山岳・風景写真の教科書 第2回 山の人物スナップ
今回のテーマは「山の人物スナップ」。スナップ写真とは速写という意味。カメラを首から下げておき、気に入ったところを気ままに撮るイメージです。記念・記録写真も含めると、スナップは普段、誰もが経験している身近な撮り方と言えるでしょう。
文・写真=菊池哲男
画面を左右に3~4分割
まずは人物を入れることで効果的に山岳風景を見せる方法を紹介します。フレーム画面のセンターに被写体となる人物を置いてしまうと見る目がそこに集中するため、山の風景への意識や印象が薄れてしまいます。そこで画面を左右に3分割ないしは4分割し、その端の位置に人物を置くと背景とのバランスが取れます。せっかく山にいるので、山岳風景も意識して撮ってみましょう。ひと工夫でよろこばれる一枚になります。
剱岳と太陽を4分割の位置に置いた
山頂直下の岩場を登る人物を3分割の位置に置いた
五竜山荘のキャンプ場にて発達した夏雲をバックに
連続撮影
次は、写り込む人物の大きさを変えることで、写真のサイズに合う最適なバランスの一枚を探します。ここではフレーミングを変えずに連続撮影していて、掲載は3カットですが、実際は10カット以上撮っています。
風景写真に人物が入ると、人物の大きさによって印象が変わります。カメラのファインダーや画面越しに撮影すると、どうしても人物を大きめに入れてしまいがちですが、実際に大きなプリントにすると人物が大きすぎて、記念写真になってしまうことはよくあります。
人物を点景で利用し、雄大さを表現
この写真サイズでちょうどよいバランス
人物が大きく記念写真向き
カメラは常に近くに
最後は、単なる記念写真ではなく、一部始終を撮り変化をつけた作例。以前よく撮影に通っていた北アルプス唐松岳頂上山荘でのワンシーン。五竜岳から縦走していくと、ちょうどスタッフが10時のお茶会を外でしていました。そこで、おそろいのTシャツのメンバーで記念写真を撮り、後ろ向きでも撮影。しばらくすると今日でバイト終了のスタッフが下山するというので皆で見送るシーンも撮りました。まさにスナップ。いつでもカメラを近くに持っていないと撮れない写真です。
(『山と溪谷』2024年6月号より転載)
プロフィール
菊池哲男(きくち・てつお)
写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
山岳・風景写真の教科書
『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。
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