第一章 始まりの山|オーストラリア大陸最高峰・コジオスコのSEA TO SUMMIT 後編
今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2023年4月、5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。今回はオーストラリア大陸最高峰・コジオスコでの初挑戦の後編。いよいよロードを抜けてコジオスコの山中へ入る。
文・写真=吉田智輝
ロストバゲージ
下り基調のまっすぐな坂の先には美しい湖が見えた。4日目にたどり着いたのは、ジンバダインという街だった。野生のエミューにも遭遇しながら、5日目にはスレドボという街についた。コジオスコ国立公園内のスキーリゾートだった。
ここまで通算210kmの距離を移動し、獲得した累積標高は4623mだった。対して、現在地の標高は1300m。それだけアップダウンを繰り返し、足はすでにボロボロだった。
実は旅の初日から必要な道具がなかった。「ロストバゲージ」の洗礼を受けていたのだ。「一軍」のランニングシューズや足をケアするグッズも、すべてロストバゲージのなかで、遠征初日にワセリンと包帯を買って、なんとかずっと誤魔化していたのだ。
スレドボのホステルでロストした荷物を受け取ることができた。筋肉痛のクリームを全身に塗りたくり、雪山道具を整理する。2日後の夜10時ごろには、シドニーから帰国便に乗らないといけない。しかも2日後はストームの予報。実質明日しかチャンスはない。
そんなレベルの計画的余裕のなさ。それでも、失敗してもいいからとにかくやってみたいという衝動があった。拙速は巧遅に勝る。「巧速」ができない実力だった私にとって、とにかくやってみる、それしか選択肢はなかった。なぜオーストラリア大陸から挑戦を始めたかと言えば、スタートスモール。海と山が一番近く、標高も最も低いから。そしてなにより、自分が生まれた日にエベレストでシートゥーサミットを達成したオーストラリア人の登山家、ティム・マッカートニー=スネイプへの敬意を示すためだった。
その夜、リゾート価格のレストランでエミュー肉のステーキをほおばり、サミットプッシュの日に備えた。
プロフィール
吉田智輝(よしだ・さとき)
1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。
海から七大陸最高峰へ -冒険家・吉田智輝の挑戦-
海から七大陸最高峰の登頂をめざすSEA TO SEVEN SUMMITSに挑戦中の冒険家・吉田智輝さん。現在は七大陸最高峰のうち5座に海から登頂している。彼はなぜ、この登り方に憑りつかれたのか・・・。本人が語る冒険譚をお届けします。
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