山岳・風景写真の教科書 第1回 山で写真撮ろうぜ!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この連載は、月刊誌『山と溪谷』2024年4月号まで2年間続いた三宅岳氏の「山の写真撮影術」とは違った切り口で山の写真を撮る楽しみをお伝えします。楽しいと思えれば技術はおのずとついてくるものです。まずは1年間しっかりお付き合いください!

文・写真=菊池哲男

先生 菊池哲男さん

1961年東京生まれ。写真集の出版のほか山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師として活躍。4月に写真集『四季白馬 アルプスの楽園』(山と溪谷社)を上梓。

連載にあたって

山に登ったら誰でも写真を撮るから不思議です。写真が趣味じゃなくても気に入った風景に出会ったらパチリ、山頂に着いたら道標と一緒に、そして山頂から見える風景も。また山小屋に泊まったら小屋の前で、そして夕食でも! こうしてみると山と写真のなんと相性のよいことか! 撮った写真を見ることで、そのときにあった出来事がまるで紐解かれるように蘇る。そう、まさに山の写真日記。写真の本質は記録性にあるのは明らかでこれこそが写真の一番の魅力なのだと思います。だから本人さえよければ、実のところ技術レベルはどうだってよいのかもしれません。

一方で人の性として、撮った写真は他人に見せたくなる人が多いのも事実。今はSNSがその代表ですが、昔から写真を趣味とする人は写真展やフォトコンテストなどで写真をほかの人にも見てもらうことでその時の感動を共有していました。人さまに観てもらうなら、写真のレベルはどうでもよいとはなりませんね。どうせなら、喜ばれたり褒められたりする作品を撮りたいと思うのが人の常。さしずめSNSならたくさん「いいね!」をもらうことかもしれませんね。コンテスト作品を撮影するところまで、本連載では紹介する予定です。

スマホとデジタル一眼レフカメラの違いを知る

写真はどんな機材で撮る?

今となって最も一般的なカメラはスマホでしょう! 私もよくスマホで写真を撮ります。時にはプロ用のカメラで撮るよりもよく写ることさえあります。でもこれはあくまでもスマホで見たらの話。逆に言えばスマホ画面でしか写真を見ないのであれば、スマホに勝てる便利な機能の付いたカメラはありません。

ではなぜ写真のプロや写真を趣味にしているアマチュアの人は一眼レフやミラーレス一眼など大きなカメラを使うのでしょうか? それは画質にあります。光を受ける撮像素子(イメージセンサー)の大きさ(面積)が一般的なスマホと比べて数十倍も大きく、写真展やポスターなどで大きく写真を引き伸ばすと現場の空気感など情報量に差が出てくるのです。写真の物理的評価を「解像力」と「画質」という点で見ると、解像力は画素数に寄るのでスマホでもかなりのレベルにあります。

ところで最近になってフィルムカメラが見直され、新たなモノクロフィルムが発売されるなど一部でブームになっています。以前と比べてとても高価になりましたが、デジタルにはないアナログ感が若い人を中心に人気のようです。

登山の装備はカメラの機材以上に念入りに

山で写真を撮る前に知っておくべきこと

山で写真を撮るためには山を登らなくてはなりません。もちろんロープウェイやリフト、車などで標高を稼ぐこともできますが、そこに立てばその標高の自然が相手となります。基本は行動食、飲料、レインウェア、防寒具など通常の山装備に加えてカメラ、レンズ、時に三脚、フィルターなどの撮影機材を自分の肩で担いで自分の足で登る必要があります。機材がなくても山は登れますが、食料や飲料がないと登山は難しいですし、冬などは防寒具がしっかりしていないと撮影どころではなく、時には生命の危険すら出てきます。また、ザックの軽さは安全に繋がりますから、登山装備の軽量化はもちろん、撮影機材の軽量化にも取り組む必要があります。機材の持ちすぎに注意して山の撮影を楽しみましょう。

『山と溪谷』2024年5月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

Amazonで見る
楽天で見る

山岳・風景写真の教科書

『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

編集部おすすめ記事