「もしもーし、遭難しました」。携帯電話普及による安易な救助要請の増加に懸念

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20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた著者が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴る。安易な気持ちで奥多摩に登る登山者に警鐘を鳴らす書、ヤマケイ文庫『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』から一部を紹介します。現在は携帯電話からスマートフォンへとさらに便利に進化しましたが、本質的な部分は変わらないのではないでしょうか。

文=金 邦夫

頼りすぎは事故のもと

携帯電話は確かに便利ではあるが、登山の道具ではない。登山はあくまでも、自らの二本の足で、地球の重力に抵抗し山頂を目指すという、最もシンプルなスポーツなのだ。山に登るための装備はもちろん必要だ。その装備も近ごろではずいぶん性能がアップして、安全性も高くなってきている。ただ山においては「装備イコール実力」と錯覚されては困るのだ。

登山用のナビゲーションなども出ていると聞く。それらの機械は万能ではない。基本的には地図とコンパスと自分の経験に頼るべきだ。携帯電話なども、奥多摩の山では通じない箇所がほとんどだ。あまりそういうものに頼りすぎると事故の原因となる。

何年か前、冬の剱岳に登った関西のパーティが雪に閉じこめられ、動けなくなり無線で救助を要請した。大雪をついて富山県警の警備隊が救助に登っていくと、遭難者はテントの中で誕生パーティを開いていたなどと新聞で叩かれた出来事もあった。救助を要請するほうは食料もあるし、ただ救助隊を待っていればいいことなのだが、救助する側は命懸けで登っていくのだ。

救助要請の電話も、便利になればなるほど、その使用は慎重にしてもらわなければならない。

侮るな東京の山

侮るな東京の山
新編奥多摩山岳救助隊日誌

奥多摩のリアルがここにある。 山岳救助隊を20年にわたって率いた著者が鳴らし続ける警鐘。

金 邦夫
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侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌

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