古道の歴史的価値を楽しく発信。七時雨ロマンの会

■日本山岳遺産候補地を募集中！

「ふふふ。あっ、すみません。今でも思い出すと笑ってしまいます。それくらい楽しかったんです」

「七時雨ロマンの会」事務局長の畠山城司さんは、20年余りの活動を振り返りながらほほ笑んだ。会は、岩手県八幡平（はちまんたい）市の七時雨山周辺で、登山道整備や歴史と文化の発信などを行なっている。

その始まりは、地域の公民館で時折開かれていた「夜鍋会」と呼んだ集まりだった。「地元愛って言えばかっこいいんですが、飲みたいときになにか口実をつけてみんなで集まって、夜更けまで地域のこととかをだべるんですよ」と、畠山さんは懐かしそうに振り返る。

「地元のためになにかしよう」2001年のある日の夜鍋会でそんな会話になると、七時雨山の裾野を通る鹿角（かづの）街道が話題に上がった。街道は「流霞道（ながれしぐれみち）」とも呼ばれ、歴史は平安時代に遡る。江戸時代には盛岡藩が整備し重要な産業道路の役割を果たしたが、明治期の新道の開通に伴って使われなくなった。そんないにしえの道に再び光を当てようと、同年夏、有志約20人で踏査を試みた。

「最初は、やぶに覆われていて大変でした。それでも道中には地蔵や石碑といった貴重なものが残っていて物語を感じられました。興味深い伝説もある。そんな歴史的価値をもっと知ってもらいたいと、みんなで会をつくったんです」

鹿角街道のうち藩政時代の一里塚や、現地では「マンダ」と呼ばれるシナノキの並木がある4km区間で、刈り払い作業を毎年行なっている。けもの道同様だった古道は散策できるようになり、参加者を募ったガイドツアーや、地元の子どもたちを招いた自然学習会を開催。記念誌やシンポジウムなどを通して、歴史の記録や発信に力を注いできた。

原動力は、生まれ育った地元の山への大きな愛。高齢化が立ちはだかるが、「宝物を将来の子どもたちに残せるようにまだまだがんばりたい」と畠山さん。当初掲げた「ロマン」は色褪せていない。

★日本山岳遺産認定地 詳細：七時雨山 ［ 岩手県 ］七時雨ロマンの会 （2012年）

（『山と溪谷』2024年1月号より転載）