に素足で触れ、ひとときの涼をいただく小さなハイキングをご紹介しましょう。
写真・文=斎藤政広
鳥海山南麓のブナ帯に位置する二ノ滝の渓谷は、豊かな水が岩を侵食して形成され、美しい滝が連なっています。谷沿いには登山道が延び、月山沢渡渉点、千畳ヶ原を経て、御浜へとつながっています。今回は一ノ滝駐車場を起点に二ノ滝に向かい、渓谷でゆったりとした時間を過ごし、ぐるりと周回して戻ってくるコースをご紹介します。ゆっくり歩いても2時間ほどのプチハイキングです。
あずまやとトイレがある一ノ滝駐車場から出発。鳥居をくぐってやや下るように遊歩道に入っていきます。ミズナラやブナの混交林で始まりますが、まもなくブナ林に変化していきます。あがりこのブナを過ぎて、まもなく一之瀧神社へ。
神社を過ぎた所に一ノ滝の展望所への分岐があるので往復してみましょう。岩盤から流れ落ちる一ノ滝は、見ごたえたっぷりです。滝見物したら遊歩道に戻り、沢音を聴きながら先へ進みます。
ブナ林の道をしばらく歩けば二ノ滝の下部に出ます。少し開けているので、ここでゆったりとした時間を過ごしましょう(冒頭写真)。ぜひ素足になってみることをおすすめします。素足で岩に触れて歩くと、その気持ちよさと、素足の意外な安定感に気づくと思います。水に触れ、目をつぶって自然の音に耳を傾けながら、ゆっくり楽しんでください。きっとよい思い出になると思います。
存分に楽しんだら、二ノ滝の橋を渡り登山道に入って、二ノ滝の脇を登るように進みます。急な石畳の道で高度を上げて二ノ滝の上部に出て、ブナ林の道を進みます。
やがて分岐となり、上部に向かう登山道を見送って狭霧橋(さぎりばし)へ。狭霧橋からは岩を縫って流れる渓流が見下ろせます。その名の通り、しぶきとともに冷気が上がってくるのを感じます。橋を渡り、万助道への分岐に出ます。なだらかに下り、林道終点から出発地点の一ノ滝駐車場に戻ります。
さて夏の森を歩いていると、生きものとの出会いもそれなりにあり、楽しいものです。生きものとの出会いには、五感をはたらかせて、ゆっくりと歩くことが肝心。ここからは森で出会える生きものたちをご紹介しましょう。
大型のチョウ、カラスアゲハやクロアゲハの給水姿などが観察できます。カゲロウの仲間が生まれ、コケやキノコの仲間たちもさまざまな表情を見せてくれることでしょう。
道々歩いていると、さまざまな表情のタマゴダケが目につくようになります。
日当たりのよい山道にはホツツジが目立ちます。高山には花柱が上に曲がる株があるので、覚えておいて比較してみるとおもしろいでしょう。
ヒメミヤマウズラは樹林の下に生える、清楚な美しさと気品がある多年草。日陰の目立たないところでひっそりと咲いているのに出合うと、それはそれでうれしいもので、そっと挨拶している自分に気づくことがあります。
林道の終点では、クサギがみごとな花をつけていました。枝先一面に花がつき、林の中にひときわ目立って咲いていて、盛夏ではなかなか見られない光景でした。形もユニークで、その花に誘われてクロアゲハやカラスアゲハなどが吸蜜に訪れていました。枝や葉が傷つくと悪臭を発するので、ご注意を。
今回紹介したのは、二ノ滝の渓谷を反時計回りで巡るコースでしたが、はじめに狭霧橋までなだらかに山道を登り、あとはゆっくり下って二ノ滝で遊ぶという、逆向きのプランでもよいでしょう。
周辺情報ですが、一ノ滝駐車場へのアクセス途中に、湧水が出る胴腹滝があります。また、少し離れますが山村体験施設さんゆうには湧水の水場があり、おいしいお蕎麦もいただけます。宿泊は遊佐町の四季の森・しらい自然館などが利用できます。
MAP&DATA
コースタイム:一ノ滝駐車場~一之瀧神社~二ノ滝~狭霧橋~一ノ滝駐車場:約1時間40分
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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