中高年登山者の運動生理学と体力不足の改善方法 ~長野県「登山Safety Book」より

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文=安藤真由子(ミウラ・ドルフィンズ)

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体力不足の改善方法

運動不足がもたらす体への負担

「夏山シーズンの遭難が増加している」と報告されていますが、みなさんは夏山シーズンが終わり、秋冬にどのような過ごし方をしていますか? 夏山シーズンと同じくらい登山を行なっている、もしくは登山以外のトレーニングを行なっている方はどれくらいいるでしょうか?

春夏の登山で筋力や体力が蓄積されても、秋冬で運動する機会が減ってしまうと、せっかく身につけた筋力や体力も一気に低下してしまいます。筋量は運動する機会が減って4週間後にはトレーニング開始前の量に戻り、さらに4週間経つとベースライン以下になるとの報告もあります。

次の夏山シーズンに今と同じレベル、もしくはそれ以上のレベルの登山を計画しているのであれば、秋冬にもトレーニングを計画的に行なうことが重要となります。ここでは、前項のトレーニングの理論をさらに具体的に記載していきます。

 

自宅でもできるトレーニング方法とセルフケア

秋冬も低山登山を定期的に行なうことが筋力や体力の維持には有効となりますが、上記の表2に示した登山を想定した体力トレーニングも合わせて行なうとよいでしょう。その具体的な方法を示したのが以下になりますが――。

重要なのは、行なっている運動が「どこの部分を鍛えているのか」、「登山の何に効果的なのか」を意識して行なうことです(特異性の原則)。そして楽に行なえるようになったら、回数やセット数を増やしていくことです(過負荷の原則)。

以下の①~⑤については、図2に方法を記載したので参考にしてください。また、①~⑥までの運動については動画でわかりやすく解説しているので、動画を見ながら実践してください。

毎日5分、家でもできる! 『登山体』の作り方(山と溪谷ch.)

①体幹(プランク)  
登山は、長時間、安定した姿勢で運動を行ないます。その際に重要なのが体幹(腹筋群、背筋群)であり、プランクを行なうことで鍛えられます。

②脚力(スクワット)  
登山のトラブルで最も多いのが「膝痛」ですが、膝痛は主に下山時に発症します。下山時に使われる筋とスクワットで鍛えられる筋が、ほぼ同じ部分だと言われるため、膝痛を防止するためにもスクワットを行なうことは有効です。

③臀筋群(ヒップリフト)  
鍛えづらい部分が下腿背面(臀筋群、ハムストリングス)です。ここを鍛えておくと下腿前面(大腿四頭筋)の働きに頼らず、歩くことができるようになります。

④⑤筋力+持久力(踏み台昇降、スロージョギング)  
登山は自分の体(体重)を上下に移動させる運動です。そのため、平地でのウォーキングでは負荷が足りない。自宅でもできる、筋力と持久力を同時に鍛えることができる方法が、踏み台昇降やスロージョギングです。
踏み台昇降は1日15分以上を目標に行なってください。また、スロージョギングはウォーキングよりも強度が高いものの、ジョギングよりは強度が低めです。そして膝への負担が小さい運動のため、膝痛が心配な中高年にも適した運動です。
ポイントは、かかとを地面につけずに小刻みに足踏みをすることです。自宅の中など、狭いスペースでも可能なのでおすすめです。

⑥セルフケア
トレーニングと合わせて行なってほしいのがセルフケアです。筋肉や関節が硬いと、トレーニングの効果が少なくなったりケガをしたりする可能性もあります。

図2.紹介しているトレーニング方法

 

「エクスハイク」のススメ

登山は、下肢だけではなく上肢の筋力や柔軟性も必要であるのと同時に、持久力も必要な運動です。それらを合わせてトレーニングできる「Exhike」という運動が、「全国山の日協議会」では紹介されています。

⇒【動画】「Exhike」(エクスハイク)で安全登山のためのからだ作りを

高齢者向けの「イージー」、一般向けの「ベーシック」、体力のある人向けの「ハード」という3種類の強度で作成され、それぞれ4分程度で行なうことができる運動です。3種類とも、序盤は身のこなし、中盤は転倒防止、後半は筋トレとして役立つように構成されています。

週に2~3回から毎日、または登山開始前の準備運動として行なうことがすすめられています。ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。

⇒次は登山者のトレーニングの現状について解説

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