第一章 始まりの山|オーストラリア大陸最高峰・コジオスコのSEA TO SUMMIT 前編
今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2023年4月、5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。今回はオーストラリア最高峰・コジオスコでの初挑戦について。
文・写真=吉田智輝
冒険の夜明け
私は「メリンブラ」という小さな街にいた。
シドニーからメルボルンに向かうバスが、ちょうど中間地点として停まる場所だった。この街の名はアボリジニの言葉で「2つの湖」を意味する。その名の通り、目抜通りが大小2つの湖の間に走っている。「レイク」という名前は付いていても、実際には潟湖-満潮になれば海と繋がるラグーンだった。
つまり、この街は海に接している。そして、旅の最終目的地にも近い。私がここにいる理由はただそれだけだった。
「メインビーチ」と呼ばれるこの浜からは、街がその湾口に位している南太平洋が一望できた。美しい円弧を描く浜に沿うようにして、静かに波が打ち寄せる。不規則なそのリズムが、私の心の奥底でうごめく熱いなにかと呼応しているように感じた。期待と不安が押し寄せては消え、また押し寄せた。2018年9月9日の朝だった。
軽やかな足取りで浜をうろつくカモメに寄り添われ、朝食のブリトーを頬張る。母からのカンパで買ったものだった。「寸志」と書かれたその封筒にはメモが添えられていた。
「低い山だとバカにせず、登山は登山です。気をひきしめてね!始まりの一歩目です。母からのカンパです。食事代にでもして下さい」。
ブリトーを握る手に目をやると、アウトドアウォッチが現在の場所と標高を伝えていた。
dst 0.00 km, alt 0 m(距離0.00km、標高0m)
まさに始まりの一歩目を踏み出した。
プロフィール
吉田智輝(よしだ・さとき)
1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。
海から七大陸最高峰へ -冒険家・吉田智輝の挑戦-
海から七大陸最高峰の登頂をめざすSEA TO SEVEN SUMMITSに挑戦中の冒険家・吉田智輝さん。現在は七大陸最高峰のうち5座に海から登頂している。彼はなぜ、この登り方に憑りつかれたのか・・・。本人が語る冒険譚をお届けします。
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